ミッションとビジョンの違いとは?バリューを生み出す効果と具体例
最新更新日:2023/11/28
作成日:2023/01/31
成長するにつれて「組織がなかなかまとまらない」という課題に直面する企業は多いです。「マネジメントがうまくいかない」「メンバーのモチベーションが上がらない」「離職率が高い」などの問題は、経営理念や企業理念が社内にしっかり浸透していないせいかもしれません。そこで強い組織作りに欠かせない「ミッション」「ビジョン」「バリュー」それぞれの定義や役割を、事例とともに解説します。
目次
■「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の定義とは
(1)「ミッション」の定義
(2)「ビジョン」の定義
(3)「バリュー」の定義
■「ミッション」と「ビジョン」の違いとは
(1)Google社の「ミッション」と「ビジョン」 例
■「ミッション」「ビジョン」「バリュー」が今なぜ企業に必要なのか
(1)社員やメンバーのマネジメントがしやすい
(2)MVVは社員のエンゲージメント向上につながる
(3)経営者と社員・メンバー間の風通しがよくなる
■「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を社内に浸透させる対策
(1)まず管理職からMVVを浸透させる
(2)採用や人事制度とMVVの関連性を高める
(3)外部へのサポートを依頼する
■「ミッション」「ビジョン」「バリュー」策定・浸透の成功事例
(1)スターバックス
(2)ファーストリテイリング(ユニクロ)
■ミッション・ビジョン・バリューを明確にして人事戦略・事業戦略につなげよう
「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の定義とは
「ミッション」「ビジョン」「バリュー」はもともと「マネジメント」の発明者として知られるピーター・F・ドラッカーが提唱したものです。ドラッカーは著書「Managing in the Next Society(ネクスト・ソサエティ)」において、「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の重要性ついて以下のような解説を述べています。
『ネクスト・ソサエティにおける企業の最大の課題は、社会的な正統性の確立、すなわち価値、使命、ビジョンの確立である。他の機能はすべてアウトソーシングできる』
ドラッカーの提唱後、この考え方は多くの企業に広まり、企業理念や経営理念、行動指針などに活用されています。「ミッション」「ビジョン」「バリュー」は会社や事業の方針だけではなく、マネジメントや人事戦略などにも関連する重要な要素という意識が高まっています。
まずはそれぞれの定義について、あらためて振り返ってみましょう。
引用元:P・F・ドラッカー著・上田惇生訳「ネクスト・ソサエティ」(ダイヤモンド社、2002年)
(1)「ミッション」の定義
ミッション(Mission)はもともと「使命」という意味で、経営理念や企業理念におけるミッションは「企業が果たすべき使命」となります。つまり、企業が何を目的に事業を遂行しているのか、何のために社会に存在しているのかを表すものがミッションです。
(2)「ビジョン」の定義
「ビジョン(Vision)」は「展望」という意味ですが、経営理念や企業理念においては「企業として将来にどのような夢を描いているか」「この先どのような企業になることが理想か」を表します。「ビジョン」を掲げることでゴールとなる理想の会社像を共有できれば、すべてのメンバーが同じ目的をもって仕事ができるという考え方から「ビジョン」を設定する企業が多いです。
(3)「バリュー」の定義
「バリュー(Value)」とはもともと「価値」という意味ですが、「企業や組織で共有すべき価値観や方針」という定義が一般的です。「どのような価値観で働くべきか」を具体的にまとめた行動指針や行動規範などを「バリュー」として表すケースも多いです。
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「ミッション」と「ビジョン」の違いとは
「ミッション」「ビジョン」「バリュー」については、企業によってとらえ方が異なり、それぞれの違いが、ややわかりづらいともいわれています。特に「ミッション」と「ビジョン」はコンセプトのように抽象的な表現の企業も多く、役割が混同されがちです。企業の経営層や起業を考えている人は「ミッション」と「ビジョン」の違いについてしっかりと認識しましょう。
(1)Google社の「ミッション」と「ビジョン」 例
「ミッション」と「ビジョン」の違いを解説するために、Google社の「ミッション」と「ビジョン」を例に、違いを分かりやすく解説します。
『Google Mission Statement
Organize the world's information and make it universally accessible and useful
Google Vision Statement
To provide access to the world’s information in one click』
和訳は下記の通りです。
『ミッションは世界のあらゆる情報を整理して、誰でもアクセスでき使えるようにすること。ビジョンは世界の情報に1クリックでアクセスできるようにすること』
一見、同じ内容のようにも解釈できますが、ミッションは「今やるべきこと」にフォーカスしていて、ビジョンは「この先会社が成長して実現させたいこと」にフォーカスしているという違いがあります。まず、根本的な「ミッション」があり、そのために行動を起こすことで成長し、理想の「ビジョン」を実現する、という順序です。
また「ミッション」には、企業が社会に存在する意義という意味もあります。そのため、基本的に企業が成長しても、ミッションが変化するケースはほとんどありません。一方で「ビジョン」は「中期的な視点での理想」と位置づける企業も多く、組織や外部の状況にあわせて「ビジョン」を変更する企業もあります。
引用:Google Mission, Vision & Values Google Mission Statement
「ミッション」「ビジョン」「バリュー」が今なぜ企業に必要なのか
企業理念や経営理念を表す「ミッション」「ビジョン」「バリュー」(以下、MVVと略します)は、なぜ企業に必要なのでしょうか。
理由はいくつかありますが、最も重要なのはMVVが業績に影響することでしょう。ある調査によれば、企業理念の浸透している企業の約7割が、直近5年の業績が向上しているという結果が出ています。つまり企業として成功するためには、「MVVをもとに企業理念を社内に深く浸透させることが必要」といえるわけです。
MVVと業績の関連性には、3つの要因が考えられます。また、この要因はそのまま、MVV策定のメリットとも表現できるでしょう。「なぜMVVが企業成長に必要なのか」簡潔に解説します。
引用:経営者JP総研 自社の「理念、ビジョン、ミッション」に関する意識調査
(1)社員やメンバーのマネジメントがしやすい
組織のメンバーが同じ目的・方向性で動かないと日常的な業務と姿勢に齟齬が生まれ、マネジメントが難しくなります。現在、企業のグローバル化が進み、社員の人種や国籍も多様化しています。
また、働き方や働く目的なども人によって多様性が進む中、MVVによって企業の目標や行動指針が明確になっていると、マネジメントしやすい環境につながります。
例えば、一つ一つの業務の目的や目指す形を明確にし、行動指針を示すことで細かい指示を出す必要がなくなります。その結果、社員のモチベーションが上がり、成長につながるというわけです。
反対に、MVVが社員に浸透していないと、常に部門長やトップに意見を聞いたり、判断を仰いだりする必要が増えるでしょう。社員のモチベーションが下がるだけではなく、事業を進めるスピードが落ち、業績低下につながる可能性もあります。
(2)MVVは社員のエンゲージメント向上につながる
近年、企業の経営において「エンゲージメント」に注目が集まっていますが、実は、MVVは、エンゲージメントに大きな影響があるといわれています。「エンゲージメント(engagement)」とは、メンバーが組織に愛着心を持ち、組織とメンバーでの相互理解ができている関係性をさします。
ある調査によれば、「社員のエンゲージメントに影響を強く与えると思う要素は?」という問いに対して、「共感できる企業理念やミッション・ビジョン・バリュー」という回答が51%と1位をマークしました。
エンゲージメントが高い企業は、社員が愛社精神や思い入れがある証拠といえるでしょう。離職率も低くなる効果が期待できます。また、社員と会社のエンゲージメントが高い事実は、採用活動でも役立ちます。つまり、人事戦略を成功させる上でも、MVVは重要な要素といえるわけです。
ミッションとビジョンの違いでご紹介したGoogle社を例にすると、MVVを明確に設定し、社内に浸透させることに成功しています。 Google社はエンゲージメントの高い企業としても知られていて、ダイヤモンド社の「社員の「エンゲージメント」が高い企業ランキング」で2位になりました。エンゲージメントが高い理由のひとつは、「MVVをしっかり社内に浸透させている」からだといえるでしょう。
わかりやすい「ミッション」と「ビジョン」があることで、組織の役割や本来の目的が明確になり「自社を理想に近づけよう」というモチベーション向上につながります。
引用:【日本CHO協会】 「エンゲージメント」に関するアンケート
(3)経営者と社員・メンバー間の風通しがよくなる
「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を社内で共有できれば、社員から経営者や部門長などのトップに進言することも可能です。例えば、トップや上司の意見に納得がいかない場合でも、役職や入社時期などの順序を気にしていいづらいこともあるないでしょう。
しかし、社内に明確なMVVがあれば、「MVVにそぐわない」という理由で意見しやすくなります。フラットな社内環境にし風通しをよくするためにもMVVを活用できるというわけです。
「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を社内に浸透させる対策
MVVは策定するだけではなく、「いかに全社員に理解させるか・浸透させるか」が重要です。どんなに優れたMVVを設定して、わかりやすいコンセプトで表現しても、全社員に浸透させなければ意味がありません。「多種多様なメンバーを含む全ての社員・メンバーにどうやってMVVを浸透させるか」は、多くの企業が直面する課題ですが、これには3つの対策があります。
(1)まず管理職からMVVを浸透させる
あるアンケート調査で、経営理念を浸透させる取り組みで力点を置いている層を聞いたところ、管理職層(部長・課長クラス)が66.7%と最も多い結果となっています。MVVを社員ひとりひとりに浸透させるためには、日々の業務にMVVを落とし込むこと。そのためには、社員をマネジメントする役割の管理職にMVVが浸透していることがカギとなります。
(2)採用や人事制度とMVVの関連性を高める
「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を提唱したドラッカーによれば、ミッションを社員へ浸透させただけでは意味がなく、評価に落とし込むことが必須だといいます。つまり、社員の一次評価を行なう管理職がまず評価にMVVを紐づけることで、「MVVに基づいて行動しよう」という社員のモチベーション向上につなげやすくなります。
MVVをベースに人事制度を立てることで、社内にMVVを浸透させる方針をとっている事例が、アットコスメを手掛けるアイスタイル社です。アイスタイルでは、人事制度や社内の育成制度のすべてにMVVと関連付けるという取り組みをしています。採用時の人材の要件定義や社内の等級制度などもMVVをもとに作成。社員の表彰制度においてもMVVの要素を基準にしているそうです。
(3)外部にサポート依頼を検討する
ドラッカーは、著書で「MVV以外はすべてアウトソースできる」と述べています。しかし、MVVそのものについては社内で検討すべきでしょう。とはいえ、MVVをいかにわかりやすく表現するか、いかに全社に浸透させるかは、社内のリソースだけでは難しいのも事実です。MVVの策定や社内展開の経験を持つ外部リソースにサポートを依頼することも検討したいところです。
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「ミッション」「ビジョン」「バリュー」策定・浸透の成功事例
現在、多くの企業がMVVを設定し、自社Webサイトに掲載しています。社員に会社の存在意義を理解させるためといえるでしょう。同時に「顧客に企業コンセプトを伝える」目的もあるようです。
ここでは参考にしたいMVVの事例「スターバックスコーヒージャパン」「ファーストリテイリング」の2社をご紹介します。ただし、スターバックスもファーストリテイリングも、実は「ビジョン」については会社のWebサイトに掲載していません。理由は、企業の成長にあわせてビジョンを変えるためではないかと推察できます。「ミッション」のみ提示する企業が多い点も「ビジョン」との違いと言えます。
(1)スターバックス
従業員のエンゲージメントが高い企業として知られる、スターバックスコーヒージャパン。そのエンゲージメントのベースとなっているのが、「ミッション」と「バリュー」といわれています。スターバックスでは「Our Mission and Value」に基づいてスタッフ全員が行動することが、働きやすい環境やモチベーションの維持につながっていると考えられています。
スターバックスのWebサイトに掲載されている「Our Mission and Value」は次のとおりです。
『OUR MISSION
人々の心を豊かで活力あるものにするために―ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから
OUR VALUE
私たちは、パートナー、コーヒー、お客様を中心とし、Valuesを日々体現します。
お互いに心から認め合い、誰もが自分の居場所と感じられるような文化をつくります。
勇気をもって行動し、現状に満足せず、新しい方法を追い求めます。
スターバックスと私たちの成長のために。
誠実に向き合い、威厳と尊厳をもって心を通わせる、その瞬間を大切にします。
一人ひとりが全力を尽くし、最後まで結果に責任を持ちます。
私たちは、人間らしさを大切にしながら、成長し続けます。』
細かな行動指針はなくシンプルな表現ですが、スターバックスの「Our Mission and Value」が締めくくりの一文「私たちは、人間らしさを大切にしながら、成長し続けます。」からも、社員や顧客の人間らしさを尊重する姿勢がよく伝わります。
また、全国に1万店舗以上あるスターバックスの場合、立地条件などによって店舗ごとに顧客のタイプが異なる場合があるようです。しかし、ベースとなる「Our Mission and Value」があるからこそ、店舗独自の判断で最善の対応ができるのです。
さらに、メンバーや店舗を評価する側・評価される側がともに「ミッション」「バリュー」を理解していることで、店舗ごとに独自の対応をしても、正しい評価ができるというわけです。
エンゲージメントとマネジメントの両面でMVVがうまく効果を上げている事例といえるでしょう。
引用:Our Mission and Value|スターバックスコーヒージャパン
(2)ファーストリテイリング
「ユニクロ」「GU」を手掛けるファーストリテイリング社も、社員のエンゲージメントに力を入れている企業です。ファーストリテイリング社Webサイトの「FRグループ企業理念」ページに「ミッション」「バリュー」を掲載しています。
『─ Mission─
ファーストリテイリングはー
本当に良い服、今までにない新しい価値を持つ服を創造し、世界中のあらゆる人々に、良い服を着る喜び、幸せ、満足を提供します
独自の企業活動を通じて人々の暮らしの充実に貢献し、社会との調和ある発展を目指します
私たちの価値観 ─ Valueー
お客様の立場に立脚
革新と挑戦
個の尊重、会社と個人の成長
正しさへのこだわり』
「ミッション」と言えばコンセプトに近いかたちで短く表現するのが一般的ですが、ファーストリテイリング社は、詳細を解説するページを設けています。国内だけではなくグローバル展開する大企業として、社員一人一人の意識に浸透させたいという意識が感じられます。
また、ミッションとバリューに加え「私の行動規範(Principle)」として、社員の行動指針も詳しく掲載しています。
さらに、ファーストリテイリングの場合「ミッション」をベースとした「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」を、企業全体の「ステートメント(Statement)」としています。
引用:FAST RETAILING WAY (FRグループ企業理念)
ミッション・ビジョン・バリューを明確にして人事戦略・事業戦略につなげよう
MVVを明確にすることで、従業員に同じ理想像を描かせ、行動を高める効果が期待できます。また、取引先や顧客をはじめ、社会全体に企業の存在意義をアピールすることにもつながるでしょう。
MVVは従業員の愛社精神や企業の社会的価を高めて、人事戦略や事業戦略に役立つこともあります。まずは、経営層をはじめ、管理職がMVVを深く理解し、社員に浸透させ、社外へと広くアピールしましょう。
(株式会社みらいワークス FreeConsultant.jp編集部)