ミッションとビジョンの違いを知ればマネジメント力はもっと上がる
作成日:2021/02/12
企業が成長するにつれて新たな社員が増えると、「組織がなかなかまとまらない」という課題に直面します。経営者はもちろん、部長・課長といった管理職クラスでもこうした悩みを持つ方は多いのではないでしょうか。「マネジメントがうまくいかない」「メンバーのモチベーションが上がらない」「社員がすぐに退職してしまう」という問題は、経営理念や企業理念が社内にしっかり浸透していないことが根底にある可能性があります。
最近では経営理念や企業理念を組織やステークホルダーへわかりやすく提示する目的で、「ミッション」「ビジョン」「バリュー」というかたちで表現する企業が増えています。とはいえ自身の会社が定義している「ミッション」「ビジョン」「バリュー」について何となく知っている程度、という方が多いのではないでしょうか。
そこで強い組織作りに欠かせない「ミッション」「ビジョン」「バリュー」それぞれのベーシックな定義や役割をまとめました。またなぜこの3つが今企業に必要なのか、事例をもとに解説します。
目次
■「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の定義とは
(1)「ミッション」の定義
(2)「ビジョン」の定義
(3)「バリュー」の定義
(4)「ミッション」と「ビジョン」の違いとは
■「ミッション」「ビジョン」「バリュー」が今なぜ企業に必要なのか
(1)多様化する社員やメンバーのマネジメントがしやすい
(2)MVVは社員のエンゲージメント向上につながる
(3)経営者と社員・メンバーが対等に議論でき、風通しがよくなる
■「ミッション」「ビジョン」「バリュー」策定・浸透の成功事例
(1)スターバックス
(2)ファーストリテイリング(ユニクロ)
■「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を社内に浸透させる対策
(1)まず管理職からMVVを浸透させる
(2)採用や人事制度とMVVの関連性を高める
「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の定義とは
「ミッション」「ビジョン」「バリュー」はもともと「マネジメント」の発明者として知られるピーター・F・ドラッカーが提唱したものです。ドラッカーは著書「Managing in the Next Society(ネクスト・ソサエティ)」において、「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の重要性ついて以下のような解説を述べています。
『ネクスト・ソサエティにおける企業の最大の課題は、社会的な正統性の確立、すなわち価値、使命、ビジョンの確立である。他の機能はすべてアウトソーシングできる』
引用元:P・F・ドラッカー著・上田惇生訳「ネクスト・ソサエティ」(ダイヤモンド社、2002年)
企業のコンセプトや事業の最も根底にあるものが、使命(ミッション)、ビジョン、価値(バリュー)の3つということになります。ドラッカーの提唱後この考え方は多くの企業に広まり、企業理念や経営理念、行動指針などに活用されています。ここでは、それぞれの定義についてあらためてまとめました。
(1)「ミッション」の定義
ミッション(Mission)はもともと「使命」という意味で、経営理念や企業理念におけるミッションは「企業が果たすべき使命」となります。つまり企業が何を目的に事業を遂行しているのか、何のために社会に存在しているのかを表すものがミッションです。
(2)「ビジョン」の定義
「ビジョン(Vision)」は「展望」という意味ですが、経営理念や企業理念においては「企業として将来どんな展望があるか」「この先どんな企業になることが理想か」を表します。「ビジョン」を掲げることでゴールとなる理想の会社像を共有できれば、すべてのメンバーが同じ目的をもって仕事ができるようになります。
(3)「バリュー」の定義
「バリュー(Value)」とはもともと「価値」という意味ですが、「企業や組織で共有すべき価値観や方針」という定義が一般的です。どんな価値観で働くべきかを具体的にまとめた行動指針や行動規範などを「バリュー」として表すケースも多いです。
(4)「ミッション」と「ビジョン」の違いとは
「ミッション」「ビジョン」「バリュー」については、企業によってとらえ方に違いがあります。そのため、それぞれの違いがややわかりづらいという課題も。特に「ミッション」と「ビジョン」はコンセプトのように抽象的な表現の企業も多く、その役割は混同されがちです。まずは「ミッション」と「ビジョン」の違いを解説するために、例としてGoogle社の「ミッション」と「ビジョン」をご紹介します。
Google Mission Statement
Organize the world’s information and make it universally accessible and useful
(世界のあらゆる情報を整理して、誰でもアクセスでき使えるようにすること)Google Vision Statement
To provide access to the world’s information in one click
(世界の情報に1クリックでアクセスできるようにすること)
引用元:https://www.comparably.com/companies/google/mission
なおGoogleでは「ミッション」「ビジョン」とあわせて、「バリュー」として「グレイト(素晴らしい)で満足してはいけない」など社員の行動指針となる10項目を掲載しています。
一見同じことを言っているようにも見えますが、ミッションは「今やるべきこと」にフォーカスしていて、ビジョンは「この先会社が成長して実現させたいこと」にフォーカスしているという違いがあります。まず根本的な「ミッション」があり、そのために行動をして、成長して、理想である「ビジョン」を実現する、という順序となります。
また「ミッション」には、企業が社会に存在する意義という意味も持っています。そのため基本的に企業が成長しても、ミッションが変化するケースはほとんどありません。一方で「ビジョン」は「中期的な視点での理想」と位置づける企業も多く、組織や外部の状況にあわせて「ビジョン」を変更する企業もあります。
「ミッション」「ビジョン」「バリュー」が今なぜ企業に必要なのか
企業理念や経営理念を表す「ミッション」「ビジョン」「バリュー」(MVVと略します)は、なぜ企業に必要なのでしょうか。
いくつか理由がありますが、最も重要なのはMVVが業績に影響するということでしょう。ある調査結果によれば、企業理念の浸透している企業の約7割が、直近5年の業績が向上していると言います(※1)。つまり企業として成功するためには、MVVをもとに企業理念を社内に深く浸透させることが必要、と言えるわけです。
MVVと業績になぜ関連性があるのか、気になる方も多いのではないでしょうか。これには3つの要因が考えられます。
(1)多様化する社員やメンバーのマネジメントがしやすい
当然ながら組織のメンバーが同じ目的、方向性を持たないと、バラバラなことをしてしまいマネジメントが難しくなります。現在は企業のグローバル化が進み、社員の人種や国籍も多様化しています。また働き方や働く目的なども人によって多様化してきていますよね。組織内メンバーの多様化が進む中でも、MVVによって目標や行動指針が明確になっていれば、マネジメントしやすい環境につながります。
例えばMVVが社内で共有できていれば、業務の目的や目指すものが明確になります。さらに仕事を実践する上での行動指針もあるため、細かい指示を出さなくても社員ひとりひとりが判断できるようになります。その結果社員のモチベーションが上がり、成長につながるというわけです。反対にMVVが社員に浸透していないと、常に部門長やトップに意見を聞いたり判断を仰いだりすることが増えてしまいます。こうなると社員のモチベーションが下がるだけではなく、事業を進めるスピードが落ち業績低下につながる可能性もあります。
(2)MVVは社員のエンゲージメント向上につながる
最近では企業の経営において「エンゲージメント」に注目が集まっています。「エンゲージメント(engagement)」とは、メンバーが組織に愛着心を持ち、組織とメンバーでの相互理解ができていることを言います。実はMVVは、エンゲージメントに大きな影響があると言われています。ある調査によれば、「社員のエンゲージメントに影響を強く与えると思う要素は?」という問いに対して、「共感できる企業理念やミッション・ビジョン・バリュー」という回答が51%と1位になっています(※2)。
エンゲージメントが高ければ、社員は会社に愛着心や思い入れがあるということ。つまり離職率が低くなる効果も期待できます。またエンゲージメントが高いという事実は、採用活動にも役立ちます。つまり人事戦略を成功させる上でも、MVVは重要な要素と言えるわけです。
ミッションとビジョンの違いでご紹介したGoogle社の場合、MVVを明確に設定して社内に浸透させることに成功しています。わかりやすい「ミッション」と「ビジョン」があることで、組織の役割や本来の目的が明確になり「もっとこんな企業にしていこう!」というモチベーション向上につながります。
Google社はエンゲージメントの高い企業としても知られていて、ダイヤモンド社の「社員の「エンゲージメント」が高い企業ランキング」で2位になりました(※3)。このエンゲージメントが高い理由のひとつは、「MVVをしっかり社内に浸透させている」からだと言えるのではないでしょうか。
(3)経営者と社員・メンバーが対等に議論でき、風通しがよくなる
「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を社内で共有できていれば、社員から経営者や部門長などのトップに進言することも可能です。例えばトップや上司の意見に納得がいかない場合でも、役職や入社時期などの順序を気にして言いづらいこともあるのではないでしょうか?でも社内に明確なMVVがあれば、「MVVにそぐわない」という理由で意見をしやすくなります。フラットな社内環境にする目的でもMVVを活用することができるというわけです。
「ミッション」「ビジョン」「バリュー」策定・浸透の成功事例
現在多くの企業がMVVを設定し、自社Webサイトに掲載しています。ここでは参考にしたいMVVの事例を2つご紹介します。
(1)スターバックス
従業員のエンゲージメントが高い企業として知られる、スターバックスコーヒージャパン。そのエンゲージメントのベースとなっているのが、「ミッション」と「バリュー」とも言われています。スターバックスのWebサイトに掲載されている「Our Mission and Value」を見ると、細かな行動指針はなくシンプルな表現ですが、社員や顧客の人間らしさを尊重する姿勢がよく伝わります。
スターバックスではこの「Our Mission and Value」に基づいてスタッフ全員が行動することが、働きやすい環境やモチベーションの維持につながっていると言います。また全国に1万店舗以上あるスターバックスの場合、立地条件などによって店舗ごとに顧客が求めるものに違いが出てきましたが、ベースとなる「Our Mission and Value」があるからこそ、店舗ごとに独自の判断で最善の対応ができるのです。またメンバーや店舗を評価する側・評価される側がともに「ミッション」「バリュー」を理解していることで、店舗ごとに独自の対応をしても、正しい評価ができるというわけです(※4)。
エンゲージメントとマネジメントの両面でMVVがうまく効果を上げている事例と言えるのではないでしょうか。
(2)ファーストリテイリング(ユニクロ)
「ユニクロ」を手掛けるファーストリテイリング社も、ここ数年社員のエンゲージメントに力を入れている企業の1社です。
ファーストリテイリング社でも、自社Webサイトの「FRグループ企業理念」というページに「ミッション」「バリュー」を掲載しています(※5)。なお「ミッション」と言えばコンセプトに近いかたちで短く表現するのが一般的ですが、ファーストリテイリング社は、詳細を解説するページを設けています。ここは他の企業との違う点です。国内だけではなくグローバル展開する大企業として、社員一人一人の意識に浸透させたいという意識が感じられます。またミッションとバリューに加え「私の行動規範(Principle)」として、社員の行動指針も詳しく掲載しています。またファーストリテイリングの場合、「ユニクロ」のブランドコンセプトも、企業全体の「ミッション」がベースになっています。
このように「ミッション」や「バリュー」を会社のWebサイトに載せるところが多いですが、これは社員に会社の存在意義を理解させる目的がメインでしょう。また顧客に対して企業コンセプトを伝える、という目的もあるかもしれません。なおスターバックスもファーストリテイリングも、実は「ビジョン」については会社のWebサイトに掲載していません。この理由は、企業の成長にあわせてビジョンを変えるためではないかと推察できます。「ミッション」のみ提示する企業が多いという点も「ビジョン」との違いと言えます。
「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を社内に浸透させる対策
事例を見るとMVVを策定するだけではなく、「いかに全社員に理解させるか・浸透させるか」という点を重視していることがわかります。どんなに優れたMVVを設定して、わかりやすいコンセプトで表現しても、全社員に浸透させなければ意味がありません。多種多様なメンバーを含む全ての社員・メンバーにどうやってMVVを浸透させるか。多くの企業が直面する課題ですが、これには2つの対策があります。
(1)まず管理職からMVVを浸透させる
あるアンケート調査によれば、経営理念を浸透させる取り組みで力点を置いているものを聞いたところ、管理職層(部長・課長クラス)が66.7%と最も多い結果となっています(※6)。MVVを社員ひとりひとりに浸透させるためには、日々の業務にMVVを落とし込むことがゴール。日々の業務に落とし込むには、社員を直接マネジメントする役割を担う管理職がカギとなります。つまり全社員へ浸透させる前に、まず管理職を教育してMVVを浸透させる必要があるというわけです。
また「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を提唱したドラッカーによれば、ミッションを社員へ浸透させただけでは意味がなく、評価に落とし込むことが必須と言います(※7)。つまり社員の一次評価を行なう管理職がまず評価にMVVを紐づけることで、「MVVに基づいて行動しよう」という社員のモチベーション向上につなげやすくなります。
(2)採用や人事制度とMVVの関連性を高める
MVVをベースに人事制度を立てることで、社内にMVVを浸透させる方針をとっている事例が、アットコスメを手掛けるアイスタイル社です。アイスタイルでは、人事制度や社内の育成制度のすべてにMVVと関連付けるという取り組みをしています。採用時の人材の要件定義や社内の等級制度などもMVVをもとに作成。社員の表彰制度においてもMVVの要素を基準にしているそうです(※8)。
ドラッカーが提唱し、企業理念や経営理念のベースとして定着している「ミッション」「ビジョン」「バリュー」。会社や事業の方針決めだけではなく、マネジメントや人事戦略などにも関連する重要な要素という意識が高まっています。まずはこの3つの定義をあらためて知るとともに、特に混同しやすい「ミッション」と「ビジョン」の違いについて認識しておきたいところです。
ドラッカーが著書で「MVV以外はすべてアウトソースできる」と著書で述べている通り、MVVそのものについては社内で検討すべきでしょう。とはいえMVVをいかにわかりやすく表現するか、いかに全社に浸透させるかは、社内のリソースだけでは難しいのも事実です。MVVの策定や社内展開の経験を持つ外部リソースにサポートを依頼することも検討したいところです。
<参照>
※1:https://www.keieisha.jp/report/180123/
※2:https://www.j-cho.jp/enq/pdf/1905_01.pdf
※3:https://diamond.jp/articles/-/224821
※4:https://workmill.jp/webzine/20180724_starbucks3.html
※5:https://www.fastretailing.com/jp/about/frway/
※6:https://jinjibu.jp/article/detl/rosei/1696/
※7:https://visionguide.jp/blog001-19/
※8:https://www.recruit-ms.co.jp/issue/column/0000000650/
(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)
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