エンジェル投資家は、本当に起業家のエンジェルなのか?

作成日:2016/12/21

 

株式会社で起業する費用の中心値は700万円

株式会社で起業する費用の中心値は700万円

 

フリーランスや個人事業主の方が起業・独立を検討する際にもっとも頭を悩ますもののひとつに、どのようにして資金調達をするのかという問題があります。2006年の会社法改正によって株式会社で独立・起業する場合の最低資本金制限はなくなりましたが、実際には、登記費用、開業に必要なインフラ、事業開発費用、軌道に乗るまでの運営資金など、設立初期段階には相当な費用を必要とします。

仮に自宅を会社とし、パソコンや電話回線などは個人のものを流用するとしても、登記費用だけで約25万円はかかりますので、独立したばかりの起業家やフリーランスの方にはかなりの負担になります。また、日本政策金融公庫のアンケート調査によれば、2014年の開業費用の平均値は1,287万円、もっとも数の多い中央値で700万円となっています。

現実問題として、少なくとも数百万以上の自己資金がなければ株式会社での独立・起業は難しいといっていいでしょう。さらに、これらすべてを貯金などでまかなえればよいのですが、個人が用意できるお金には限界があります。そうした資金不足に悩む起業家に対して出資を行おうとする存在がエンジェル投資家です。今回はこのエンジェル投資家(以下、エンジェル)について、その役割や探し方などを、簡単にご紹介します。

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エンジェル投資家の役割とは何か

エンジェル投資家の役割とは何か

 

エンジェルとは、その名の通り、起業家に出資をする裕福な個人投資家のことであり、言葉の由来は、独立時の資金不足に悩む起業家にとって、投資をしてくれる方が天使に見えることからその名がついたという説もあります。起業家にとって、投資家としてのエンジェルの位置は、出資先として頼みやすい家族・親類・友人に次ぐもので、組織的な投資家であるベンチャーキャピタルの手前にあるとされています。

ちなみにベンチャーキャピタルとは、株式公開をめざす将来有望な企業などに対して、株式を取得することで投資を行い、株式公開後に株売却をすることで利益(キャピタルゲイン)を得る投資会社のことです。ただ、すべての起業家が株式公開を目指しているわけではありませんから、ベンチャーキャピタルからの出資を受けられるケースは限られてしまいます。

これに対してエンジェルは一般に、下記2点をメリットとして投資を行います。

(1)成長によって出資に対する配当(利益)が得られる
(2)エンジェル税制による所得税の減税措置が受けられる

「その程度のメリットで出資してくれるのか?」と疑問に思う方も多いでしょう。しかし、エンジェルは成功した起業家であることも多く、「後進の起業家を育てるために出資する」という側面があることも多いのです。特にフリーランスや個人事業主の方は銀行からの信用を得るのが難しいのでありがたい存在でしょう。通常、起業家から出資を申し込まれたエンジェルは、ビジネスアイデアやビジネスモデル、事業計画書、ビジネスの市場性・市場規模などを精査し、事業の将来性や有望性を判断します。そして面談を経て、成功が確実と判断されれば出資となります。この過程では、起業家は何の義務も負いません。つまり起業家にとって、エンジェルは出資の強い味方になりうるのです。

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エンジェル投資と創業融資との違い

創業資金を調達するためのもうひとつの手段として、日本政策金融公庫や各自治体による創業支援融資(制度融資)があります。たとえば日本政策金融公庫の新創業融資制度では、一定の条件を満たせば最大3,000万円(うち運転資金1,500万円)までの事業資金を低利で融資してもらうことができます。

しかし実際には、そこまでの金額を融資してもらうことは困難で、資本金の2倍程度が貸付の限度額となるケースが多いようです。というのも、これらの融資は無担保・無保証人とした制度が多く、将来の返済能力を測る指標のひとつとして資本金を参考にするからです。ですから、かつて話題になった1円株式会社のように極端に低い資本金しか用意できない場合、与信の問題から必ずといっていいほど審査に落ちてしまいます。また、仮にこれらの創業融資を受けられたとしても、定期的に元本と利子を返していかなければなりません。

これに対して、エンジェルは出資の形で起業資金を提供してくれます。言うまでもありませんが、出資とは会社に投資をしてもらうことであり、会計上は「資本」に分類されます。一方、融資の場合は借入と同様「負債」に分類されます。要するに、出資は資本なので、返済の義務はないと同時に利子を払う必要もないということです。対して、融資は負債なので、元本と利子の返済義務が生じるということです。つまり、乱暴な言い方をすれば、エンジェルは倒産による出資金の全損というリスクを承知の上で起業家に投資をしているわけです。

これがエンジェル投資と創業融資の最大の相違点です。

 

エンジェル投資家の探し方と見分け方

エンジェル投資家の探し方と見分け方

 

資金不足に悩む起業家にとって、エンジェルは非常に心強い存在です。では、そんな天使のような人をどのようにして探せばいいのでしょうか?もっとも一般的な方法は、起業家とエンジェルとのマッチングサイトで自分の希望にあった出資情報を見つけることです。ただ、こうしたサイトのなかにはエンジェルの前提条件を無視する「エセエンジェル」が紛れ込んでいますから、注意が必要です。たとえば、「事業に失敗しても投資を返還する義務」を求めているような投資家には要注意です。

先ほど述べたように、投資は投資家が失敗のリスクをとるわけですから、事業に失敗した場合の出資金損失は起業家ではなく投資家が負うべきものです。起業家に返還義務を課すのであれば、投資ではなく融資というべきですし、さらにいえば、元本保証を条件にしているのは出資法違反の可能性もあります。

また、「事業に参画する権利」を条件とするエンジェルにも気をつけたいものです。確かに、成功した起業家がエンジェルになった場合、その経営経験を生かして出資先にアドバイスを行うケースはあります。それは、先輩起業家が後輩起業家を成功に導くためのものです。しかし、マッチングサイトで見つけたエンジェルすべてに起業経験があり、的確なアドバイスをしてくれるとは限りません。何よりも、人となりすらよくわからない投資家を取締役などに迎え入れることは、起業家自身が非常に高いリスクを負うことになります。

マッチングサイト以外では、人材企業や地方自治体、経済団体などが開催する起業家と投資家の交流会やイベントでエンジェルを探すという方法があります。この方法の最大のメリットは、やはり起業家が投資家と直接出会えることです。このほかにも、尊敬できる先輩格のベンチャー起業家に手紙を書く、身近な経営者に相談して情報を得るというやり方もあります。

しかし、いずれの方法を取るにせよ、起業を必ず成功させるという信念としっかりした事業計画、そして何よりエンジェルの心を動かす仕事に対する熱意が必要なことは言うまでもありません。

 

エンジェルは起業家にとって資金調達の上で非常に心強い味方ですが、日本ではまだまだ真のエンジェルは少ない状態にあります。平成26年に開催された第2回経済財政諮問会議によれば、アメリカのエンジェル投資額約2.3兆円に対し、日本はわずか9.9億円、投資件数はアメリカの6万7,000件に対し日本は45件にとどまっています。また、エンジェル投資家の人数にいたっては、アメリカの26万8,000人に対して日本はわずか834人となっています。実際にはこの調査に反映されていないエンジェル投資もありますが、アメリカと日本の差は歴然としています。

しかし、ネット上でのマッチングサイトには、多数のエンジェルが登録しています。なかにはとてもエンジェルとは呼べない投資家もいて玉石混交ではありますが、エンジェル投資家情報が少ない日本では貴重な存在といえます。こうしたサイトを利用する際には、安易に出資情報に飛びつくのではなく、じっくりと相手の条件や反応を見て、良きビジネスパートナーを選ぶことがなによりも大切です。

 

(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)

 

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