政府が6万人増の目標を明言!地方起業家の意外なメリット・デメリット
作成日:2018/12/12
地方起業家を目指す人に向けた育成プログラムも種類が増えてきました。地方起業家をとりまく状況をふまえて、地方起業家のメリット・デメリットのほか、地方起業家をサポートする取り組みについて解説します。
目次
■地方起業家の種類とは? Uターン起業のほかIターン起業やJターン起業も登場
(1)地方起業家が地方で起業する目的
(2)実際に地方で独立・起業する人の現状
(3)実は地方は小中学校での起業家教育が進んでいる
(4)政府が今後行なう地方起業家の支援策とは
■地方起業家のメリットは実はたくさんある
(1)競合が少ない
(2)地方創生やまちづくりに直接関わることができる
(3)独立・起業にかかるコストを抑えられる
(4)ワークライフバランスが実現しやすい
■地方起業家としておさえるべき3つのデメリット
(1)地元との連携が難しいことがある
(2)独立・起業準備期間がかかる
(3)情報収集やネットワーク構築が難しい
■地方起業家の育成・支援事例
(1)地域おこし協力隊(総務省・一般社団法人JOIN)
(2)地域イノベーター留学(NPO法人ETIC)
(3)地方創生ファンド(パソナグループ)
■まとめ
地方起業家の種類とは? Uターン起業のほかIターン起業やJターン起業も登場
実は今、地方での独立・起業を目指す「地方起業家」に追い風が吹いています。政府は2018年6月にまとめた「まち・ひと・しごと創生基本方針」案の中で、今後6年間で地方起業家・就業者をあわせて30万人増(地方起業家は6万人増)を目指す、という明確な数値目標を掲げました。今後地方起業家を目指す人にとっては、これまで以上に支援が広がることが予想されます。
政府が地方起業家を増やす方針を打ち出したのは、東京圏(東京・神奈川・千葉・埼玉)への人口集中と地方の人口減・高齢化が深刻化しているということが背景にあります。そのため地方での独立・起業と言えば、「人口が減っていく地域でビジネスを立ち上げるのは厳しいのでは」というイメージを持つ方も多いかもしれません。でも地方で独立・起業するということは、実は意外なメリットもあります。競合が少ないことを活かして、東京圏ではうまくいかなかった人が、地方起業家として成功したという事例も。
地方で独立・起業する場合、出身地など馴染みのある地元で起業するいわゆる「Uターン起業」が一般的ですが、ほかのパターンもあります。都市部から新天地を求めて地方で起業するのが「Iターン起業」。さらに、地方出身者が異なる地方で独立・起業する「Jターン起業」というパターンも最近では登場しています。
最近では、こうしたUターン起業やIターン起業、Jターン起業の誘致に力を入れる地方自治体も増えています。東京など都市部で開催される地方起業家向けセミナーも多く、都市部にいながら地方起業に関する情報収集が可能になっています。
たとえば、2018年8月には新潟県での起業をテーマにした起業セミナーが東京・有楽町で開催されました。実際に新潟で起業した人のトークや、にいがた産業創造機構職員による相談会、参加者と主催者が意見交換できる懇親会もありました。ほかにも地方創生イノベータープラットフォームINSPIREでは、東京や大阪で地方起業家を目指す人向けに「地域スタートアップセミナー」を開催しています。
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(1)地方起業家が地方で独立・起業する目的
地方で独立・起業する目的として、まず思いつくのが「地方資源を活かすビジネスを新たに作る」というパターン。地方資源とは、地方の名産品や観光資源を指します。特にIターン起業では都市部で培った経験を地方資源の活用に活かす、というケースも多いようです。こうした起業は地方経済の活性化につながる期待が大きく、今後政府や自治体ではこうした目的の地方起業家を支援する動きを強化させることが予想されます。
その一方で「都市部で行なっていたビジネスを地方で展開する」というパターンもあります。主に家族の事情(介護や育児)などをきっかけに、地方での独立・起業を目指すというケースが多いようです。現在ではITツールを活用すれば、都市部と同じようなフットワークで仕事ができる時代。こうした環境の進化も地方での独立・起業がしやすい理由のひとつと言えます。なおこのパターンでも地方で新たな人材を採用するなど、地方経済へのプラス効果が見込まれます。
(2)実際に地方で独立・起業する人の現状
実際に現在地方起業家はどのくらいいるのか、気になるところです。中小企業庁がまとめた資料によれば、2015年度の都道府県別開業率の上位は以下の通りです。
1位 沖縄県 7.0%
2位 埼玉県 6.8%
3位 千葉県 6.5%
4位 神奈川県 6.3%
5位 福岡県 6.1%
5位 愛知県 6.1%
7位 大阪府 5.9%
8位 東京都 5.6%
東京都が8位というのは意外ですが、沖縄県の開業率が1位というのも意外な結果と言えます。沖縄県の場合、飲食店や宿泊施設など小規模な起業が多いという背景があるようです。また沖縄県は観光を中心に地方の中でも経済が好調で、人口増加率が高いということも影響していると思われます。ただ沖縄県を除けば、東京圏と地方の大都市(福岡・愛知・大阪)が上位という結果。つまり人口減が深刻化する地方ではなかなか開業率が上がっていないという状況がわかります。
(3)実は地方は小中学校での起業家教育が進んでいる
これも意外に感じる方多いかもしれませんが、地方の小学校や中学校のほうが、起業家教育を行なっているというデータもあります。2016年に野村総研がまとめたレポートによれば、小中学校での起業家教育実施率を都道府県別に見ると、秋田県、福井県、静岡県、広島県が全国の中で特に実施率が高いことがわかりました(上位の都道府県は、学力調査でも上位となっているそうです)。具体的な起業家教育の実施内容は、起業家や経営者を招いた講演のほか、起業体験や地元企業との共同プロジェクトが上位となっています。
出典:平成27年度起業・ベンチャー支援に関する調査 起業家教育の普及等に関する調査(株式会社野村総合研究所)
(4)政府が今後行なう地方起業家の支援策とは
冒頭で紹介した「まち・ひと・しごと創生基本方針2018」(2018年6月15日に閣議決定)。この中では、主に3つのテーマで数値目標を掲げています。
(1)UIJ ターンによる起業・就業者創出(6年間で6万人)
(2)地域おこし協力隊の拡充(6年後に8千人)
(3)女性・高齢者等の活躍による新規就業者の掘り起こし(6年間で24万人)
こうした目標に向けた施策として交付金・助成金を活用した支援のほか、地方自治体と起業希望者のマッチングシステムの構築などを掲げています。また社会人の学び直し(リカレント教育)推進や、ビジネスプランコンテストを通じた地方起業家教育にも力を入れていく方針も打ち出しています。今後6年間、政府や地方自治体が具体的にどのように取り組み、結果を出せるかどうか注目が集まっています。
地方起業家のメリットは実はたくさんある
一般的には都市部での独立・起業のほうがネットワークが広がりやすいなどの理由で進めやすいというイメージがあります。しかし、実際には地方起業家ならではのメリットも多いのです。あらためて地方起業家のメリットを4つのポイントに絞って紹介します。
(1)競合が少ない
実は地方起業家を目指すメリットのひとつが、都市部と比べて競合となる企業が少ないという点。都市部で独立・起業した場合、ジャンルによっては大企業が競合となってしまったり、次々と同じようなビジネスを立ち上げる企業が後に続いたりということもよくあります。
一方、地方では、企業数が少ないため競合となりにくい状況があります。ある中小企業向け経営コンサルティング会社が、拠点を地方都市に移したことで、ビジネスが軌道に乗ったというケースも。ただし、この場合は地方の特性を活かし「〇〇エリアに強いコンサルティング会社」と差別化を図ったことが成功の理由だったようです。
(2)地方創生やまちづくりに直接関わることができる
「地方の活性化に関わりたい」「まちづくりに関わる仕事がしたい」という地方起業家も多いようです。こうしたビジネスを手掛けることができるのは、地方起業家ならではのメリットと言えるでしょう。
たとえば、地方の名産品や観光などの地方資源を全国に広めるブランディング活動に関わったり、地方が抱える課題を解決するためのソーシャルビジネスを立ち上げたりという社会起業家も増えています。また都市部からのIターン起業では、都市部で培ったビジネス経験やITスキルなどを地方活性に活かせるというのも地方起業の大きな特徴です。
(3)起業にかかるコストを抑えられる
地方起業家向けの助成金・補助金もあります。例えば中小企業庁の「地域創造的起業補助金」制度。これは新たなニーズや経済活性化につながる事業に対して出る補助金です。全国が対象になっていますが2018年度の採択案件121件のうち約8割が地方(東京圏以外)の案件。地元の名産品や技術を活用したビジネスが多く採択されました。なお和歌山県など一部の地方自治体では、移住して独立・起業する人向けに「移住者起業補助金」制度を設けているところもあります。
また、よく言われる地方起業家のメリットが「独立・起業にかかるコストが抑えられる」という点。オフィス賃料や人件費などは都市部と比べて低いことが多く、スタートアップ時の事業資金を抑えられるというのも地方起業家にとっては大きなメリットと言えます。ほかにも地方に特化したクラウドファウンディング(インターネットを通じて資金調達を行なう仕組み)を利用する方法も。通常のクラウドファウンディングでは、他の募集も多く埋もれてしまいがちです。一方で地方に特化した案件として募集することで、地元企業や出身者、地域を応援する人などから協力を得やすいというメリットがあります。
(4)ワークライフバランスが実現しやすい
地方起業家として地方に移住する場合、ワークライフバランスの実現がしやすいという点もメリットのひとつとして挙げられます。最近では人口減少の危機感を持つ地方自治体が、子育て世帯への支援を手厚くするケースも増えています(子どもの医療費助成、出産時の一時金支給、保育料の助成など)。また東京圏と比べて保育所に入りやすかったり、Uターン起業なら実家のサポートが受けられたりと子育てと仕事の両立がしやすいというメリットもあります。
実際に都市部に住む人は、子育て環境の見直しのために地方移住を考えるケースも多いようです。2017年に東京圏在住の20~30代の人へ実施したアンケート結果では、移住に興味がある理由を聞いたところ、下記のように子育て関連の項目が上位となっています。
1位 「山・川・海などの自然にあふれた魅力的な環境」(50.2%)
2位 「子育てに適した自然環境」(33.4%)
3位 「子どもの教育・知力・学力向上」(22.2%)
出典:「若者の移住」調査(一般社団法人 移住・交流推進機構(JOIN))
地方起業家としておさえるべき3つのデメリット
一方で地方起業家には当然ながらデメリットもあります。馴染みのない土地で新たなビジネスを立ち上げる際、地元の協力を得るための努力が必要。代表的なデメリット・課題を3つ紹介します。
(1)地元との連携が難しいことがある
地方で独立・起業するときに大きな壁となりうるのが、地元企業や関係者との連携。それまでその地域との馴染みがないIターン起業やJターン起業の場合、ビジネスを立ち上げる際に取引先や協力会社との連携をゼロから築く必要があります。地方によっては地元意識が高いこともあり、よそ者扱いされてうまくコミュニケーションできないというケースも。
また、地方ごとに、ビジネスの習慣に違いがあります。都市部から地方に移って独立・起業する場合こうしたビジネスの進め方や考え方の違いに苦労した、という起業経験者もいるようです。地方起業家に向けて、どうしても地方活性化につながるという期待が集中するのも事実。
そのため、すぐに結果を出すことを求められ、思うような結果が出ないと支援がストップすることも。地方起業家への支援はスタートアップ時には手厚い支援がある一方、継続に対する支援はまだあまり多くありません。つまり地方起業家にとって、ビジネス継続をするということが大きな課題となっています。
(2)起業準備期間がかかる
都市部在住者が現在住んでいる地域で独立・起業を目指す場合、「今の仕事を続けながら、夜間や週末の時間を使って独立・起業の準備を進める」というのが一般的です。ところが都市部から地方へ移って独立・起業を目指す場合、どうしても移動時間がかかるため思うように独立・起業準備が進まないことも。
また、地方起業家としてさきほど述べた地元との調整のほか、地方移住の準備など、独立・起業以外にもやるべきタスクがたくさんあります。つまり一般的な独立・起業と比べて準備に時間がかかるという点はデメリットと言えます。
また人口減などで経済が活性化していない地方で独立・起業する場合、地域内でのビジネスだけでは限界があります(特に小売業など)。地方の状況を把握した上で、どうビジネスを成長させるかについて地方起業家ならではの戦略が求められます。
(3)情報収集やネットワーク構築が難しい
都市部では起業家同士の交流会やセミナーなどが頻繁に行なわれており、起業関連の情報を集めやすく、人脈も広がりやすいと言えます。ところが地方にいながら独立・起業を目指す場合、都市部よりも限られた範囲で情報収集・ネットワーク構築をしなければならない点はデメリットのひとつ。オンラインで情報を得られる機会も増えていますが、自分なりに地方にいながら情報を集めるスキルが求められます。
地方起業家の育成・支援事例
政府が全国レベルで増やそうとしている地方起業家。一方では企業やNPO団体など、すでに地方起業家を増やすための育成プログラムを設けているところもあります。リスクを抑え、より広い視点を持って地方起業するためにはこうした育成プログラムは有効。そこで代表的な地方起業家育成プログラムを紹介します。
(1)地域おこし協力隊(総務省・一般社団法人JOIN)
一定期間(1~3年)地方に移り住み、地方の抱える課題に取り組む活動を行なう「地域おこし協力隊」。総務省が地方創生の施策として取り組んでいます。地方で独立・起業を目指す人にとって、いきなり地方に移り住んで独立・起業するのはリスクがあります。一方地域おこし協力隊なら、一定期間報酬を得ながら地方での活動ができ、独立・起業準備に役立てられるというメリットがあります。「地域おこし協力隊」の募集をかけている地方自治体とのマッチングシステムもあります。2015年には地域おこし協力隊の方向けに、起業家育成プログラム「ローカルベンチャースクール」を実施した事例もあります。
(2)地域イノベーター留学(NPO法人ETIC)
主に地方で働きたい東京圏の学生や若手社会人を対象に、地方の課題解決に取り組む教育プログラム。講義や見学・体験、ワークショップを通じて地方活性化スキルを学ぶことが狙いです。修了者が実際に地方起業を目指す場合のサポートプログラムも提供しています。
(3)地方創生ファンド(パソナグループ)
地方起業家向けの支援プログラムとして2017年に開始。地方創生につながる事業アイデアを公募、実際にアントレプレナー社員として新規事業化を目指すというものです。立ち上がった事業によっては、地方創生ファンドとして出資して法人化するという可能性もあります。
まとめ
政府としては人口の一極集中を抑えてして活性につなげたい、という狙いで地方起業家の増加を目指しています。こうした追い風の中地方で独立・起業したいニーズも広がりつつあり、若手からシニアまで幅広い世代で地方起業家を目指す人が今後も増えることが予想されます。
地方起業にはメリットとデメリットともにありますが、東京圏での独立・起業にこだわり続けるよりも、多くのチャンスが広がっているという見方もできます。すでに、民間企業やNPOなどでも地方起業家向け育成プログラムを展開しているところもあり、地方での独立・起業にチャレンジできる機会は増えています。移住前に手始めとして地方企業の事業支援を請け負う副業をマッチングするエージェントなどに登録し、目当ての地域の事業の参画するのも一つの手です。
多様な働き方が進む中で、都市部と地方を分散型オフィスととらえ両方使い分ける、という地方起業家も出てきているようです。都市部だけではなく地方でもコワーキングスペースが増えていますし、ITを使えば働く場所をフレキシブルに変えることは難しくありません。地方の大学などで社会人が学び直し、それをきっかけに地方で働いてもらうという取り組みも進んでいるなど、多様な考え方が生まれています。
今後は地方起業家と言いつつも都市部と地方を自由に行き来し、それぞれの良いところを活かした新しいビジネスを展開するケースも増えてくるのではないでしょうか。
(株式会社みらいワークス FreeConsultant.jp編集部)