小売接客業のレジを一変させる可能性のあるAIの進化
作成日:2017/09/15
POSレジの登場でセルフレジが可能になった
一般社団法人日本スーパーマーケット協会などがまとめた、「平成28年 スーパーマーケット年次統計調査 報告書」によると、近年セルフレジの導入が進んでいるようです。
もともとレジスターは、1878年、アメリカのジェイムズ・リティというカフェの経営者が発明したもので、経営するカフェの売上金のごまかしや不正防止のために作られました。その後、1902年には電動化、1919年には「金額表示」「レシート発行」「取引記録」「売上合計」「取引回数の記録」というレジスターの5大機能を搭載した機械が開発されました。
これにより小売店における従来の対面販売方式から、現在のスーパーマーケットのような陳列販売方式が可能になったわけです。そして1978年、国際的な統一商品コードが日本にも導入されるようになると、バーコードによる商品情報の読み取りが可能となり、レジスターは「POSレジ」へと一気に進化しました。コンビニなどでおなじみのこのシステムは、読み取りによる会計の速度を早くしただけでなく、コンピュータと連動して商品の販売時点情報管理(POS)が可能になりました。
これにより商品管理などが自動化され、不良在庫の一掃や欠品の防止が可能になりました。また、会計はバーコードを読み取り機にかざすだけなので、セルフレジとすることもできるようになったのです。
出典:一般社団法人日本スーパーマーケット協会「平成28年 スーパーマーケット年次統計調査 報告書」
セルフレジよりもセルフ精算レジへの志向が高い小売業界
前出の報告書によれば、一般社団法人日本スーパーマーケット協会、オール日本スーパーマーケット協会、一般社団法人新日本スーパーマーケット協会の加盟店舗のうち、セルフレジを導入しているのは、全体の22.1%。また、今後セルフレジの導入を拡大したいとするのは20.4%となっています。
セルフレジが導入される背景には、店舗側の人員削減が狙いであるともいわれています。また、システム的にもファストファッションのGU(ジーユー)のように、POSレジ形式からさらに発展したケースも登場しています。このシステムは、お客様が商品を一つひとつスキャンするのではなく、お店のボックスに商品を入れると、それらをすべて瞬時に読み取ることができるというものです。
ただし問題は、いまだに高いといわれる商品のICチップのコスト。今後、176店舗に導入を予定していますが、課題である商品電子タグの価格は1枚10円ともいわれており、劇的なコストダウンが実現しなければ、他の小売業への普及は難しいと考えられます。
むしろ現段階の小売業界の意向としては、店側が購入商品を読み取り、精算だけをお客様が行なう「セルフ精算レジ」への導入意欲が高いようです。「セルフレジ」と異なる点は、商品読み取りを店側・買い物客側どちらが行なうかという点。実際、前出報告書によれば、今後セルフ精算レジを拡大したいとする店舗の割合は、セルフレジを拡大したいとする店舗の約2倍、45.0%にものぼっています。
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セルフレジ、歓迎″されない“理由と歓迎”される“理由。そして″必要”な理由
では、実際にセルフレジを利用する側である買い物客は、どのような反応を示しているのでしょうか。
2017年3月の、読売新聞が運営する掲示板『発言小町』には、「せっかくセルフレジになったのに・・・」というスレッドが立ち、「早く済むのにセルフレジをさけてわざわざ時間のかかる通常レジに並ぶ」お客様が多いことを不思議がっていました。その最大の理由は、ビジネス系サイト『Business Journal』が指摘するように、「料金は同じなのに、セルフレジによって客側の負担だけが増えている」ことでしょう。本来、レジスタッフが行なう作業を買い物客自身に任せるのですから、″セルフレジ割引″など具体的なメリットを用意することが必要です。そうすることで、「負担」というマイナス点を「割引がきく」というメリット創出の機会へと変えることができます。
また、歓迎する側は「エンターテインメント性」に魅力を感じている場合もあるようです。「セルフレジを試してみたいから、導入店舗に行ってみよう」といった具合に、珍しさが来店動機に繋がっているケースも。幼いころから身近にあった“レジ打ち”に対して、「ちょっと体験してみたい」という“ワクワク”感を感じる方もいるのではないでしょうか。
また別の視点では、「セルフレジの導入は、店側の都合ではじめられたものであり、プロダクトアウト(作り手側の理論でモノを送り出す)的な手法だ」という見方もあります。
人口減少などによりアルバイトの確保に困窮する小売店も多数存在している今、売り場やレジなど各所に適切な人数を配置できず、結果としてレジで待ち時間発生という買い物客への負担が生まれています。現状をなんとか打破するための施策の一つとして、セルフレジという救済策が導入されました。
何を持って“サービス”とするのか。多少待ってでも人の手厚いサービスを受けたいのか、それとも、接客というサービスは特に求めていないなど、相手や状況により最も快適と感じるものは変わるはずです。“サービス”に対し概念の幅を広げて考えることが、本当の意味でのホスピタリティに繋がるのかもしれません。新しい文化をスタートさせる時は、賛否両論が起こるもの。今後も色々な手法が発展・淘汰を繰り返していくことでしょう。
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未来の店舗を予感させる「Amazon Go」
セルフレジ、セルフ清算レジ、従来型のレジスタッフによる精算・・・これからの小売業での生産方式は一体どんな形式になっていくのでしょうか。もう一つ、近未来を感じさせる会計スタイルをご紹介します。
Amazonが開発したコンセプトストア「Amazon Go」は、将来の接客業のひとつのカタチを示したものです。Amazon Goは、一種の無人コンビニで、買物客は入店時にゲートにスマートフォンをかざし、本人確認を受けます。そして買い物客が必要なものを手に取れば、仮想カートに追加され、退店時には自動的に精算が行なわれ、Amazonアカウントに課金されます。そしてレシートがアプリに送られます。
このシステムは「Just Walk Out」技術と呼ばれ、コンピュータビジョンと人工知能(AI)によって、レジ前の行列をなくした新しい実店舗です。国内でも、東京ビッグサイトで開催された「リテールテックJAPAN 2017」に出品されたAI搭載の「ワンダーレジ」が注目を集めました。
この装置は、レジの上に、サンプルで用意された、缶コーヒーやおにぎり、チョコレートや新聞を置くと、モニターにそれぞれの商品名と価格、合計金額が瞬時に表示されるものです。精算は、電子マネーのカードをセンサーにかざすだけ。
今後、こうしたAIを搭載したレジシステムが進化することによって、小売業における接客スタイルも劇的に変化するかもしれません。欧米などでは比較的歓迎されているセルフレジ。
利用に関する世界の消費者調査によれば、とくにイタリアとオーストラリアは“常にセルフチェックアウトを利用する”消費者の割合13%と19%と、かなり高い比率になっています。同調査によれば、セルフレジの利用者は「使いやすい」という印象をもち、一般レジよりもスピードが速いと感じているとのことです。さらに必要な場合はアテンダントが待機しているという点も好ましいといっています。
逆に、顧客側が作業しなくてはいけないことが多かったり複雑であったりすると、「使いづらい」という印象が根付いてしまうでしょう。これまで当たり前の光景だった、“レジでのお会計”にも変化を起こしそうなAIの進化。
店舗側にとって、人員削減や人材不足の救済策に期待の集まるセルフレジですが、顧客側にも前向きに受け入れてもらえるよう、色々な施策や対応は必須のようです。セルフでの使いやすさを考え改善していくことが、新しいAI時代の“サービス”のあり方の一つと言えるのかもしれません。
(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)