「同一労働同一賃金」導入検討の現状とは?

作成日:2017/04/19

 

具体的なガイドライン案が発表された「同一労働同一賃金」

具体的なガイドライン案が発表された「同一労働同一賃金」

2016年12月下旬、安倍政権が進める働き方改革の最優先課題のひとつとされる「同一労働同一賃金」について、その実現に向けたガイドライン案の詳細が明らかになり、正規雇用と非正規雇用で待遇に差をつける場合の具体的な事例が、「問題になるケース」と「問題にならないケース」に分けて示されました。

 

安倍首相が「非正規という言葉をこの国から一掃する」と訴えるほど力を入れている同一労働同一賃金ですが、正社員と非正規労働者の間にある賃金や、待遇の格差を是正するための取り組みでしょ?という概要は知っていても、具体的に何が問題なのか、導入されるとどうなるのか、一朝一夕には実現しない理由は何なのかなど、その中身には意外と詳しくないという人も多いのではないでしょうか。

 

そこで今回は、会社員として働く場合でも独立・起業して人を雇用する場合でも知っておくべき「同一労働同一賃金」について、簡単にご紹介します。

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同一労働同一賃金の定義とは

同一労働同一賃金の定義とは

そもそも、同一労働同一賃金とはどういうことなのでしょうか。

 

国連の専門機関である国際労働機関が発行している『同一賃金 同一価値労働 同一報酬のためのガイドブック』では、「同一労働同一報酬」という表現が用いられ、「『同一労働同一報酬』の意味するところは、同じような能力を有する男女が、同等の条件で、同一あるいはほぼ同一の仕事を行う場合には、同一の報酬の支払いを受けるということである」とされており、この概念がもともとは男女格差をなくすために生まれた考え方であることがわかります。

 

同ガイドブックではさらに、「『同一価値労働同一報酬』とは、男女が同じ又は類似の仕事をしている場合だけでなく、より一般的である、異なる仕事をする場合も対象」とされ、「職務の内容、責任、要求される技能や資格が異なる場合であっても、異なる条件のもとで行なわれても職務全体として同一の価値を有するならば、同一の報酬を受けるべき」とされています。

 

ここから、同一労働同一賃金とは、単純に正社員と非正規労働者の格差を是正しようという話ではなく、「同じ仕事なら同じ対価が払われるべき」という話でもなく、「仕事の価値を正しく認識し、価値に応じた公平な対価を定めて支給すべき」という話であることが読み取れます。しかし、「仕事の価値を正しく認識する」という時の「価値」や「正しさ」とは一体何なのでしょうか。同一労働同一賃金という施策の推進が難しい理由のひとつは、これらの定義の困難さにも起因しているのではないかと思われます。

 

 

海外での同一労働同一賃金

そもそも、同一労働同一賃金とはどういうことなのでしょうか。

日本では今まさに議論の真っ最中ですが、海外には既に同一労働同一賃金が導入されて問題なく運用されている国も存在します。ところが、そのような国で採用された方法を参考に導入すればいいという簡単な話ではないと主張する専門家も多いようです。日本大学准教授の安藤至大氏は、あるラジオ番組で、海外の事例を次のように紹介しています。

 

「アメリカでもヨーロッパでも基本的には職務給という決まり方で、高卒の人が就こうが、大学院を出て博士号を持っていようが、仕事内容が同じなら給料は同じ」

 

「仕事内容や勤務地、働く時間などはあらかじめ雇用契約でがっちり決められ(中略)たとえば自動車メーカーの製造過程を担当している人は、GMで働こうがフォードで働こうが、同じ仕事をしていたら基本同じ賃金」

 

「これは、会社をまたがった産業別の労働組合と経営者団体が労働条件を交渉することから、どの会社でもベースは同じになるわけで(中略)悪い言い方をすれば、労働者が原材料と同じ扱いなんです」

 

人が提供する労働力が原材料と同じ扱いと聞くとどきりとしますが、確かにそのように考えなければ、仕事の「価値」を「正しく」、誰から見ても公平に定義し認識することなどできないのかもしれません。そして、こういった考え方を採り入れることの難しさが、日本で同一労働同一賃金の導入に時間がかかる大きな理由のひとつであることは間違いなさそうです。

 

専門家の意見は

海外での同一労働同一賃金

 

前述の安藤至大氏は、非正規雇用の待遇改善は必要であるとしながらも、業務改善や事業への貢献が認められて初めて見返りがあるという働き方や評価方法が浸透している日本では、働くにあたっての諸条件を細かく決めるというスタイルは定着しにくいのではないかと述べるとともに、日本では以前から「仕事に給料がつく」のではなく「人に給料がつく」仕組みになっており、それなりにうまくいっているので、職能給に基づく同一労働同一賃金を導入することばかりにこだわって現行の仕組みをすべて壊すのはもったいない部分もあると述べています。

 

また、人事コンサルタントの山口博氏は、現在行なわれている議論や今回発表されたガイドラインについて「枝葉末節に終始している感がある」との懸念を示し、同一労働同一賃金を実現することの一番の目的が非正規労働者の待遇改善や日本全体の労働生産性の向上なのだとすれば、パフォーマンスマネジメント(業績管理)に関する議論をもっと重ね、「労働結果の把握とそれに連動する給与制度」が導入されなければならない、と述べています。

 

確かに、予算の限られている企業側からすれば、非正規労働者の待遇改善を行なうには正規雇用者の既得権にメスを入れざるを得ず、双方納得のいくシステムを構築するのは非常に難しいチャレンジになると考えられます。また、職能給の採用は、正規雇用と非正規雇用の仕事内容に現在よりも明確な差を生む結果にもつながる可能性があり、そうすると両者の格差がさらに大きくなってしまう危険性もあると思われます。いずれにせよ、今後ますます広範かつ深い議論が必要であり、導入までにはかなりの時間を要することが予想されます。

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2016年末に示されたガイドライン案はあくまで「案」にとどまり、法改正までの道筋も見えていません。また、正規雇用者と非正規雇用者の待遇格差に関する訴訟が生じた際の立証責任が労働者側に課せられるという点で、まだまだ企業側にとっては抜け道が残っているという指摘もあります。

 

しかし、非正規雇用の割合が40%にのぼり、フルタイム従業員に対するパートタイマーの賃金水準が50%台と大きく開いている現状に鑑みると、どんな形であれ日本なりの同一労働同一賃金の導入は避けられないと考えられます。日本の労働者のひとりとして、今後も要注目のテーマですね。

 

(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)

 

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