オープンソースERPは中小企業を変えるのか?

作成日:2017/02/08

 

オープン化の潮流がERPにも

オープン化の潮流がERPにも

 

いまやビジネス現場では当たり前の言葉として聞かれるようになったERP(Enterprise Resource Planning)。企業の持つ「人材」「設備」「資金」「情報」など、様々な資源を統合的に管理 ・配分し、業務の効率化や経営の全体最適を目指す手法であり、そのために導入・利用される統合基幹業務システムのことを意味しています。

その一方でERPパッケージは「コストが高い」「業務に合わない」といったネガティブな面も指摘され、成功事例の陰に多くの不満や制約があることも事実としてあるようです。特に、中小企業においては、今までその導入・運用コストの負担の重さから、ERPの導入そのものが検討の俎上(そじょう)に載せられる事例はそれほど多くないというのが現実かと思います。

そんな低コスト経営を志向する中小企業の救世主となりうるIT業界の2つのトレンドとして「クラウド化」と「オープン化」があります。事実、矢野総研の調査によると2014年度のERPパッケージ市場の伸び率は、前年比6.2%増、とりわけ注目すべきトレンドとして「クラウド化の進行」を挙げており、中小企業もクラウド化によって低コストでのERP導入を実現し、業務改善を主とした経営の効率化を行なう動きも進んできているようです。

もう一方で、「オープン化」の潮流は、Linuxに代表されるOSレイヤーに端を発し、“Tomcat”といったアプリケーションサーバーや”mySQL”、”PostageSQL“といったDBなどのミドルウェアレイヤー、そして、昨今ではEPRも含めた業務アプリケーションレイヤーまで、その波は押し寄せてきました。そんな中、「オープンソースERP」の導入事例も少しずつ増えてきています。

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オープンソースERP導入事例

オープンソースERP導入事例

 

新潟市内に本社をおく従業員30~40名のある企業の事例です。

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新潟市内に本社をおく従業員30~40名のある企業では、2014年、オープンソースERPの“iDempiere(アイデンピエレ)”の導入に踏み切った。同社は2000年代初めに2年以上の開発期間、数千万円のコストを使い、大手ベンダーに依頼し、販売管理システムを導入した。

―「大枚をはたいて構築したはいいが、その後の維持費も半端じゃない。年間の保守料と消耗品交換で数百万。不具合があった時にシステムの見直しを頼めばまた数十万、数百万とかかっていました。」

導入から十年以上が経過し、不具合が頻発。システムの再導入の時期が訪れた。その時の課題は当然「可能な限りの初期投資削減と、維持管理費の低減」。そこで目を付けたのがオープンソースERP。見積もりをお願いしたところ、システム再構築費は半額弱に抑えられた。維持管理費も低減し、構築期間は2分の1に短縮された。

「仕入れて、売って、請求書を出して、入金を確認する。これら一般業務のシステム構築に悩んでいる経営者やシステム担当者にとって、役立つ技術だと思います」と語る。

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この企業事例のように、今までコスト高を理由にERPパッケージの導入を見送らざるを得なかった中小企業にとっては大幅な初期投資削減と維持費用の負担減となるオープンソースERPは魅力的な選択肢の一つになるかもしれません。

<iDempiere(アイデンピエレ)の詳細はコチラ>
http://www.compiere-distribution-lab.net/idempiere-lab/

 

代表的なオープンソースERP

では、オープンソースERPにはどのような製品があるのでしょうか?代表的な製品をいくつか紹介したいと思います。

(1Compiere(コンピエール)

1999年に公開されオープンソースERPの元祖的存在。2006年には100万ダウンロードを達成し、オープンソースのERPとして大きな注目を集めました。

しかし、2006年にComPiere社がベンチャーキャピタルから出資を受けると、Compiereは商業化を強く模索するようになります。この商業化の方針に異を唱えた開発コミュニティーのメンバーが2006年にCompiereから分離して、次に紹介するADempiereの開発を始めたのです。結果として、オープンソースとして提供されているのは2009年に公開されたバージョン3.3までで、これ以降ソースコードは公開されていなく、今後も最新バージョンのソースコードが公開されるかどうかは不明であり、CompiereにはオープンソースのERPとしての発展は期待できない状況です。(ERPソフトとしてのCompiereは現在も存在しています)

(2)ADempiere(アデンピエレ)/iDempiere(アイデンピエレ)

上述したCompiereの派生製品であり、現在のオープンソースERPのデファクト的存在です。iDempiereでは、JavaベースのサービスプラットフォームであるOSGi(Open Services Gateway initiative)の仕様を取り入れ、プラグインによる機能拡張ができるようになっています。このプラグインによる機能拡張は、他の(商用)ERPと比べても優れている点だといわれています。そして世界中の開発者は作ったiDempiereのプラグインを有料/無料を問わず公表することができ、ユーザーはダウンロードして試し、導入することができます。

(3)Odoo(オドゥー)(旧名:OpenERP)

ベルーのOpenERP S.A.社が開発取りまとめを行っているOdoo。そのカバー領域は、もはやERPパッケージ守備範囲を越え、CMS、Eコマース、イベント管理等、多岐に亘り、機能を豊富に備え、操作性、拡張性、保守性の各面で優れています。多通貨・多言語に対応しており、昨今では、多言語サポートの充実からアジアでの存在感が増しているといわれています。

 

オープンソースERPのメリット/デメリット

オープンソースERPのメリット/デメリット

 

オープンソースのメリットを簡単に整理すると、ライセンス料がかからないことによる「コスト負担軽減」、ソースコードを更新・改良できることでの「カスタマイズ領域の拡大」、そして「ベンダーロックインからの解放」の3つが挙げられます。特に今までコスト高を理由にEPRパッケージの導入を見送らざるを得なかった中小企業にとっては「コスト負担軽減」となるオープンソースERPは魅力的な選択肢の一つになるかもしれません。反面、当然メリットばかりではありません。「ベンダーのサポート体制」や「開発コミュニティの継続性」といった「不安感」に起因するデメリットも同時に挙げられてはいます。

ただ、本当にそうなのでしょうか?

「ベンダーのサポート体制」に関していうならば、オープン化の流れの中でその導入・サポート体制を整えるSIerも増えてきており、またそのオープンERP導入SIerを支援するオープンソースソフトウェアの専門企業なども出てきたことで、導入に際してのインフラが少しずつ整ってきていると言えそうです。

「開発コミュニティの継続性」に関しては、確かにコミュニティが解散・分裂してしまう事例がないわけではありません。事実、上述したオープンソースERPの「Compiere(コンピエール)」もコミュニティ運営に対する考え方の違いにより分裂し、「ADempiere(アデンピエレ)」が登場した、という背景もあります。

しかし、それは、仮にオープンソースではなくパッケージERPであったとしても企業としての倒産リスクがあることと同様で、逆に不特定多数な開発者が集う主要オープンソースコミュニティの活発さは安心材料の一つと言えるかもしれません。また、もう一点付け加えるならば、次世代のデファクトと目されている「iDempiere(アイデンピエレ)」に限って言えば、プラグインによる機能拡張によりカスタマイズを前提に作られているため、製品の方向性からコミュニティを分裂して独自開発する……といった必要性もなくなってきており、コミュニティの分裂などのリスクは極めて低いと言われています。

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中小企業にとって、今まで導入したくても中々踏み切れなかったERPが今回取り上げた「オープン化」や「クラウド化」といったテクノロジーの進化によって手の届くものになりつつあります。IT業界のトレンドであるオープン化をチャンスの一つとして捉え、リスクばかりにフォーカスするのではなく、まずは積極的に検討してみるべきでしょう。

このオープンソースERPが日本の中小企業の経営の効率化を推し進め、競争力向上の一つのきっかけになるかもしれませんね。今後の動向に要注目です。

 

(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)

 

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