「ビジネスを通して世界に新たな可能性を」二人の起業家が目指すそれぞれの“高み”とは

作成日:2017年6月9日(金)
更新日:2018年6月13日(水)

ビジネスを通して社会を変える。まさに“言うは易く、行なうは難し”であるこの信念を胸に強く秘めたお二人の起業家に、本コーナー初の対談形式でお話を伺ってきました。

「コンサルタントのワークスタイル」、今回のインタビューは中島勇造さんと渡邊由美さんの対談です。
コンサルタントやフリーランスとして働いたご経験だけではなく、南米という土地に縁がある共通点もお持ちのお二方に、手掛けるビジネスの今後について、そしてそれぞれのビジネスを通して実現したい世界観について、率直に語っていただきました。単純にビジネスを成功させること以上の高みを目指している起業家同士の熱い対談、必見です。

中島 勇造/渡邊 由美

今回のインタビューにご協力いただいたプロフェッショナル人材・コンサルタント

<上> 中島 勇造 /男性 / 東京都在住 1972年生。新卒で旅行会社に入社し、1年目から海外赴任を経験。その後、コンサルティングファームを経て、事業再生会社へ入社。同社で事業再生を手がけた後に個人事業主として独立・起業。現在はIT会社「有限会社ひとしごと」の代表取締役を務めるとともに、吉祥寺通り沿いにお店を構える「吉祥寺珈琲」、コンサルティング会社「中島勇造事務所」と3つの会社を経営。生涯をかけて成し遂げたい夢である”教育”事業、その夢の実現に向けて日々精力的に活動中。

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<下> 渡邊 由美/女性 慶應義塾大学法学部卒業後、外資系戦略コンサルティング会社にてリサーチアナリストとして勤務したのち、半年間の海外滞在を経て2011年よりフリーコンサルタントとして活動。2014年9月より事業開発部マネージャー兼広報に従事し、2015年9月より再度フリーランスに転向。コンサルタントのほか、イベントプロデューサーとしても活動中。

中島 勇造/渡邊 由美

珈琲を活用した体験型教育プラットフォームの実現に向けて

司会:中島さんがここ「吉祥寺珈琲」で使っている珈琲豆は、渡邊さんがこれから起業する予定のペルーからも仕入れているのですよね。海外の仕入れ先との交渉はどのように行なっているのですか?

 中島:お取引させていただく珈琲農園を増やすのは2~3年に1回程度なのですが、やり方に関しては試行錯誤の末、今では現地で珈琲セレモニーをさせてもらうという方法に落ち着いています。その農園のサンプル豆を予め焙煎して持参し現地で珈琲をふるまうのですが、珈琲農園の農民の皆さんは珈琲を飲んだ経験が無い方も多く、自然と人が集まってきます。私の場合、輸入する量が少ないこともあってメールや電話ではほとんど相手にしてもらえないのですが、面と向かってその農園の香味の素晴らしさやこちらの情熱をお伝えすると、取引関係を超えた友好関係が芽生えることがあります。こうして吉祥寺珈琲の香味のイメージを生産者の方々にお伝えしたり、度々コミュニケーションを重ねることで、美味しい珈琲をご紹介し続けられると考えています。

司会:ご自身で珈琲の栽培に挑戦しようとしているとのことですが、そちらはどんな状況ですか?

◆協力:吉祥寺珈琲(http://www.kichijojicoffee.com/)◆
※営業日が限られているため、お出かけになる際は事前にHPをご覧ください。
☆中島勇造さんインタビューページ:http://freeconsultant.jp/workstyle/w003

中島:もともと栽培から一気通貫でやりたいと思っていたので、まずは沖縄の生産者の方との協業により勉強することから始めています。そして、今は、小笠原と屋久島などに土地を確保して自らの農地で栽培しようと計画しています。沖縄での栽培や沖縄珈琲生産者の方々や、海外珈琲農園の農民の方々との交流からは、本当に広範囲で勉強させていただいています。

農業は、その地域の土壌や気候等がとても大事ですが、日本は、美味しい珈琲を育てる以前に、台風の通り道ですから台風の存在を前提として珈琲と向き合わなければなりません。一方で、沖縄以外にも、小笠原諸島父島・母島の珈琲の木を見たときに、台風の影響を受けながらも、その地に、自生して逞しく育っている珈琲の木に出会いました。そして、その自生した珈琲を持ち帰り焙煎してみたら、ものすごく美味しかったのです。そのときに、吉祥寺珈琲は、美味しい珈琲を栽培するさまざまな選択肢の中から「自生する珈琲の環境を提供していく」ことに決めました。そして、こうした珈琲栽培の経験を通じて、誰もが、自分の個性を活かしながら視野広く学べる教育の場を提供しよう、という初心が具体化してきました。

日本は海外の文化を改良して世界に再発信することに長けていると思うのですが、珈琲に関しても、今後、日本の珈琲カルチャーを海外に発信していくことで貢献できる分野がさまざまあると考えています。吉祥寺珈琲は、経営全般や栽培から流通に至るプロセスを改善し続けながら、世界に発信できるレベルに挑戦しようとしています。吉祥寺珈琲の経営全般や栽培から流通までのプロセスを活用してビジネスパーソン向けの教育の場を作れたらいいなと考えています。近い将来に吉祥寺珈琲をグローバルに展開し、例えば営業を学びたい人には吉祥寺のみならず、サンフランシスコやパリの店舗でご経験いただいたり、農業や生産の勉強をしたい人にはインドや屋久島などの農地で働いていただく、ということができます。そうすれば、今後ボーダレスで活躍したいと考えている若い人たちのための学びの場をご提供させていただけるのではないかと考えています。

渡邊:なるほど。それは素晴らしい取り組みですね。

司会:体験を通じた学びが得られるプラットフォームのようなもの、ということですね。

 

 中島:はい。それが本当に役に立つのかは吉祥寺珈琲での活動を通じて、お客様や生産者の方々から私自身が学んでいるところですが、ビジネスの結果には正解が無いため、その結果を導き出す過程の選択肢は多い方が良いと考えていますし、ビジネスをやる上でのノウハウはいわゆるこういった“商売”の経営や生産から流通までの過程にすべて詰まっていると思うので、そういうものを紹介できたらいいなと。自分を高めていくためには、商売のどこか一部だけ経験するのではなくて、例えば店舗に立ってお客様の前で汗をかいたり、生産現場でも汗をかいたりと。視野を広めるためのこうした経験が大事だと思います。そういう体験ができる場を用意できればいいなと。

吉祥寺珈琲のコンセプトは、「地球に優しい、地球が嬉しい、生産者が嬉しい、消費者も嬉しい、みんな幸せ」です。幸せを感じるような素晴らしい体験は、さまざまな分野で視野を広めていくことで、今まで当たり前だったことを有難く感じる瞬間が源泉に在ると考えています。例えば、世界の珈琲生産では、9割以上の農家が農薬を使うのが当り前と言われており、一定量以上の珈琲が毎年、収穫出来るからこそ、いつでも美味しい珈琲がいただける有難さを感じることが出来ますし、一方で、逆の見方をすると、無農薬栽培に挑戦することは虫食い等で収量(経営)が不安定になってしまうリスクがあるため、そのご苦労を思うとこちらもまた有難く感じます。みんなが幸せになるような美味しい珈琲には、有農薬栽培や無農薬栽培など自由な選択肢があります。吉祥寺珈琲では、それらは継続的に勉強しながらも、自生する珈琲の美味しさも、お伝えするべく、種だけ撒いてあとは自生する珈琲栽培に挑戦し、公園として開放して、珈琲の木に触れてみたり、アウトドアで焙煎・抽出したりする場をご提供させていただき、皆が楽しめる環境を提供しようと考えています。

司会:確かに、いわゆる“商売”の経験はビジネスをやっていく上で大きな財産になりますよね。渡邊さんもそういうご経験はありますか?

渡邊:何度かありますね。最近では、出身地の熊本が震災の被害に遭った時、地元産の無農薬野菜を売るイベントでお客さんの前に立ちました。

司会:やはりそういう場ではオフィスで働くのとはまた違う学びが得られますよね。コンサルティングのような仕事からそういった商売まで、いわゆる川上から川下までを勉強できるところというのは、確かになかなかないのかもしれません。

 中島:そうなのですよね。だからこそ、小商いでそういう場が提供できたら面白いのではないかなと思っています。

シャーマニズムと現代文明の融合による新たな可能性を求めて

中島:それにしても、前回の渡邊さんのお話には鳥肌が立ちました。すごいですよね。

渡邊:いえいえ、ありがとうございます。

中島:実は私も5年ほど前に、インドの珈琲農園で農婦のお婆さん等が珈琲の森にある木々に感謝している姿を見かけたことがあります。ある時、そのお婆さんが、私にはわからない言語で、そして真剣な面持ちで。全身全霊で語りかけてきて、そのお婆さんの感情を受け止めていたらなぜだか涙が止まらなくなった経験があります。

 

それ以降、自然に対する見方が変わって、珈琲の栽培過程に関する考え方にも広がりが出始めたのですが、前回の渡邊さんのお話を聞いて、「植物が知性を持っている」ことや、人間はその植物と共存する地球環境の中で生かされていると考えると、自分の中で「地球、生産者、消費者、みんなが幸せ」を感じるような美味しい珈琲が本当に大切であるということが、しっかりとつながりました。あのお婆さんは、確かに私に“何かを伝えよう”としていたのだと。

渡邊:そんなご経験があったのですね。確かに、そのお婆さんもシャーマンのように何かを語りかけていたのかもしれませんね。

司会:渡邊さんはこれからアマゾンという地に飛び込んで試行錯誤しながらビジネスを立ち上げるわけですが、中島さんにもそういうフェーズはあったのでしょうか?

中島:ありましたね。この「吉祥寺珈琲」も、実は会社努めをしている頃に週末を使っていろいろと試してから始めました。初めのうちは店舗もなかったので、自宅で焙煎した豆で淹れた珈琲を近所の人たちに配って、反応を聞いたりしていました。

私の場合は、子供もいたのであまり大きな失敗はできないという気持ちも正直ありましたし、自分の志が本物かどうかを確認したいという部分もありました。辛口な方に珈琲のサンプルをお配りして、面と向かって「不味い」とか言われると心が折れることもあるじゃないですか(笑)。自分はそれでも踏ん張って、改善し続けられるのかと。結果として、あるタイミングで「誰がなんと言おうと生涯かけてやり遂げたい」と感じたので起業に踏み切りました。

司会:なるほど、その過程で『ビジネスとしての可能性』と『自分の感情』の両方を確かめたということですね。渡邊さんが経営予定の施設の建設は既に始まっているということですが、「と決心するまでに何回くらいその場所に行ったのですか?

渡邊:1回です(笑)。1回でもう「ここ最高!」と思って。

一同:それはすごいですね!(笑)

渡邊:『ジャングルの中にある天然温泉』の存在が大きいです。アマゾンに『お風呂』の習慣はありませんが、日本を遠く離れると『お風呂』の重要性を痛感します。 お風呂には身体に与える効用の他、一種の瞑想的な効用があると思います。日本に根付く「湯治」の概念は現地にはありませんが、ここジャングルの天然温泉による湯治と植物療法を組み合わせて提供ができたら素晴らしいだろうなと直感していました。ジャングルの天然温泉。私も体験しましたが、最高です。日本の湯治文化をアマゾンの人々に伝えていくのも、どんな科学変化が生まれるのか・・・楽しみです。

司会:アマゾンにそんな場所があるのですね!そもそも、一緒にセンターを立ち上げるシャーマンとはどのようなきっかけで知り合ったのですか?

渡邊:1年ほど前に友人に紹介されて知り合いました。温泉のあるその場所自体は2013年に訪問した時に見つけていたのですが、そこに住んでいるシャーマンには当時もその後もなかなか出会えませんでした。ところが、昨年たまたま友人がその地域に住んでいるシャーマンを紹介してくれたのです。 それ以降、ネットを介してやりとりをするうちに、すっかり意気投合しました。

司会:シャーマンがネットをやるのですか?!

渡邊:はい、ネット自体は普及していませんが、携帯電話を介してコミュニケーションをとっています。

「アマゾン」にしろ「シャーマン」にしろ、私たちが想像する姿には、ある種のオリエンタリズムというか、「こうあってほしい」という気持ちが反映されていますよね。確かにそういうシャーマンもたくさん存在するのですが、そういう人たちはテクノロジーや外部の文化とは距離をおいているのではないかと思います。

一方、自分たちの文化をもっと外へ開き、伝承されてきた知識をより強めていきたいと考えるシャーマンにとっては、テクノロジーとの融合であたらしい民族の文化を創造していく可能性が生まれているということだと理解しています。シャーマンがテクノロジーに触れるということは、シャーマニズムの伝統や叡智を自ら発信していける「手段」を獲得したということなのです。彼らがテクノロジーを使って外部に文化を開いてくれたおかげで、私も知り合うことができたわけですし… 大切なのは、「発信するメッセージ」です。この点、シピボ族のシャーマニズム文化は、我々が慣れ親しんだ西洋的な価値観とは大きく異なっています。ですから、「異質性」にフォーカスがあたり彼らの素晴らしい知識の本質を見失うことがないよう、「メッセージ」の発信方法には気を遣っていきたいと考えています。

中島:その話はすごく興味深いですね。というのも、私は先ほどお話ししたインドの珈琲農園のお婆さんに出会ったことなどをきっかけに、工業的に生産された珈琲だけではなく、自生した珈琲を使った新たな可能性を模索しているところなのですが、あまりに従来の方法と違いすぎるので、いわゆる偏った捉え方をされてしまう恐れがあると考えています。

自分としては単純に、自生している珈琲に触れた時のワクワクする感覚とか、それを収穫して焙煎した時の想像を絶する美味しさ、そういったものをこれまでの珈琲に並ぶもう一つの選択肢としてご提供したいだけなのですが、なかなか難しいなと。

司会:なるほど。でも、いわゆる日本文化に関しても、外国人から評価されるようになって初めて日本人自身もその良さに気づいたような部分があると思うので、珈琲に関しても同じようなことが起こるのかもしれませんね。業界内ではおかしいと言われていたものが、外部から高く評価された瞬間にスタンダードになるという現象は、既に他の業界でも起こっていることなので、珈琲業界でも同様のことは充分に起こり得るのではないかと思います。

渡邊:確かにそうですね。私も自生している珈琲があるというお話は初めて聞いたのですが、素晴らしい取り組みだと思うので、コンセプトを新たに作るといいのかもしれませんね。

中島:なるほど、そういう考え方もありますね。なんだか私の悩み相談みたいになってしまってすみません(笑)。今日はどうもありがとうございました。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!お二人のさらなるご活躍と、目指す世界の実現を、心より応援しております。

お二人の対談はいかがだったでしょうか?起業前に試行期間を設けていたという中島さんと、1回の訪問で異国での起業を決意した渡邊さん。携わるものへの入口は違えど、ご自身の感情の動きを大切にするという点、そしてビジネスを通して新たな価値観や可能性を模索しようとしている点で、非常に共通点が多いのも印象的でした。

挑戦する人を一人でも増やしたい。私たちもこの理念にもとづき、未来に向けて挑戦する人をこれからも応援していきます。