“現場労働×IT×写真家”で地方創生 湘南の写真家が実践する理想のパラレルワーク

「地域」に根差した新しい形のパラレルワーク。地域のつながりを大事にしながら、自ら切り開いた独自のキャリアで挑む地方創生とは?

「コンサルタントのワークスタイル」、今回のインタビューは荒井隆之さん。
本業は写真家ですが、地元の神奈川県湘南・藤沢エリアで農業や建築系の職人、植木屋、新規事業の支援などの仕事を掛け持つパラレルワーカーでもいらっしゃいます。「地域」を軸にまったく異なる職をいくつも兼業する“新しい形”のパラレルワーカーとも言える荒井さんに、今までのキャリアの歩みから、理想とする働き方、目指すべき地方創生についてざっくばらんに伺ってきました。

荒井 隆之

今回のインタビューにご協力いただいたプロフェッショナル人材・コンサルタント

1983年綾瀬市生まれ。2005年、カナダのバンクーバーで撮影した1枚の写真をきっかけに写真家を志した。現在、子どもや家族写真をはじめ、広告・web・映像などの仕事や新規事業の支援業務で主に都内、湘南地域を中心に活動中。皆既日食の作品を撮りためている。2018年はアメリカで皆既日食の写真展を開催する予定。 Takayuki Arai Photography:http://www.takayukiarai.com/ BLOOMFARM:http://www.bloomfarm.info

荒井 隆之

カメラマンからパラレルワーカーへ

-パラレルワークを実践していらっしゃる荒井さんですが、本業である写真家としてのキャリアはどのように始められたのでしょうか?

荒井さん(以下、敬称略):大学在学中にカメラに目覚めて写真家を志したので、卒業時点では「カメラ一本でやっていこう」と。中学から大学まで慶應に通っていたのですが、カウンターカルチャーの影響を受けて、学歴で生きていくよりも「荒井隆之」というブランドで生きていきたいと強く思っていたので、「写真家になりたい」と思った時は「よしゼロから始めるには丁度いいな」と思いフリーターから始めました。 どこにも就職せずにいわゆるフリーターになり、大学時代からお世話になっていた「エニグモ」という会社でそのままアルバイトを続けていました。

そんな中、たまたまハローワークに行った友人が「初心者でもOK」という「カメラマン募集」の案件を教えてくれました(笑)「初心者でもOKなカメラマンとはどういうことなのだろう?」と思ったら、学校の行事に帯同して卒業式や入学式、修学旅行などの写真を撮る「学校カメラマン」の仕事でした。結果的にはそれがきっかけでカメラマンとしてのキャリアをスタートしました。

その後、ITの仕事も好きだったので「エニグモ」でのアルバイトも続けながら、五年ほど「学校カメラマン」の仕事をしてカメラの技術や現場での経験を積みました。そろそろ次のステップに行きたいなと思っていた頃、友人から結婚式でのカメラマンを頼まれることが増えてきました。ちょうど27~28歳くらいのころです。周囲に結婚する人が増えた時期だったこともあるのですが、その頃から徐々に学校カメラマンとしての仕事以外にも手を広げるようになりました。ただ、やはり写真だけで食べていくのはなかなか大変だったので、その頃は飲食店でのアルバイトなども掛け持ちしていましたね。

-エニグモで働いていらっしゃったということは、オフィスでの勤務経験もおありなのですね。その後、現在のようなパラレルワークを実践するに至るまでには、どのような経緯があったのでしょうか?

荒井:きっかけは20代後半くらいの頃。地元で写真展を開いた時に友人が友達を連れて見に来てくれたのですが、その友達が茅ケ崎の植木屋で働いており「うちでバイトしない?」と誘われて。突然まったくジャンルの違う“植木屋”でアルバイトをすることになりました(笑)。

ただ、こう言うと唐突な決断に見えるかもしれないのですが、ちょうどその頃「カメラ以外にも何かできたら面白いのではないか」と思い始めていたので、自分の中では自然な流れでした。常に自分が「井の中の蛙」だと思い込み、また自分の可能性を広げるには「知らない世界」に飛び込むことだと思っています。それまでは「カメラだけで食べていきたい」という野心が強かったので、カメラ以外のアルバイトをしていることは格好悪いことだと思っていたのですが、「自分のようなフリーランスだからこそ色々な仕事に挑戦するチャンスがあるのだ」と考え方が変わっていきました。

あともう一つの決断の理由は「地域のつながりを大事にしたい」という想いが強かったからですね。植木屋さんは神奈川県茅ケ崎の方だったのですが、それも大きかったです。植木屋のアルバイトを始めて、汗をかきながら泥まみれになって働いてみると、それまで気づかなかった色々な発見がありました。デジカメやパソコンを使ったオフィスワークとは違い、汗をかいたり声を出したりしながら働くことで、心も身体も調子がすごく良くなっていったのです。そして何より今までになかった人間関係を築くことができました。これが何よりの財産ですね。

その仕事で肉体労働の素晴らしさや地域のつながりの楽しさを知って以降、もっと色々なことに挑戦してみたいと思うようになって、今は農業にも関わりつつ住宅メーカーの下請け会社のメンテナンスの職人さんとも一緒に働いたり、熊本の震災を機に熊本の農家さんを支援するプロジェクト「EAT KUMAMOTO」を立ち上げ活動しています。

-本当に幅広いですね!ジャンルに対するこだわりやルールは特にないのでしょうか?

荒井:まったくありませんね。それは20代から変わらず、30代になった今ももっと色々なことに挑戦してみたいなと思っています。

 

現場労働×IT×写真家 3つのキャリアの掛け合わせで新規事業立ち上げに貢献

2010 Byron Bay  Australia / バイロンベイ オーストラリア

-最近では貸し農園の新規事業立ち上げにも関わっていらっしゃるそうですが、そちらにはどのような経緯で参画されたのですか?

荒井:これが地域のコミュニティの面白いところなのですが、クチコミと言いますか噂と言いますか、「あいつ、こういうことができるらしいよ」「あいつはこんなことまでやってくれるらしい」といった情報がいつの間にか出回るのですよね(笑)。ですので、貸し農園の新規事業についてもそういうクチコミ経由で立ち上げメンバーとして声をかけていただきました。

-声がかかってから実際に農園がオープンするまでどれくらいかかったのですか?

荒井:だいたい1年半くらいですね。更地の状態から、まずは土の中の根っこを取って、農園の区画分けをするための大量の木材にペンキを塗り、それを畑に運び、釘を打ち・・・というところから始めて、塀を立てたり芝生を植えたり。パソコンやHPについても、たまたま立ち上げメンバーの中で僕が一番詳しかったので、少しずつ整備していきました。

-現在はオープンされて1年ほど経っているとのことですが、どのような施設なのですか?

荒井:1区画あたり年間10万円くらいで、シャワーとトイレは完備、石窯や焚火スペースや会員さん用のロッカーもあって、水も使い放題、バーベキューもできます。一般的な市民農園の場合、畑だけを与えられて、水も肥料もスコップも持参しないといけないことが多いのですが、うちはそのあたりも含まれた施設になっています。

今は色々なプロジェクトを企画している段階で、先日は音楽イベントを開催しましたし、この間はヨガの先生に来ていただいて畑でヨガをやりました。先月は焚火とナイフのプロフェッショナルの方をお呼びしてのワークショップを行ないましたし、湘南にある複合施設「湘南T-SITE」さんの中にある「d-labo 湘南」とも一緒に企画を練っています。

法人のお客様からのお問い合わせも多くなってきました。先日は名古屋の会社さんからお電話をいただいて、“会社で畑を借りて週末に社員の方々が手入れしに来て、夏にはそこで取れた野菜でバーベキューをする”という企画が出ていました。徐々に面白い人が集まり始めていて、今後の展開が楽しみですね。

-贅沢な企画ばかりですね!荒井さんはそういった企画や集客なども担当していらっしゃるのでしょうか?

荒井:チラシを作ってポスティングしたり、地域に折り込みチラシを入れたり。FacebookなどのSNSを使った集客なんかもしています。まだターゲットとする顧客層が絞り切れていないので、手探りのところはありますが、色々と試行錯誤しています。

-まさにローカルマーケティングですよね。一般的なウェブマーケティングとは異なる部分があると思いますが、どういったところに違いを感じますか?

荒井:企画の内容によって効果の出る集客方法が全く違いますね。例えば、野菜の収穫祭イベントの場合はFacebookとHPだけで満員御礼になったのですが、その時に集まった人たちが会員募集にも反応してくれるかというと、そうでもない。イベントが好きな人の層と、農作業や自然が好きだという人の層は違うのかもしれません。

-商圏としてはどのくらいの範囲を考えていらっしゃるのでしょうか?

荒井:現在は横浜・湘南・藤沢エリアです。横浜も圏内ですね。神奈川県の中央に位置しているので、県内で言えばかなり広い部分が商圏に含まれるのかなと思います。ただ、将来的には都内の方々にも来てほしいと考えています。1年後くらいに東名高速に「綾瀬スマートインター」という出口ができる予定なのですが、農園はそこから10分くらいの場所なので、インターができれば都内からのアクセスも今よりずっとよくなると思うので。

「新しいライフスタイルの提案」が一つのテーマでもあります。例えば週末に家族でドライブに行って、午前中に東名経由でここに立ち寄って土いじりや野菜の収穫。午後はそのまま南下して湘南に行って都内に帰る、といった新しい休日の過ごし方の提案も視野に入れています。

-面白いですね。カメラマンという本業を持ちながら、ITに強く現場労働の経験もある。まったく畑違いのそのバックグラウンドから出てくるアイデアというのは、経営者からするときっと新鮮でありがたいものなのでしょうね。

荒井:最後はその人の経験が出てくるのだろうなと僕も思います。それぞれの世界にそれぞれのセオリーがありますが、例えば自分のいる世界が白だとしても、本当にそれが白なのかどうかは黒の世界に行かないと証明できないと思います。僕がカメラ以外のことも色々やってみようと思ったのも、そういうことを経験から感じたからでもあります。

-先ほど「挑戦するジャンルにこだわりはない」とのお話がありましたが、何かを始める時の「軸」になっている想いなどはありますか?

荒井:人の役に立ちたいというのが一番ですね。例えば、“工場のラインで流れてくるガラス瓶にヒビが入っていないかどうかをチェックする”という仕事では、お客さんの顔は見えにくいと思います。僕はやはり、お客さんの顔が見えたり、直接「ありがとう」と言っていただけるような仕事をしたいと思っています。あとは、地域を軸としているからこそ、地元の人たちとつながることができるというのも純粋に楽しいですね。

-地元でのつながりを大事にしながらワークライフバランスも保ちつつ働けるというのは、理想的な働き方のひとつですよね。

荒井:僕もまさにその形を目指していきたいと思っています。意識していることは、自分の中での「お金」と「時間」と「メンタル」のバランスが取れた状態を保つこと。この3つのうちひとつでもバランスが悪いと、とても辛くなります。ただ、仮に自分にとってちょうどいいバランスを見つけたとしても、それもまた自分の年齢やライフステージ、ポジションに応じて変わっていくと思うのですよね。僕のように毎日違う職業をこなしていると、ついつい仕事に追われてしまい、自分でも「大丈夫かな」と思う時はあるので、このバランスは常に意識して忘れないようにしています。

地域に根ざして働く際に重要な“人とのつながり”を大切に

-パラレルワークを実践する中で大切にしているポイントはありますか?

荒井:その業界、業種、地域といったコミュニティでの共通言語や共通理解の存在を、いち早く察することでしょうか。専門用語やテクニカルワードもそうなのですが、業界の常識のようなものがどこの世界にも必ずありますよね。わかりやすい例をあげると、長さの単位ひとつ取っても、植木屋さんはセンチを使うのに対して建築業界ではミリを使います。その他にも似たような共通認識がそれぞれの業界にたくさんあるので、まずはそれらを察してわからないことは教えてもらい、業界ごと、地域ごとのやり方をとにかく早く吸収するようにしています。もうひとつ、地域という軸で言えば、face to faceで会うことや“誰々の紹介”というお墨付きをもらうことがとても大事だと思います。

-なるほど。やっぱりそういったお墨付きがあると違うと感じる場面は多いですか?

荒井:一時期、熊本で働いていたことがあるのですが、その時にも同じことを感じました。周りの会話にも「誰々さんの紹介」、「誰々さんにお世話になっている」といった言葉がよく出てきましたし、やはり東京以外の特定の地域で働く場合は“誰とつながるか”が大事なのかなと。

-地方創生を志している方にとっての最初の難関もそこだと思うのですが、初めはなかなか難しいですよね。

荒井:そうですね。ただ、最初の難関であると同時に最大の難関であるとも思っていて、そこを突破してしまえばあとはスムーズに行く場合が多いと思います。特に湘南は、都内から移住した人と昔からそこに住んでいる人がバランスよく混在しているので、入りやすいのではないでしょうか。僕も将来的には、地の利を活かして湘南と東京を橋渡しする形での地方創生にも挑戦したいなと思っています。

僕自身がいろいろな仕事をしてきた中でも、やはり一緒に働く人たちのやり方やルール、人とのつながりが本当に重要だと感じたので、地方創生を志すには、やっぱりまずはその土地に住んで、その地場のコミュニティの中に積極的に入っていき、そこにいる人たちとつながっていくことが重要だと感じますね。

 

 

-本日はありがとうございました!写真家を本業としながらも、地方創生を志し、ジャンルを問わないパラレルワーカーでもあるという多彩なご経歴の荒井さんのお話はとても新鮮でした。

「自分の経験からできる範囲のアドバイスをしているだけ」とおっしゃっていた荒井さんですが、地元のつながりを大切にしながら、積極的に幅広い経験を積んできた独自のキャリアがあるからこそ、多方面から声がかかり、求められる人材であり続けられるのだと思います。

ワークライフバランスを保ちつつ、“ワーク”それ自体も目一杯楽しむ。そんな理想の働き方も可能なのだ、ということを証明するかのような荒井さんのインタビューは、多くの方に魅力的に映ったのではないでしょうか。

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