PMBOK第7版での変更点とは?第6版との違いや試験への影響を簡単に解説
最終更新日:2024/01/18
作成日:2022/05/10
PMBOKには、プロジェクトマネジメントに必要な知識が体系的にまとめられています。プロジェクトマネジメントに携わる人や、プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル(PMP)資格取得を目指す人にとって、欠かせない資料です。2021年の第7版改訂では第6版までと比べて大幅な変更がされました。なぜ、第7版で大きな改訂があったのか、第6版と第7版の違い、PMP試験への影響などを解説します。
目次
■PMBOK第6版と第7版の違い
(1)ハウツーから原理・原則へ
(2)成果物提供から価値提供へ
(3)「5つのプロセス群」から「12の原理・原則」へ
(4)「10の知識エリア」から「8つのパフォーマンス・ドメイン」へ
(5)「ITTO」の記載がなくなった
PMBOKとは
PMBOKとは「Project Management Body Of Knowledge(プロジェクトマネジメントの知識体系)」の略です。「ピンボック」と読みます。米国のPMI(Project Management Institute、プロジェクトマネジメント協会)が発行しており、書籍として販売されているほか、PMIの会員になればWebサイトからPDFでダウンロードも可能です。
PMBOKは、プロジェクトマネジメントの手法や方法論、ベストプラクティスなどの知識体系がまとめられたものです。ソフトウェア開発だけでなく建設や製造、その他幅広いプロジェクトで適用されるため、世界中で多くのプロジェクトマネージャーに利用されています。国際規格のISO9001と米国工業規格のANSI17024の認証を受けており、プロジェクトマネジメントの標準ガイドラインです。
また、PMBOKは、PMP(Project Management Professional)試験のベース資料としても利用されています。PMPとは、PMIが認定する世界共通の資格で、プロジェクトマネジメント能力の客観的な証明ができるものです。グローバルビジネスで活躍するために重要な資格といえるでしょう。
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PMBOK第7版とは
PMBOKは1996年に初版が発行されて以来、約4年に一度のペースで改訂されています。最新版は第7版で、2021年10月に日本語版がリリースされました。第7版へ改訂された理由は、トレンドや市場環境の変化、技術の向上などに対応するためですが、今回の改訂は、第6版までのものと比べると大きな違いがあります。
第6版までは、ウォーターフォール型の手法を主として構成されていましたが、第7版では「アジャイル型の手法」を追加した構成になりました。
ウォーターフォール型とは、開発工程を企画・設計・実装・テストに分割し、企画から順番に開発するものです。上流から下流へ水が流れ落ちるような開発の様子から「ウォーターフォール」と呼ばれます。しかし、企画段階ですべての機能・予定・予算などを決めてから開発を始めるため、仕様変更などに対応しにくい欠点があります。
一方、アジャイル型とは、開発を小さな単位に分けて、短い期間でテストを繰り返して実装していきます。開発中に仕様の変更などがあっても柔軟に対応できるのが強みです。ウォーターフォール型と比べて開発期間が短い手法のため「アジャイル(素早い)」と名付けられています。
技術進歩の速度が目覚ましく、開発途中での変更も珍しくない近年では、ウォーターフォール型による開発に疑問が生じやすい傾向です。ITやソフトウェア開発では、アジャイル型の開発が多く採用されるようになっています。
また、第7版では分量がコンパクトになり、日本語版で約780ページあった第6版に対して、約370ページに減っています。
PMBOK第6版と第7版の違い
PMBOK第7版は、第6版と比べるとウオーターフォール型からアジャイル型へと大幅な変更があったとお伝えしました。具体的には、どのような変更があったのでしょうか。おもな変更点を解説します。
(1)ハウツーから原理・原則へ
PMBOK第6版までは、プロセスと呼ばれるインプットしたものをアウトプットするためのハウツーがコンテンツの主体でした。あらゆるハウツーを網羅しようとしていたため、第6版までは辞書のように分量が増していましたが、現在は手法の多様化によりハウツーを網羅しきるのが難しいという側面があったようです。
そこで第7版では、ハウツーを網羅するのではなく、プロジェクトの方針や考え方などの原理・原則をコンテンツの主体としたのが、大きな変更点の一つです。
(2)成果物提供から価値提供へ
PMBOK第6版までは、「予定された成果物を、予算と期限を守って提供すること」に焦点が当てられていました。しかし、予定や成果物にこだわると、変化の激しい時代に対応しきれない面があったのでしょう。
そのため、成果物提供から価値提供へ焦点が移ったのも、第7版の大きな変更点です。価値提供とは「臨機応変に変化に対応し、価値のある成果物をつくりだすこと」で、変化に対応したより良い価値提供に重点が置かれています。
(3)「5つのプロセス群」から「12の原理・原則」へ
第6版まで、PMBOKのプロジェクトマネジメント標準にあった、立ち上げ、計画、実行、監視・コントロール、終結による「5つのプロセス群」は「12の原理・原則」へ変化しました。
「12の原理・原則」とは、プロジェクトを進めていくための原則的な指針のことです。テーラリング、複雑性、リスク、順応性と柔軟性、チェンジ・マネジメントなど、変化への対応を意識した内容で構成されています。
ただし、12の原理・原則は一般的な指針であるため、実際には個々のプロジェクトに合わせて、具体的に調整していく必要があります。
(4)「10の知識エリア」から「8つのパフォーマンス・ドメイン」へ
PMBOK第6版まではプロジェクトマネジメント知識体系に「10の知識エリア」と呼ばれる項目がありましたが、第7版では「8つのパフォーマンス・ドメイン」に変更されました。
「8つのパフォーマンス・ドメイン」とは、プロジェクトを効率的に成し遂げるために網羅すべき行動領域を示したものです。具体的なハウツーではなく、それぞれのドメインがプロジェクトにどのような影響を与えるのかが説明されています。8つのパフォーマンス・ドメインを表にまとめます。
(5)「ITTO」の記載がなくなった
ITTOとは「Input, Tools and Techniques, Output(インプット、ツールと技法、アウトプット)」の略です。インプットしたものに対してツールを使ってアウトプットする、一連のプロセスのことを指します。従来のPMBOKは、このプロセスの紹介がおもで、コンテンツの大部分を占めていました。
しかし、第7版ではITTOは「モデル、手法、成果物」として簡潔にまとめられたため、第7版の分量が大幅に減りました。ただし、ITTOは完全になくなったわけではなく「PMI standards+™」から参照できるようになっています。
PMBOK改訂によるPMP試験への影響
PMBOKはPMP試験のベース資料として使われているため、大幅に改訂された第7版がPMP試験に与える影響がどの程度なのかが気になるところです。しかし、現時点ではPMBOK第7版がいつからPMP試験に適用されるのか、PMIからはっきりとした声明はありません。
ただし、第6版までと比べて大幅にボリュームが減った第7版だけでは、PMP試験対策が不十分なのは確かです。これまでどおり、PMBOK第6版も使用して勉強を続ける必要があるでしょう。
今後、PMP試験の内容などが変化する可能性があります。PMP試験の受験を考えている方は、情報収集を怠らないようにしましょう。
PMBOK第7版は実用性重視の改訂
PMBOKは、プロジェクトマネジメントの世界的な標準ガイドラインとされており、ソフトウェア開発だけでなく、幅広いプロジェクトで用いられています。近年、技術革新のスピードアップなど環境の変化が激しく、PMBOK第6版までで紹介されていた従来型の手法では対応しきれなくなりました。
これにより、2021年に第7版に改訂されました。PMBOK第7版では、第6版まで中心だった具体的なプロセスの紹介をやめて、プロジェクトを運営するうえでの原理・原則を中心に説明しています。第6版までのPMBOKは「実用性に欠ける」との声もあり、第7版では実用性を重視した内容に改定されました。
こうした変更があっても、プロジェクトマネジメントでのPMBOKの重要性は変わりません。また、PMP試験対策にも欠かせない資料です。変更点の理解を深めましょう。
(株式会社みらいワークス FreeConsultant.jp編集部)