“AI医師”も誕生!? 医療分野でも進むAI活用
作成日:2018/08/22
医療現場の課題解決にAI活用が進む
2016年、乳がんの転移を発見するための画像診断に世界中の11人の医師と32の人工知能(AI)が挑み、その判定の正確度を競うコンテスト「CAMELYON 16」が開催されました。この結果、優勝したのはAI。
米ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学の研究チームが開発したAIの成績は、11人の医師の平均値を大きく上回ったのです。人間の医師がAIと同等の判定を行なうには30時間かかったという結果からも、格段に速いスピードで判定を下すことができるAIの性能は、実際の医療の場面での活用に期待をもたせるに十分なものでした。
同じく2016年、東京大学医科学研究所では、2000万件にもおよぶ医学論文を学習したAIが、専門医でも診断が困難とされる特殊な白血病を約10分で見抜いたという出来事がありました。“診察”したAIは米IBMのWatson(ワトソン)。ワトソンはこの画期的な“診察”に基づき、使用する抗がん剤を変更するよう担当の医師に“助言”して患者の命を救ったといいます。
AIは、いまやさまざまな分野での活用が進んでおり、近年では将棋や囲碁でプロの棋士に勝利を収めたというニュースでもその存在を知られるようになりました。その応用が、医療の世界でも進んでいるのです。
AIの大きな特徴は、過去に蓄積した膨大な情報やビッグデータなどを短時間で処理することができることと、自ら学習して処理制度を高めることができること。そのため、何万件にもおよぶ医学論文の情報処理も人間のように疲れずに行なうことができますし、ディープ・ラーニング(深層学習)などの技術によって人間が都度指示を与えずとも学習を継続して専門医にも匹敵するような専門性を身につけることができるというわけです。
そうした特徴を生かしてAIの得意分野をAIに担当してもらうことで、人間の医療と組み合わせながら、医療の現場における数々の課題を解決する——。そのための有力な手段として、AIが活用されはじめているというわけです。
☆あわせて読みたい
『【PMOコンサルタントとは】つまらない?意味ない?キャリアに使えない?向いている人と今後の将来性・年収を解説!』
『【PMOとは】PMとの違い(仕事内容・意味・職種)と向いている人、業務に必要な資格・スキルセットを解説!』
『【フリーコンサル PMO】年収は?必要なスキルや資格は?つまらない?メリット・デメリットも解説』
豊富な論文を読み込み治療に生かす
前述の東京大学医科学研究所にワトソンが導入されたのは2015年。以来、医療の現場で活用するための研究が進んでいます。ワトソンに患者の情報を入力すると、ワトソンが学習した膨大な数の医学論文の情報をもとに、関連すると思われる文献や適切だと考えられる治療方法を探し当てることが可能です。先にふれた白血病の“診断”も、その成果の一つ。患者の遺伝子情報を集めてワトソンに入力し、がんの発症に関連すると思われる遺伝子変異を選出させ、それを標的とする治療薬を提示させたのです。
学習材料となる医学論文は日々膨大な量の発表があり、人間がそれらをすべてタイムリーにインプットするのは非常に困難です。しかし、AIであるワトソンは、世界中の豊富なデータを短時間で読み込み、“診断”に生かすことができます。
同じくがんという分野では、国立がん研究センターとNECがAIを活用したリアルタイム内視鏡診断支援システムを開発しています。これは、大腸の内視鏡検査を行なう際、AIが検査時の撮影画像をリアルタイムで“確認”し、がんやポリープの病変を検知したらアラート音を発し、撮影画像の該当部位を丸で囲むことで、内視鏡医の見逃しを防ぎ病変発見を支援するというものです。
AIを活用することで病変を効率よく発見できるようにして見逃しを防ぎ、医師の技量に左右されず高いレベルの内視鏡検査を可能にすることができるとされています。その結果、大腸がんの罹患率や死亡率を低くすることにつなげることが期待されます。
いずれも最終的に診断するのは人間の医師であり、AIの“診断”がそのまま使われているわけではありませんが、医師の負担が軽くなるばかりでなく、病気の発見や有効な治療方法を見出す有力なサポートになるのは、患者にとってはありがたいメリットです。
AIによる病変検知で検出精度向上
医療分野におけるAI活用で特に研究が進んでいるのは、この画像診断の分野。画像診断とは、X線撮影やMRI、CT、広義には超音波エコーや内視鏡検査なども含めて体の中の器官を撮影し、その画像をもとに診断するものです。
米国のEnlitic社では以前からこの領域の取り組みが進んでおり、ディープ・ラーニングの技術を活用して画像検査の結果から診断精度の高いがん検出を可能にするサービスを提供しています。総務省発行の「平成28年版 情報通信白書」による、AIを活用したEnlitic社の悪性腫瘍検出についての記述によれば、「肺がん検出率の精度は、放射線医師が1人だけで肺がんを検出する精度を5割以上も上回るという」とのこと。(※)
日本では、がんは35年連続で死因トップであり、およそ3人に1人ががんで亡くなっています。まだまだ未知の部分も大きいがんという病気を治療するにあたって、こうしたAIのサポートは大きい助けとなり、がん治療の発展も期待できることになります。
出典:平成28年版 情報通信白書「第1部 特集 IoT・ビッグデータ・AI~ネットワークとデータが創造する新たな価値~」
創薬AIで新薬開発を効率的に
医療の現場では「医薬品」も重要な役割を担っています。AIは、この医薬品開発においても活用が進んでいます。従来、新薬の開発は長い期間と多額の費用がかかっており、日本製薬工業協会によれば、現段階では1つの薬を生み出すためにかかるコストは、9年から17年にもわたる期間と数千億円にも及ぶとのこと。これだけの費用を必要とするのにもかかわらず成功の確率は0.0032%と非常に低いのです。
そこで、AIが医学論文を学習し、新薬の候補になり得るような新たな物質を見つけやすくすることができれば、新薬開発の効率化を助けることになり、その場合のコスト削減効果として費用半減、業界全体で年間1兆円を超えるともみられています。
日本国内では、京都大学や製薬・IT関連企業など約70社で構成される共同研究体が2017年7月から創薬専用のAI開発に着手。2018年1月には、ディー・エヌ・エー(DeNA)が塩野義製薬・旭化成ファーマの2社とAI創薬の実現可能性を技術的に検証する共同研究を開始しました。塩野義製薬は、AI活用で臨床試験データの解析をセミオートメーション化する取り組みも進めています。
人間からミスを完全にゼロにすることはできません。医師のすぐれた知識や技術をもってしても、勘違いや先入観などで誤診が生じてしまうことはあり得ることですし、病変を見逃してしまうということも残念ながら起こり得ることです。日々発表される論文も、医師一人ひとりが読み込んで活用するのは困難です。
AIはそうした点を補うことができます。勘違いなどから解放されデータをもとに客観的に判断することができますし、豊富な論文を短時間で学習して診断精度の向上に生かしていくこともできます。医師が的確な判断を下すためのサポートをAIが担い、医師が最終判断と治療を担当するという役割分担がより進むようになれば、患者は医療の進歩のメリットをより享受することができるようになるでしょう。
(株式会社みらいワークス FreeConsultant.jp編集部)