どうなる?マイナンバー制度のビジネスチャンス 海外事例と日本の今

作成日:2017/02/10

 

生活者に利用されないマイナンバー制度

マイナンバー制度

2016年1月にマイナンバー制度が導入されてからもうすぐ1年が経過しようとしています。2016年夏に日本法規情報株式会社が行なった調査では、「マイナンバー制度を知っている人」は全体の99%に上りますが、「マイナンバー制度を利用したことのない人」は89%もいて、今のところ政府の思惑通りには浸透していない様子が伺えます。

実際、同調査の回答者の56%はマイナンバー制度が「不必要」と答えており、メリットを感じる個人は多くないこともわかります。この背景には、情報セキュリティに関する不安があるようです。

内閣府が行った「マイナンバー制度に対する懸念」に関する調査結果を見ると、「個人情報が漏えいすることにより、プライバシーが侵害されるおそれがあること」と答えた人が34.5%、「マイナンバーや個人情報の不正利用により、被害にあうおそれがあること」と答えた人が38.0%となっています。また、行政の業務効率化という国の都合だけが全面に感じられていることも、一般の人々がマイナンバー制度に必要性を感じない原因のひとつかもしれません。

一方で、「マイナンバーを利用するメリットを知りたい」という人も30%存在しており、上記の不安払拭のための取り組みいかんによっては、利用が大きく促進される可能性もありそうです。

そこで今回は、もう一度マイナンバー制度の概要を確認するとともに、導入前2兆円規模に達すると言われたビジネスチャンスについて考えてみたいと思います。

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マイナンバー制度のおさらいと直接的なビジネスチャンス

 

総務省の説明によれば、国民一人ひとりが非公開の12桁の固有番号を持つことになるマイナンバー制度とは、下記の3つを実現するための社会基盤であるとされています。

(1)行政手続の簡素化による国民の利便性の向上
(2)国や地方公共団体等での手続に要する労力が削減されることによる行政の効率化
(3)国民の所得状況の把握が容易になることによる公平・公正な社会の実現

また、内閣官房のホームページにあるように、「民間事業者は従業員やその扶養家族のマイナンバーを取得し、給与所得の源泉徴収票や社会保険の被保険者資格取得届などに記載して、行政機関などに提出する必要があり」、「証券会社や保険会社が作成する支払調書、原稿料の支払調書などにもマイナンバーを記載する必要がある」とされており、企業は高度な個人情報の管理を行う必要に迫られます。

この際に生まれる直接的なビジネスチャンスが、IT分野でのマイナンバー対応システム構築やデータセキュリティ強化、あるいはコンサルタントによる個人情報の管理指導やマイナンバー関連セミナー、税理士・社会保険労務士などいわゆる士業による行政機関への届け出代行といったものです。

しかし、その他の派生的なビジネスについては、今のところ目立った動きはないようです。変わったところでは、マイナンバーカード用の写真を出張撮影するという写真館や、書類としてのマイナンバーを保管する業務用金庫の拡販に力を入れているところがある程度です。

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海外のマイナンバー制度とビジネスへの応用

すでにマイナンバー制度と同じ仕組みを導入している国としては、アメリカ(社会保障番号)と韓国(住民登録番号)、そしてスウェーデン(個人番号制度)が有名です。このうち韓国の住民登録番号は、金融・通信・不動産取引の分野で利用されているほか、レンタルビデオ店での会員番号にも適用されています。さまざまなビジネスシーンでの本人確認資料として、また取引履歴を基にした与信管理などにも使われているのです。

また、1947年に導入されたスウェーデンの個人番号制度は、今日ビジネスシーンでの応用がかなり進んでいます。同国において個人番号は、国税庁所管のSPAR(Swedish Population and Address Register)という独立性の高い機関で管理され、氏名や年齢だけでなく、結婚歴や離婚歴、離婚の際の慰謝料や養育費、納税額まで幅広い個人情報を保有しています。

さらにすごいのは、DMリストが欲しい民間企業がSPARに申請すれば、一括して希望する層の住所と氏名を提供してくれるということです。これにより、子供が生まれた家庭におむつのDMを送ることも可能になっているという話も伝わっています。

一種のBPR(Business Process Reengineering)とも言えるもので、これが可能になったのも、システムセキュリティが万全で、国民の理解も得られており、政府への信頼度も高いためでしょう。それだけスウェーデン国家の系統だったオーガニゼーションは目を見張るものがあります。

もし、日本のマイナンバー制度を利用してスウェーデン同様のDMサービスなどを実施するのであれば、十分な犯罪の防止策や情報漏えいに対する相当なセキュリティ確保が必要になると考えられます。さもないと、アメリカで起きた、なりすましによる個人情報の悪用や韓国で起きた1億件以上の個人情報流失事件のような、マイナンバー制度そのものの信頼を揺るがす事態が起きかねず、ビジネスチャンスどころの話ではなくなってしまう恐れがあります。

 

「マイナポータル」次第で派生ビジネスのチャンスが決まる

マイナポータル

マイナンバー制度が国民に浸透しておらず、企業にとってもビジネスチャンスになりうるのかが見えてこないもうひとつの理由は、「マイナポータル」の実体がはっきりしない点にあると考えられます。マイナポータルとは、内閣官房のホームページで「行政機関がマイナンバーの付いた自分の情報をいつ、どことやりとりしたのか確認できるほか、行政機関が保有する自分に関する情報や行政機関から自分に対しての必要なお知らせ情報等を自宅のパソコン等から確認できるもの」と紹介されている通り、マイナンバー制度のデータベースとも言えるものです。

しかし、そんな中でも経済産業省はマイナンバービジネスの可能性についてかなり強気で、マイナポータル運用後の主なビジネスチャンスを次のように予想しています。

(1)本人確認手段としての利用

・クレジットカード会社
・先物取引会社
・ビデオレンタル

(2)個人信用の向上目的

・オークションサイト
・お見合いサイト
・クラウドソーシング

(3)高いセキュリティの応用

・ショッピングサイト
・ネット証券
・ネット先物取引

(4)個人番号カードに紐づけたスマホ等を活用したビジネスの創出

・電子ポイントカード
・電子興行チケット
・電子診察券

(5)リコール情報周知システム

・メーカー

(6)電子私書箱機能への民間参入

 

また、経済産業省は2015年9月に行われたマイナンバーの民間開放に関する勉強会資料の中で、「公的個人認証を用いて、どのようなビジネスを行ないたいですか。可能ならば、ビジネスの概要を教えてください。」、「教えて頂いたビジネスの概要は、経済産業省が対外的に説明する資料などに参考事例として加えます。(御社のビジネスを経済産業省が宣伝して回ることになります)」と、民間企業から具体的なビジネススキームを募っています。

しかし、これは2015年7月時点での見解であり、2017年1月に運用開始予定のこのポータルサイトは「日本年金機構に対するサイバー攻撃への対応などで、各省庁が持つ情報の連携を先送りする方向」(産経新聞)となっており、本格運用は2017年7月にずれ込む見通しとなっています。そのため、2017年1月の暫定運用開始時には提供できる情報がかなり限定されると言われています。このため、マイナンバー制度によるビジネスチャンスが訪れるのは、早くても2017年7月以降と予想され、個人情報の民間利用の解放度合いによっても、かなり左右されることになりそうです。

 

あまり知られていないことですが、2015年10月から11月にかけて、個人と同様に行政機関や民間事業者にも13桁の法人番号が指定されました。今後起業する法人に対しても同様に法人番号が割り振られます。これが個人のマイナンバーと異なるのは、法人の名称、所在地、法人番号がインターネット上で公開され、利用制限なく「民間による利活用を促進」することが謳われていることです。肝心の民間による利活用の促進については、現在のところ「取引先情報等の入力補助による効率化」、「売掛金管理等、会計業務の効率化・自動化」など限られた分野しかなく、企業システムの改変を手がける一部IT企業以外に目立ったビジネスチャンスが存在しないという状態にあります。

しかし将来的には、法人番号を利用したリクルーティング関連ビジネスや、企業情報の透明化によるブラック企業判別対策、B to Bでの見込み顧客発掘のためのマーケティング利用などさまざまな活用法が考えられます。現在、法人番号のデータを具体的なビジネスに取り入れた例はなさそうです。それだけに、いち早く活用方法を見つけた企業が有利になることが予想されます。

ただ、マイナポータルの本格運用延期というシステム上の課題、セキュリティ不安に関する国民感情、マイナンバーを利用した具体的な事業例が示されていない状況などを考え合わせると、マイナンバービジネスが大きな広がりを見せるにはもう少し時間がかかるのではないかとも思われます。今はマイナンバー制度の動向を注意深く見守り、制度そのものに何らかの動きがあったときに素早く動けるよう、情報収集に専念する時期なのかもしれません。

 

(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)

 

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