「大事なのは覚悟だけ」子育てしながら働き続けるための環境を自ら作り出したベビーカー社長ワーキングマザーは道なき道を駆け抜ける

作成日:2017年10月2日(月)
更新日:2018年6月13日(水)

必要な環境がないのなら、自分で作ってしまえばいい。徹底した自己責任で自らの道を突き進む彼女の強さの秘密とは?

みらいワークスがお届けする「プロフェッショナリズム」、今回のインタビューは佐久間映里さん。
大手求人広告の営業経験とモバイル系ベンチャー企業での人事・広報を経て独立。現在は株式会社プラスカラーの代表取締役を務めていらっしゃる佐久間さんは、1歳10か月になる男の子のママでもあります。「子育てをしながらでも、働き続けられる環境を作りたかった」とおっしゃる佐久間さんに、起業に至ったきっかけやこれまでのご苦労、そして佐久間さんと同じような想いを抱いている女性へのメッセージなど、聞くだけでパワーがみなぎってくるようなお話をたくさん伺ってきました!

プロフェッショナルとして活躍する女性フリーランス特集・第1弾! ぜひお楽しみください。

佐久間 映里

今回のインタビューにご協力いただいたプロフェッショナル人材・コンサルタント

高校・大学とソフトテニスに明け暮れインターハイにも出場、個人では全国9位という成績を残す。大学卒業後、リクルート求人広告会社に営業職として入社し、新人MVPや通年MVPを受賞するなど数多くの実績をあげる。2009年、株式会社サイバードへ転職。モバイルサイト構築とモバイルプロモーションの法人営業に2年間携わり、人事部で採用担当を務めた後、広報に異動。“攻めの広報”というキャッチフレーズでメディアなどにも数多く取り上げられ、型にはまらないスタイルでの活動を貫く。マルチな活動の末、前職時代に感じていたロールモデルがいないことからの女性社員の退職問題に対して解決するサービスを生み出したいという想いから30歳を目前に独立し、2013年に株式会社プラスカラーを設立。   株式会社プラスカラー:http://pluscolor.co.jp/

佐久間 映里

子育てをしながら働き続けられる環境を作りたいと"独立"

佐久間さんが代表取締役を務める株式会社プラスカラーにはお子さんを連れて出勤している社員の方もいらっしゃるそうですが、そうした“お子さんを抱っこしながら働く”というワークスタイルを「カンガルーワーク」と言うそうですね。お恥ずかしい話なのですが、今回初めてその言葉を知りました。

佐久間さん(以下、敬称略):今は保育園に預けていますが、私も息子が1歳になる頃までは抱っこ紐で抱っこしながらパソコンに向かっていました。おっしゃる通り子連れワークをしている社員もいるので、社内には簡易的ではありますがキッズスペースも設けています。

私の会社は社員全員が「時短で働く」、「子連れで働く」という環境を選んで来てくれているので問題ないのですが、フルタイムで働く方が大多数のいわゆる一般企業では、こういうワークスタイルは大変だと思いますね。やはり、子供の泣き声はない方が当然集中できますから(笑)。

全社員が時短勤務で16時以降は会社に誰もいないそうですね。それで仕事が回るというのは素晴らしいことですよね。

佐久間:いえいえ、本当にギリギリでやっていますので(笑)。子連れワークの大変さはいろいろありますが、オフィスを借りる段階からその厳しさは痛感させられましたね。商業ビルの場合は騒音の観点から子連れでの入居を断られるケースが多いですし、広いオフィスを借りて防音対策をしっかりやるような余裕もありません。子連れ社員の人数分のベビーカーを置くための場所も考える必要があり、今のオフィスも借りるだけで一苦労でした。

そんなご苦労もあったのですね。やはり一筋縄ではいかないのですね。現在は広報人材の育成事業や人材採用支援を手掛けていらっしゃるそうですが、独立されるまではどのようなキャリアを歩んでこられたのでしょうか?

佐久間:優劣のつく会社で自分がどこまでやれるのか試したいと思い、大学卒業後はリクルート求人広告会社に就職し、営業としてバリバリ働きました。その功績を買われ、モバイル系ベンチャー企業であるサイバードへ転職。BtoB事業部立ち上げのタイミングでジョインし営業として活動した後、社内移動の機会をもらい人事と広報の仕事を経験しました。特に広報に関しては立ち上げをやってくれというミッションだったので、その時の経験を通していわゆるベンチャーでの広報機能の立ち上げ方を実践的に学びました。サイバードにいる頃から、スタートアップを立ち上げた友人からの広報立ち上げに関する相談を受けることがあったのですが、独立したタイミングでも同じようなお話をいくつかいただいていたので、少しずつお金もいただきながらアドバイザーとして入らせていただくようになり、その中で“クライアントの社内で広報として動ける人材を育成する”という動き方が徐々に事業になっていったという感じですね。

なるほど。独立されたのは29歳の時だったそうですが、そのタイミングでの決断には何かきっかけがあったのですか?

プラスカラー 佐久間映里佐久間:当時まだ子どもはいませんでしたが、30歳を目前に妊娠出産を意識するようになりました。「今後出産し、子育てをしながらでもキャリアを上げていく働き方を理想としていたので、それを実現しようとすると今の会社では厳しいな」と思ったのがきっかけです。25歳で結婚して、実際に子どもを産んだのは33歳の時でしたが、29歳の時に出産後のキャリアを見据えて「チャレンジするなら子どもがいない今のうちだ!多少無理してでも自分の裁量で働きたい。そして同じように感じている女性達を中心とした組織を作りたい!」と。

前職での広報という役割は社内で2人しかいないポジションだったので、出産で1年半も休んだ後に同じ部署に戻れる保証はない。仮に同部署に戻れたとしても、やりがいに繋がる責任のある仕事を任せてもらえる可能性は低かったと思います。ただ・・・転職しようにも、まだこのタイミングではどの企業もワーキングマザーに対しての寛容度は高くなく、環境を変えたとしても結果は同じだろうそれなら自分で理想の環境を作ってしまおうと考えました。

子育てをしながら働ける環境を作るために独立したということですよね。すごい行動力ですね!

佐久間:いえいえ、特にやりたいことがあったわけではないのですが、「働き続けたい」という想いは強かったので、子どもを産んでも第一線で働き続けるにはどうすればいいのだろうと考えた結果、今の道を選んだというだけなんです。

子育てしながら仕事をしようと思っても、ロールモデルになる女性は少ないのが現実ですよね。それなら自分がロールモデルになって先頭を走ればいいじゃないか、そうすれば「自分にもできるかも」と思える人が増えるかもしれない、そう思って頑張ってきた感じですね。

今の自分を作ったのは“目の前のやるべきことに120%全力で取り組んできた結果”

ご出産の時など、女性ならではの“働けない時期”もあったと思うのですが、起業して経営者として働く中で大変だったことがあれば教えてください。

佐久間:妊娠中に、つわりで強制的に2ヶ月間入院となった時期に突然社員が全員一気に辞めてしまった時は本当に大変でしたね。這うように出社してクライアントに謝罪して・・・今思い出しても二度と経験したくない人生最大のどん底な時期であり、壮絶な出来事だったと思います。

上記の経験とはまた違った大変さではありますが、テレアポや飛び込み営業をしていた新人時代にも想像を絶するようなさまざまな地獄のような経験はしているので、起業してからの苦労についてはあまり感じておらず、大抵のことは許容範囲に収まってしまいます(笑)。一人で起業したのでどんなに大変なことがあっても誰ともシェアできないという辛さは正直ありますが、今では大概のことは「こんなものか」と受け流せるようになってしまいました(笑)。

笑いながらお話してくださるエピソードが壮絶すぎます(笑)! そういった考え方はいつ頃から養われたものなのでしょうか?

佐久間:もちろん新人時代に鍛えてもらったというのもありますが、高校・大学でずっとテニスをしていたので、そこでもメンタルは鍛えられたと思います。特に気持ちを切り替える力がついたのはテニスの影響かもしれません。

あとはやはりお客様に育てていただいた部分が大きいですね。若いころから視座の高い経営者の方々とお話しさせていただく機会が多く、刺激を受けることがたくさんあったので、そういう中から今の価値観が生まれ、徐々に研ぎ澄まされてきたのではないかと思います。

やはりそういう経験は若いうちに積んでおいた方がいいのでしょうね。

佐久間:個人的には25歳くらいまでに経験しておいた方がいいと思いますね。就職してからの3年間が勝負だと思います。厳しいことを言うようですが、20代後半や30代になってしまうと、既に植え付けられた価値観が根深すぎて何か指摘されても受け入れられなかったり、受け入れたつもりでいてもなかなか自分を変えられなかったりするのではないかなと思うので。

現在の事業のひとつに、広報の機能自体を請け負うのではなく“広報として動ける人材を育成する”というビジネスがありますが、ご自身が専門家として広報業務を請け負うという選択をされなかったのはなぜなのでしょうか?

佐久間:もともと子育てと仕事を両立させていくというのが大前提だったので、“自分が動かなくても組織で仕事を成立させていく”というのを意識した結果、「自分で請け負うよりも、社会的に意味のある情報を提供できる優秀な人材を増やした方が、世の中にも有益な情報が回りやすくなるのではないか」という想いがありますね。「仕事だから」という割り切りだけでは成り立たない、最終的には経営者との信頼関係が大事になってくるのが広報という仕事であるとも思っているので、トレーニングという形でクライアント側の人材を育てることの方が、自分で請け負うよりも意味があるのではないかと思ったことが一番の理由ですね。

なるほど。しかし、広報業務のテクニカルな部分はともかくとしても、戦略策定の部分ができる人材を育成するのは非常に難しいのではないでしょうか。

佐久間:難しいのは事実ですが、実践しかないと思いますね。経営者の頭の中にある言語化できていない答えを引き出すためには、ヒアリング能力の他、クライアントの実現したいことを壁打ち相手となり引き出していくというコーチングに似たスキルも必要になってきます。正直、記事を書くようなテクニカルな部分は本を読めば載っているようなことばかりで大したことはないのですが、その上流の戦略部分は、ヒアリングから策定までの流れをイメージした上で、実際に繰り返すという訓練を通してしか身に付かないと思います。

「大事なのは覚悟だけ」

お子さんが生まれる前と後で、仕事の進め方や考え方は変わりましたか?

佐久間:時間の使い方は変わりましたね。どうしても保育園に迎えに行く時間までにはその日の仕事は終わらせないといけないですし。新規案件の取り方や人脈の構築方法についての考え方も変わりました。子供が生まれる前は経営者同士の会食をきっかけに人脈を広げたりクライアントを増やしたりしていましたが、今はそういう活動をしようにも限界があるので、組織として新規獲得という役割を設けて対応していこうといった策を考えるようになりました。物理的・時間的な制約が生まれた中でも業績を維持していこうと模索するうちに、いろいろなことに対する考え方が自然と変わってきたように思いますね。

会社として、そしてプライベートも含めて、今後の展望や目指す姿があれば是非教えてください。

佐久間:プライベートではもう一人子どもがほしいという気持ちもあります。ただ、前回の妊娠・出産で働けなかった期間が、ちょうど3期目の上り調子の時期に重なり大変な思いをしたので、できることなら同じような事態は避けたいなとは思っています。3期目の影響で苦しかった4期目を経て、今は5期目に入ってようやくまたドライブをかけられそうなタイミングになってきていますし、組織としてもやっとうまく回り始めてきたところなので、まずは確固とした基盤を作ってからまた子どものことも考えていきたいですね。

「子育てをしながら働きたいけれど自分には無理なのではないか」と迷っている女性は多くいると思います。最後にそういった女性たちにメッセージをお願いできますか?

佐久間:大事なのは覚悟だけだと思いますね。売上を立てるのもクライアントを増やすのも決して簡単なことではないし、すぐにできなくても当たり前。中途半端に理想を高く持つのは逆効果だと思います。

最近は性善説で起業する人も多いような印象がありますが、私自身は起業の良い部分だけでなく、地獄のような苦しさも体験しましたし、嫌なこともたくさん経験した結果、今ではどんなことでもある程度「こういうものだ」と受け入れられるようになりました。本当に「覚悟」があれば、お金やプライドには構わずに「いただける仕事は全部やります」という姿勢でチャンスを活かしていけると思うので、これから挑戦する皆さんもそういう覚悟を持って突き進んでいってほしいと思いますね。

 

 本日は貴重なお話をありがとうございました!

「私のつわりの時期のように、働けなくなるタイミングというのは絶対にある」、「だからこそ働ける時に働いておきたい」ともおっしゃっていた佐久間さん。壮絶なエピソードの数々をお聞きするうちに、「佐久間さんはなぜそんなに辛い思いをしてまで働くのだろう」という素朴な疑問が生まれました。しかし、それに対する佐久間さんの答えは「働くのが好きだから」というシンプルなものでした。

「働くことが好き」を根底に持ちながら、世の中に先駆けてご自身の働き方を再構築してきた佐久間さん。そんな佐久間さんのように自分の生き方を見つめ直し、理想の生き方に沿った働き方が実現できる世の中にしていきたいと改めて強く感じた素敵なインタビューでした。