「フリーランスでいることにこだわりはない」 転職するように独立したフリーコンサルタントのキャリアを活かした働き方とは

作成日:2017年6月23日(金)
更新日:2018年6月13日(水)

「転職」よりも「独立」の方が重い決断であるというイメージは、過去のものになりつつあるのかもしれません。

みらいワークスがお届けする「プロフェッショナリズム」、今回のインタビューは山本紘治さん。
フリーランスとして、主に成長拡大~多角化フェーズにある企業やサービスに対して事業と組織双方の戦略策定や課題解決のサポートを行なっている山本さんですが、独立した理由を尋ねたところ、意外な答えが返ってきました。その驚きの理由とは?そして今後の展望とは?

山本 紘治

今回のインタビューにご協力いただいたプロフェッショナル人材・コンサルタント

大学卒業後の株式会社リンクアンドモチベーションに入社し、組織人事に関するコンサルティングのほか、ブランド・マーケティングに関するコンサルティングにも従事。その後、コンサルティング会社の株式会社フィールドマネージメント、ウェブ領域のマーケティングやインキュベーションを手掛ける株式会社デジタルガレージを経て、独立。多くの企業の事業戦略策定や組織開発に携わってきた経験を活かし、主に成長拡大~多角化フェーズを迎えている企業に対し、事業と組織の両面から戦略策定・課題解決をサポートしている。

山本 紘治

事業と組織双方の戦略策定と課題解決に携わったキャリアを活かして独立

フリーランスとして、主に成長拡大~多角化フェーズにある企業やサービスに対して、事業と組織の両面に渡る戦略策定・課題解決のサポートを行なっている山本さんですが、新卒の時はリンクアンドモチベーションにいらしたのですよね。

山本さん(以下、敬称略):新卒でリンクアンドモチベーションに入社しました。もともと「これがやりたい!」という明確な何かがあったわけではなかったので、就職活動の時には会社選びの基準がなくとても悩みました。最終的にはリンクアンドモチベーションの「ひとりひとりの本気がこの世界を熱くする」というコーポレートキャッチに心惹かれたことが決め手になりました。青臭い話なのですが、会社が実現しようとしている社会にすごく共感できましたし、実際に働いている方も皆さんイキイキしていて魅力的でした。まぁ、何をしている会社なのかよくわからないし、当時まだ設立4年目だったので「怪しいな」という気持ちもあったのですが(笑)。当時もたくさんの人に「大企業から小さい会社に行くのは簡単だけど、逆はすごく難しいよ」「10年後に後悔するよ」と忠告されたのですが、10年先なんて誰にもわからないと思い、入社を決めました。

結果としてリンクアンドモチベーションは今や大企業ですから、先見の明があったということですよね。

山本:他の選択をしていた場合の結果はわからないので比べようはないのですが、あの時の選択は間違っていなかったと思います。リンクアンドモチベーションで組織人事に関するコンサルティングを経験できたこと、そして成長拡大~多角化フェーズにあったリンクアンドモチベーション自身が直面した事業や組織の課題を身を持って体験できたことは、今の仕事にも非常に活きていますし、大きな財産になりました。

その後、どのような経緯で独立に至ったのでしょうか?

山本:リンクアンドモチベーションを辞めた後、マッキンゼーなどの外資系戦略コンサルティングファームの出身者が設立した株式会社フィールドマネージメントというコンサルティング会社に転職し、3年ほど勤めました。その後、デジタルマーケティングやインキュベーションを手掛ける株式会社デジタルガレージを経て独立しました。

リンクアンドモチベーションでは組織・人事に関するコンサルティングに加えて、新規事業として立ち上げたB2C企業向けのブランディングやマーケティングのコンサルティングにも携わりました。事業としては小規模でしたが、組織人事のように間接的ではなく、直接的に収益創出につながる戦略作りを幸運にも経験できたことが自分の将来に対する志向を大きく変えました。フィールドマネージメントに転職したのは、組織人事だけではなく、収益創出まで視野に入れたマーケティングや事業経営のコンサルティングにもっと携わりたいという思いが強くなったからです。知り合いの方からフィールドマネージメントの代表をご紹介いただき、ご縁があって参画しました。

その後、戦略の立案だけではなく、立案した戦略を実行するフェーズやデータ分析をもとに効果検証するフェーズにも携わりたいという想いを抱くようになりました。つまり、事業のPDCAサイクルすべてに関わりたくなったという事です。そういった想いを抱えて、デジタルガレージに移りました。デジタルガレージはインキュベーション領域で業界では有名ですが、実はウェブビジネス向けのデジタルマーケティング支援事業を収益の柱としています。ここなら戦略と実行、さらには効果検証までが結びつくような案件に関われそうだなと思いました。実際にデジタルガレージでは、データ分析からデジタルマーケティングの戦略策定までのコンサル手掛ける新しいチームの立ち上げとそのマネジメントに携わり、希望だった事業のPDCAサイクルのすべてに携わるコンサル案件も経験できました。また、前職までの経験を活かし、所属した事業部門の成長戦略の策定から実行、事業の成長拡大~多角化に応じた組織体制づくりにも携わりました。その事業・組織づくりについては、デジタルガレージを退社した現在も外部のコンサルとしてお手伝いさせていただいています。デジタルガレージでの経験を通じて、戦略と実行は不可分であること、そして特にデジタルマーケティング領域においては実行の精度が収益創出に大きな影響を与えることを実感しました。そして、実行の精度を継続的に担保するには組織づくり・人づくりが不可欠でした。デジタルな領域と組織や人というアナログな領域が密接に関わり合っていたのです。かつてリンクアンドモチベーションで得た学びや経験を、デジタルマーケティングの領域で再度実践できたことで、腹に落ちたというか、本当の意味で血肉化されたと思います。この経験は今自分がクライアントに提供させていただいているコンサルティング内容にも非常に活かされています。

事業戦略と組織作りの両面で成長拡大~多角化フェーズにある企業やサービスをサポート

先ほど「成長拡大フェーズで企業が直面しがちな課題」というお話がありましたが、それは具体的にどういった課題なのでしょうか?

山本:一般的に事業が成長拡大していくにつれて、組織も多機能化・多階層化されて複雑になっていくので、一番表出しやすいのはコミュニケーションに関する課題だと思います。要するに、それまではいわば“ツーカー”で成り立っていたコミュニケーションが成り立たなくなったり、「わかってくれているはず」と思っていたことが理解されていなかったりして、事業責任者が「事業の戦略や指示の背景や内容が伝わっていない」と感じる場面が増えてくるわけです。ですので、ある段階でコミュニケーションの方法を変える必要が出てくるケースが多いと感じています。

私の経験上、規模としては30~40人を超えるあたりからこの課題が顕著になってくると感じています。今の業績は好調だけど半年後、1年後は本当に大丈夫なのだろうかと不安を感じている事業責任者は多いです。とはいえ、人間の認知能力と発信力に限界がある以上、事業責任者が30人以上のメンバーに対して同じ密度でコミュニケーションをとり続けるのは不可能なので、間にいるミドルマネジメントの存在や仕組み化によるコミュニケーションの量・質の担保が肝になってきます。ただ往々にして、事業が直近好調であればあるほど、先を見越した成長戦略づくりやコミュニケーションを意識した組織づくりはおろそかになりがちだと感じています。

 

そういった課題に直面した企業に対しては、どのような施策で対応しているのですか?

山本:企業それぞれの状況次第で一概にこうするのが良いとは言えませんが、私がよく携わる案件を例に出します。まず事業戦略面で、過去の成功体験など過去慣性を引きずっているケース、具体例としては、事業として注力すべきKPIの設定がズレているといったケースが多いです。少し話を単純化しますが、事業・サービスの立ち上げフェーズは新規顧客の獲得が注力すべきKPIになりますが、事業の成長に合わせて既存顧客の離脱防止やアップセルなどの重要度が高まります。こう言うと当たり前のことなのですが、それに組織として対応できず事業成長にブレーキがかかるケースは多いです。もっと言うと、事業責任者はそれに気づいている、「既存顧客に注力せよ!」と指示を出していることも多いです。しかし、現場では何も変わっていない、これまでのやり方が続けられてしまっている。
こういった状況への対応としては、まず事業の目標や計画を達成するための戦略を定量データなどのファクトから導き出し、なぜその戦略なのか?を現場も納得できるレベルまで言語化し、伝わっている状態を作ること。次に、その戦略を具体的な施策に落とし込み、各施策を誰が、いつまでに、どこまでやるのかを明確に決めること。その際、事業責任者は必要な投資やリソースの確保など必要なサポートを提供します。そして最後に、各施策の進行状況をチェックし、効果検証などの振り返りを必ず行なうこと。進捗や効果が良くない場合には、その原因を特定し除外する、もしくは一時的に事業責任者が推進して背中を見せることも必要です。事業部全体に対しては、戦略の遂行度や目標や計画の達成状況を定期的にコミュニケーションし続けること。要は、PDCAサイクルを回すということで、当たり前なことですが、そもそもPlanがない/Doとの接続感がない、Doの遂行責任が曖昧、施策はやりっぱなしでCheckされない、サイクルを1周回して力尽きて終わってしまう。目標・計画の達成まで継続しなければならないのに・・・ということが頻繁に起きています。
拡大成長~多角化フェーズにおけるPDCAサイクルの特に重要なポイントとしては、これまでの何となく・口頭だけのコミュニケーションから脱却し、「納得感を醸成するロジック」と「共通言語化」を意識したコミュニケーションを実践し、組織に根付かせていくことだと思います。組織規模が大きくなり、多機能化・多階層化される中で従来のツーカーコミュニケーションでは無理があるので、コミュニケーション自体を変えることが必要です。
私はマーケティングをはじめ事業戦略のコンサル経験だけではなく、組織人事コンサルや自らの組織体験をもとに、成長拡大~多角化フェーズにあるクライアントの戦略から実行までサポートできるのが自分の強みだと思っています。

 

なるほど。組織人事領域のコンサルティングでは、企業の成長段階に応じた対応策のようなものがノウハウとして蓄積されやすい印象がある反面、それでもやはり、さまざまな企業が同じ課題に直面し続けていますよね。これはなぜなのでしょうか?

山本:私もまだ経験が浅いので答えには辿り着いていないのですが、そういった課題が「解決はできるが回避はできないもの」だからなのではないでしょうか。特に組織課題は瞬間的に現れるものではなく恒常的に存在するものだと思います。課題自体は常にあるものの、業績がいいと覆い隠されがちで、悪くなると露見しやすい、つまり程度が悪くなると認識されやすくなるだけなのではないかなと。

結局のところ、「顕在化していない時から手を打っておく」ことが大切で、これには事業責任者の強い意志が必要です。または「課題に対して感度を高く持ち、顕在化したらなるべく早く手を打つ」のどちらかしかないかなと。手を打つタイミングを見極めるのも非常に難しいのですが、気づいたら即やる、やると決めたらやり切る。これが大事なのかなと思いますね。

予測できない未来のことは、流れの中で変化を捉えて決めていく

そのようなキャリアを歩んでいく中で、そもそもなぜ独立しようと思ったのかを教えていただいてもよろしいですか?

山本:実はその部分はあまり聞かれたくなかったのですが・・・理由は特にありません(笑)。本当に志の低い独立で・・・(笑)。もちろん、独立する時は「今は自分のこの強みに磨きをかけた方がいいな」という考えがありましたが、それが必ずしも独立しないとできないことだったのかというとそうではありませんし。

ただ先ほどもお話した通り、デジタルガレージで働くうちに、インターネット領域の事業戦略づくりと組織づくりは切り離せない関係にあるということに気づき、自分のキャリアならその部分に貢献できるのではないかという感覚を得て、その可能性を試してみたいと思ったのは事実です。そういう想いが出てきたタイミングで、たまたま複数の企業の方から個人での仕事の打診をいただいたので、もしかするとニーズもあるのかなと。5年後同じことで食べていけるかはわからないけれど、このタイミングでいろいろな会社を見て経験を積むのもいいかもしれない、そう思って組織を飛び出してみたという感じですね。

 

「志の低い独立」という言葉は新しいですね(笑)。では、今後はどのような展望を考えていらっしゃいますか?

山本:正直なところ、3年以上先のことはわからないなと思っています。フリーでいることにこだわっているわけでもないので、バリューが出せる場やご縁があればまたどこかの企業で働いているかもしれませんし。

過去を振り返っても、リンクアンドモチベーションで途中からマーケティングのコンサルティングに携わるという展開も初めは想像していませんでしたし、その後外資のコンサル出身者と一緒に働くことになるというのも思ってもみないことでしたから、3年、あるいは5年というタームで起こることは予測できないものなのだろうなと。

おおよそ2~3年後を見据えて、どんな強みを自分に作るか、そのためにはどんな案件を経験すべきかという戦略は持ちつつ、同時に自分の強みから少し外れた案件にもチャレンジし、その経験をさらにその先の計画にどう活かしていくかということを、フリーになってからより一層考えるようになりました。この「自分の強みから少し外れた」という見極めは難しいですけどね。試行錯誤の繰り返しです。

 

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

「自分の可能性を試す良い手段が今は独立だった」という山本さん。山本さんのおっしゃる「志の低い独立」や「フリーランスでいることにこだわりはない」という言葉には、転職と独立が同列の選択肢になりつつある時代の流れや働き方の多様性が確実に広がっていることが表れているのではないかと感じます。

ご自身のキャリアを有機的につなげ、偶然のタイミングで独立という道を選んだ山本さんのストーリーに、自分にもできるのではないかと背中を押された方も多かったのではないでしょうか。

3年後や5年後は決めつけすぎずに、時代の流れの中で都度キャリアを考えていきたいという山本さんのように、未来を柔軟に捉えて挑戦する方々が一人でも増えていくことを期待してやみません。