<プロ監修>成功率を上げる新規事業戦略策定の進め方、成功の要諦とは?

新規事業のアイデアがあっても、事業の立ち上げ方やその推進方法がよくわからない…と悩む新規事業担当者も多いのではないでしょうか。
企業規模に関わらず、成功率が低いと言われる新規事業。9割の新規事業が立ち上げの時点で失敗しているという説もあります。特にスタートアップやベンチャー企業では、「新規事業の立ち上げやその推進方法に精通した人材が社内にいない」ということが最も大きな障壁になりがちです。

成功率を高めるには、新規事業の立ち上げ方とそのアプローチ方法を本質的に理解することが重要。目指す事業規模や制約条件によって新規事業の立ち上げ方はさまざまですが、大きく分けて2つのパターンがあります。

(1) 参入する事業領域や事業コンセプトが定まっておらず、ゼロベースで新規事業の構想から検討していくパターン
(2) ゴールや目指すべき姿が決まっていて、その実現に向けて現状とのギャップを埋めていくパターン

新規事業立ち上げの失敗リスクを減らすために、まず2パターンそれぞれの基本的な流れを把握しましょう。
また、これから新規事業立ち上げを検討する経営者や新規事業担当者が特に実践すべき成功の要諦について、これまで数多くの新規事業を成功に導いてきたプロの戦略コンサルタント兼経営者の視点で解説します。

※本コラムは、大手外資系コンサルティングファームにて当時最年少のManaging Director(共同経営者)として、大手企業の成長戦略や新規事業戦略の策定などの累計数百件以上の戦略コンサルティングプロジェクトの統括責任者の経験を有し、現在は東証一部上場企業の取締役CSO(最高戦略責任者)及びオンラインプラットフォーム事業等を展開する企業の代表取締役社長として活躍する業界屈指の戦略コンサルタント兼プロ経営者が監修しています。

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新規事業戦略策定の進め方-ゼロベースから検討する場合

参入する事業領域や事業コンセプトが定まっておらず、ゼロベースで新規事業の構想から検討するパターンでは、以下の4つのアプローチ方法が基本となります。

新規事業戦略策定の進め方-ゼロベースから検討する場合

1.まず最初に自社アセットの棚卸しと競合優位性の洗い出しに時間をかけて実施する

参入する事業領域や事業コンセプトが定まっておらず、ゼロベースで新規事業の構想から検討を開始する場合は、参入市場やビジネスモデルを決める前に自社の保有するアセットやケイパビリティは何か、つまり戦う戦場を決める前に戦場に持っていく自社の手持ちの武器は何であるかを洗い出すことから進めましょう。

自社アセットの洗い出しの際の視点として、

(1) マーケット視点で業界特有の課題解決に役立つアセットは何か
(2) 業界の垣根なく横断的に課題解決に役立つアセットは何か

という二軸で自社にとってのチャンスとなるアセットやケイパビリティをバリューチェーンに沿って幅広く抽出することが重要になります。

必要となるアセットやケイパビリティの棚卸し後、自社アセットの競合優位性をバリューチェーンに沿って、

(1) 単独で競争力があり、サービスの優位性に繋がる可能性が高いアセット
(2) 一定の差別化要素を持っており、他の要素と組み合わせることにより提供価値向上に繋がる可能性のあるアセット
(3) 単独ではマーケットへの提供価値やインパクトは限定的だが、事業・サービス内容によっては活用可能性のあるアセット

といった三段階で評価し、優位性の有無に関わらず、活用できる自社アセットを抽出しておくことが将来的にチャンスとなる事業領域を拡張していくための源泉となり得ます。

2.現状の自社アセットの強みから、マーケットの課題解決に向けた貢献度(Vision)と収益貢献度(Value)の二軸で評価し、「手掛けるべき事業」と「戦うべき戦場」を決定する

自社の保有するアセットやケイパビリティの強みを把握した後は、その強み(武器)をどこで、どのように発揮するのが最適か(Where to Play/How to Win)を検討しましょう。

その際に留意すべきこととして、その事業領域において強みを発揮できるか否かという視点だけのアプローチではストーリーなき「何となくできそうな事業」の積み上げで終わってしまうことになりかねません。そのため、そのアセットを活用することにより、

(1) マーケットに存在する課題解決に役立つか
(2) 継続的に高い収益性を得られるか

といった二軸で評価することで、「手掛けるべき事業」と「戦うべき戦場」を選定することが重要になります。

3.戦場と定めたターゲット事業領域について、想定される市場規模や成長ポテンシャル、自社事業の競争優位性及び成長ドライバーを明確化する

「戦うべき戦場」が定まったら、想定される市場規模、市場の成長要因や直近のトレンド、外部環境変化(政治・経済・社会・技術)における市場への影響、市場における顧客需要創出のメカニズム、競合プレイヤーのサービス提供価値等、ターゲット事業領域について徹底的に分析しましょう。
戦うフィールドや相手のことを知れば知るほど、自社事業の競争優位性や成長の源泉が明確化しやすくなるはずです。

4.流動化する外部環境変化を踏まえて、目指す姿(※複数の事業オプション)を定義し、その実現に向けたアクションプランと実行推進体制を検討する

※複数の事業オプションとは、想定される外部環境変化ごとに5年後、10年後の事業規模及び財務成果(PL/BS)、経営資源配分(投資金額・人材)を設定した事業戦略シナリオのことを意味しています。

参入事業領域及び自社事業の優位性を把握した後は、5年後、10年後のありたい姿を定義し、その姿に至るまでの事業成長の道筋・ストーリーを具体的に検討しましょう。
具体的な流れとしては、

(1) 複数の外部環境シナリオを想定すること
(2) 外部環境変化ごとに複数の事業オプションを定義
(3) 各事業オプション案において目標とする財務成果(PL/BS)及びその成果を創出するためのカネ・ヒトの経営資源配分(投資額・人材配置)を明確化

これらをすることで、実際に外部環境変化の影響を受けた際に、柔軟に事業オプションを変更していけば良いのです。

プロ人材が教える _もう迷わない_新規事業の進め方

新規事業戦略策定の進め方-ゴールが決まっている場合

2つめは、ゴールや目指す姿が決まっていて、その実現に向けて現状とのギャップを埋めていく場合です。

1つめのパターンと違い、何らかの理由ですでにゴールや最終的にありたい姿が決まっている中で、新規事業を立ち上げるパターンもあります。

この場合についても、以下の4つのアプローチ方法が基本となります。

新規事業戦略策定の進め方-ゴールが決まっている場合

1.最終的にありたい姿と現状のケイパビリティのギャップの明確化

まず現状の目指す姿が、どのような状況下で、どこに主軸を置いた事業構想であるかを把握することから始めましょう。
例えば減益局面で描いた事業戦略であれば、収益性向上と収益基盤構築にフォーカスした戦略になっているはずで、当然、検討する際の足元の状況に応じて変更していく必要があります。そのため、足元の状況や現状の実力値を踏まえた5年後、10年後に実現したい姿を再定義した上で、そこからバックキャストすることで現状の実力値(自社のケイパビリティ等)とのギャップを明確化することが重要になります。

2.ギャップを埋めるために必要なミッシングピースの洗い出し

現状の実力値(自社のアセットやケイパビリティ等)とのギャップを明確化した後は、そのギャップを埋めるためには何が必要になるかを洗い出すことから進めましょう。
必要となるミッシングピースの洗い出しの際の精度を高める秘訣としては、「現在地の正確な把握」をすることに尽きます。外部/内部環境分析を踏まえ現在地を正確に把握することを通じて、中間地点(3年後)までの手触り感のある事業戦略を描くようにしてください。その時点で、その道筋に腹落ち感がなければ、間違いなく再考すべきです。

3.必要となるアセットやケイパビリティの獲得方法の検討(Make/Borrow/Buy)

ミッシングピースの洗い出し後に検討することとしては、将来のありたい姿まで最短ルートでどのようにミッシングピースを獲得していくか(Make/Borrow/Buy)に焦点をあて、将来像の実現に向けた道筋を具体化していきます。

ケイパビリティの獲得手段としては、M&A(事業単位のカーブアウト買収を含む)や業務提携等を通じて獲得する方法が主となりますが、交渉を要しかつ一定規模以上の投資が必須になるため、計画通り進まないケースがほとんどです。そのため、不足ケイパビリティの拡充まで時間を要するものの、自社でケイパビリティの育成や自前採用により獲得していくことも必要になります。最適な提携オプションとともに、代替策についても同時に検討を進めておくことにより、状況に応じて打ち手の切り替えを迅速に行いましょう。一つの施策に固執することで、事業立ち上げの足かせとなってしまわないよう留意してください。

4.目指す姿の実現に向けたミッシングピースを獲得するための具体的なアクションプランと実行推進体制を検討する

ミッシングピースの獲得方法を検討後には、具体的に実行プランへの落とし込みを行い、推進体制を構築し、スケジュールに沿って計画を実行していきます。

この際に重要となるのが、計画の推進力と実行スピードとなります。
どんなに優秀な推進チームであっても、定めたスケジュール内に計画したアクションプランを100%計画通りに実行することが難しいケースが出てきますが、仮に計画の進捗率が60~70%であっても、実行できた範囲の中でPDCAサイクルを回していく推進力とスピード感が新規事業の立ち上げには必要です。

その主な理由としては、理想論や机上の空論だけでは、いつまで経っても、事業として立ち上げらないからです。間違っていても良いので、壁にぶつかったら、考えて改善し、また実行するというように繰り返しによる泥臭いアプローチにより、進むべき道筋を模索しながら、実行プランへ落とし込んでいくことを実践してみてください。きっと当初描いたアクションプランよりも、地に足のついた計画に変貌を遂げていることでしょう。

新規事業立ち上げにおける成功の要諦

新規事業戦略策定のアプローチとして大きく2つのパターンをご紹介しましたが、いずれのパターンでも成功率を上げるために外せない成功の要諦が3つあります。

新規事業立ち上げにおける成功の要諦

1.情緒的な議論ではなく、事実をベースとした論理的な議論を徹底する

新規事業の構想やサービスの提供価値を考える上で、まず重要なのが事実をベースとた検討がなされているかどうかということ。

将来の目指す姿やといった抽象度の高い検討をすると、検討メンバーの過去の経験談や情緒的な意見を中心とする議論に陥りがちです。実際に産業構造や外部環境が急速に変化しており、過去の延長線上で将来を予見することが難しくなっている状況下で、想定される複数の事業オプションを定義し正しく意思決定するためには、事業の成長要因や環境変化による影響等をなるべく定量的に可視化し、事実ベースで議論を尽くすことが重要になります。

2.策定した事業戦略を絵に描いた餅にしないためにも、現場への腹落ち感及び当事者意識の醸成を重視する

経営層及び事業責任者を中心にトップダウンで策定した事業戦略については、現場当事者の意識として、「経営層が決めたこと」や「自分とは直接的に関係のないこと」と感じ、実際の計画遂行時に推進力が働かなくなることが多々あります。策定した事業戦略を絵に描いた餅に終わらせないためにも、事業戦略の構想フェーズから現場レイヤーを検討に巻き込み、事業構想の実現性や今後の方向性への腹落ち感及び当事者意識を醸成することが重要になります。

3.新規事業戦略策定とあわせて、高速でPDCAサイクルを回していくための推進体制を構築する

事業戦略や事業計画の明確化はゴールではなく、変革に向けたスタートです。どんなに緻密な戦略を描いたとしても、実行力がなければ成功には至りません。
新規事業の立ち上げ時には組織改革を実行し、会社全体で取り組む例も少なくありません。常に考え、試行錯誤し、高速で改善を繰り返していく「実行力の強さ」が、立ち上げた事業が驚異的な成長を遂げるための最重要ドライバーになります。

企業体として目指す姿、取り組みの方向性を覚悟を持って決定した後には、実際にアクションプランをやり抜ける推進体制を構築し、PCDAサイクルを高速で回していくことが重要になります。

まとめ

企業の成長に欠かせない新規事業ですが、スタートアップやベンチャー企業では新規事業の立ち上げ経験が少なく、その推進方法に悩むケースが多いようです。ここでは、2パターンの新規事業戦略策定の基本的なアプローチを紹介していますので、実際に事業の立ち上げに必要な考え方を理解しましょう。

また新規事業の立ち上げにおける成功の要諦は、

「事実ベースの検討」
「現場への腹落ち感の醸成」
「高速PDCAサイクルの実行」

の3つになります。

とはいえ、自社内でこの3つのポイントを理解し、実行するには、これに精通した人材をどう確保するかという課題があります。大手企業でも社内にその業界固有の既存事業や業界の知識を持つ人材はいたとしても、新規事業立ち上げの経験を持つ人材はなかなかいません。

大手コンサルティングファームに委託する方法もありますが、フリーランスで活躍するプロのコンサルタントへ依頼する方法など、最近は選択肢が増えています。新規事業の成功率を上げるためには、外部のリソースをうまく活用するのも1つの手段でしょう。

(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)

監修者プロフィール
二井矢 祥(にいや しょう)

1986年11月23日生まれ。
慶應義塾大学経済学部在学中より、戦略コンサルタントとして事業活動を開始。
その後、大手外資系コンサルティングファームにて当時最年少でManaging Director(共同経営者)に就任し、日本を代表する大企業の成長戦略や事業戦略の策定、M&A戦略やデジタルトランスフォーメーション戦略の策定など、累計数百件以上の戦略領域における大規模プロジェクトの統括責任者の経験を有する。
現在は東証一部上場企業の取締役CSO(最高戦略責任者)として、中期成長戦略及び事業戦略の策定・実行、M&A戦略の策定から投資意思決定、グループ全体の事業ポートフォリオ管理及び予実管理の統括等を担い、グループ全体の企業価値向上に向けて戦略領域をリード。
さらにオンラインプラットフォーム事業及びテクノロジーコンサルティング事業を展開する企業の代表取締役社長、SaaSサービスを展開する企業の社外取締役、AIやプロセスマイニングを活用したコンサルティング事業を展開する企業の経営顧問等、プロ経営者及び投資家として、様々なフェーズの企業経営を牽引している。