<プロ監修>社内の新規事業立ち上げに必要な行動とマインドとは?
近年、経営の行き詰まり脱却や、企業のさらなる成長をはかるために、大企業、中小企業を問わず注目されているのが、新規事業の立ち上げです。
特に最近ではコロナウイルスの影響により、リモートワークの導入やDXを推進する企業が増加しています。変革が求められる時代にあわせ、社内の優秀な人材を活用し新しい取り組みを検討する機会も増えているのではないでしょうか。
しかし、社内で新規事業を立ち上げるといっても、良い事業の具体的なアイディアが見つからなかったり、どのようなプロセスで事業を形にしていってよいかわからなかったりと、悩みを抱える企業も多いでしょう。
そこで今回は、金融事業の戦略立案や事業計画、新規事業立ち上げの第一人者であり、M&A、出資、財務管理などの幅広い知見を持つプロ人材に、社内で新しい事業を立ち上げる際に陥ってしまいがちな失敗や、成功へ導くアプローチの方法について聞きました。
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1.社内新規事業立ち上げ時の企業の悩みとは?
― これまでどのような新規事業立ち上げに携わってきましたか
大企業からスタートアップ、そして業種も金融業に限らず、ヘルスケア事業など非金融業の業種も経験しました。新規事業ではさまざまなフェーズがありますが、ゼロからの立ち上げや1を100にするケースなど数多くの新規事業立ち上げに携わってきました。
― 社内での新規事業立ち上げで企業はどのような悩みを抱えていますか
大きく分けて3つあります。そして、悩みのケースごとに課題解決へ向けたアプローチ方法を変えています。
①新しい市場に進出したいが、知見がないケース
例えば新たに金融業で事業を立ち上げたいが社内でその市場への知見がないケースです。既存の企業のビジネスモデルをその領域の専門家を交えながら分解するところから始めます。そして分解した要素をもとに、自社のケイパビリティを最大限生かせる形に再構成します。
②知見はあるが、投資に迷いがあるケース
特に大企業では市場調査は得意ですでに多くの知見やデータは持っています。しかし、その市場を戦う場とするべきか、投資するべき新規事業なのか迷っているケースがあります。既存事業のメンバーだけでは社内調整が行き詰まりがちで、そこで第三者の視点で新規事業の将来性を見極めて投資への最後の一歩を踏み出せるよう背中を押すという役割を担うこともあります。
③何も決まっていないケース
特に中小企業やスタートアップ企業になると、とにかく新しいことをやらねばならない、というケースがあります。
このような「0→1(ゼロイチ)」の場合は、汗をかいて精力的にアイディアを検証していくことが重要です。アイディアに納得感を得るためには、会議の中でデータに向き合うだけの調査では不十分です。実際に候補となるペルソナにインタビューをして生の声を聞き、仮説を立てては示唆を繰り返す。こういった泥臭いモニタリング作業の繰り返しが「0→1」での新規事業立ち上げには求められるのです。
― 企業からはどのようなマインドが求められますか
「新しい風を入れて欲しい」という声を多くいただきます。企業が社内で新規事業を立ち上げたいと思ったときの課題の1つが「社内でのマインド」。特に長い間同じメンバーで事業を運営している場合です。考えが凝り固まって新しい発想が生まれにくい、人間関係などのさまざまなしがらみがあるがゆえ遠慮をして意見が活発でないことがあります。
そんな企業は「新しい風」を入れることが解決策の1つです。顧客が何に悩んでいて、何を欲しがっているのか。そういったシンプルなところから1つ1つステップを踏み、第三者の視点で物事を俯瞰的に見る役割も時には必要です。
2.新規事業の成功率を上げる4つの要素
ー 社内で新規事業立ち上げを成功させるためのポイントを教えてください
大企業、中小企業に関わらず、新規事業を成功させることは簡単なことではありませんが、失敗しがちなポイントを把握した上で、成功率を上げることは可能です。
(1)メンバーのモチベーション維持
新規事業の立ち上げの際に重要なのはメンバーが「自分ごと」として捉えられているかどうかです。この姿勢がないと、メンバーマネジメントがうまくいかず、その事業は失敗しがちです。
そこで大切なのがメンバーのモチベーションを上げる、「ときめかせる」マネジメントです。
自分たちが立ち上げるサービスは誰にどんな価値を提供するのかが明確で、いかに面白いものなのかという「イメージ」を提示してあげることも1つの手段です。例えばイメージがわかるような動画の制作やインターネット上の記事を用意し共有します。
次に、顧客の課題と解決策に対するシンプルなロードマップを作成し提示します。
このロードマップをミーティングのたびに提示し確認することで、いつでもスタートポイントに戻ることができるようになります。こうすると、事業の方向性にずれが生じてきたとしても軌道修正をすることができるので、チームのファシリテーションも円滑に進めていくことができます。
プロジェクトのロードマップを具体的に描いてアイディアやコンセプトを可視化することで、メンバーが一丸となって事業に取り組むことができ、モチベーションを維持することが可能となります。
(2)しがらみにとらわれない合理的な判断
大企業に多いケースの1つに、新規事業立ち上げメンバーに社内の経験豊富な人材をアサインすることがあります。
そういった人たちは、事業に精通しており優秀ですが、新しいことをはじめようとするためのスキルや経験が不足していることがあります。
長年同じ環境にいたために、社内のしがらみにとらわれて、合理的な判断ができなくなる。新しい事業をはじめる際には、経験が浅くても柔軟な考えを持った社員や、外部の第三者の意見を取り入れることも必要です。
(3)ファイナンスの知見持ったメンバーと作る事業計画書
事業をマネタイズするときは、事業計画を意味のある形で書くことが必要です。どのパラメーターが変化すると売上が伸びるのか、細かいところまでしっかりとモデリングできるかがマネタイズの鍵となります。
新しい会社を作り事業を立ち上げるときは、資金の調達をするために非常に細かいことまでしっかりと事業計画を作りますよね。しかし、社内で新規事業を立ち上げる際には、黒字化を急ぐあまり中途半端な事業計画を作成しがちです。
マネタイズをするためには社内の財務・経理部門やFP&A(ファイナンシャルプランニング&アナリシス)といった、ファイナンスの知識をもったメンバーを巻き込み事業計画書を作りあげることが重要です。
赤字が続いたとしても、「新規事業だから赤字を認めてほしい」のではなく、合理的で説明ができなければ事業の成功は難しいでしょう。
(4)スピーディーなPDCAサイクル
古い企業では、月次や四半期ごとといった長い期間で数字を追いかけていることがあります。
しかし、月次や四半期ごとにPDCAを回すと、その期間中ずっと軌道修正が効かないまま、最終的にKPIを達成できず失敗に陥ってしまします。
現代のようにデジタル化が進んでいく中では、日ごと、場合によっては午前午後など、より短いスパンでモニタリングを繰り返すことが必要です。
KPIを設定する期間と、PDCAを回すスパンを短くすることで、早めに方向転換をして事業のリカバリを図れる体制を構築しましょう。
3.新規事業成功のために取り組むべき2つの行動
これまで新規事業の成功のためには、メンバーのマネジメントや、チームが一丸となってプロジェクトに向かっていくことが必要だと説明してきましたが、メンバーの個々の行動も大切です。
(1)顧客の声を積極的に聞く
新規事業の立ち上げのプロジェクトに参画した際に「市場調査はどのように進めるのですか?」という相談を受けることがあります。
市場調査をするためにはお金を払わなければいけないという発想を持っている企業も多いのですが、難しく考えずに手足を動かすことから始めましょう。例えばお客さんに直接電話をしてみる、SNSでメッセージを送ってみるといった行動をとにかく繰り返してみればいいのです。
地道ですが、汗をかくことを怠らずに、お客さんの声を積極的に聞きにいくことが大切です。
市場調査をしてデータを積み上げてはいるものの、蓋を開けてみるとそこには顧客もいなければ、何に悩みを抱えているのか、という裏を取れていないことも多くあります。顧客の生の声を積極的に聞くようにしましょう。
(2)自ら繰り返し試す行動力
顧客の声やインターネット上での情報を収集しアイディアを得たら、自ら積極的に試していく行動力が必要です。
例えばウェブサービスであれば、実際に自分でサービスを構築し効果を見るためにデータ解析をする方法もあります。本業の中で試す機会がなくとも、1つの事業におけるモニタリングやプレゼンの機会を増やし行動を繰り返すことで肌感覚が身についてきます。その結果、PDCAをうまく回せるようになり、事業を推進していていく力が培われていきます。
まとめ
変化が急速に進む時代、企業のさらなる成長のために必要な社内での新規事業の推進。専門的な知識の不足や、市場調査が十分でないケースなど、企業ごとに抱える悩みが違うことがわかりました。しかし社内での新規事業立ち上げを成功に導くためには、ケースに応じた適切なステップを踏むだけでなく、プロジェクトメンバー個々のマインドや行動が新規事業の成功に大きく影響します。
メンバーのモチベーション維持や、凝り固まった社内のしがらみや考えを打破していくためには、新たな人材の採用や登用で「新しい風を吹かせる」ということも選択肢の1つでしょう。
また、新規事業の構想フェーズで必要な市場調査においては積極的に顧客の意見を聞き、出てきたアイディアを自ら繰り返し試す、行動力とマインドが新しい事業立ち上げの成功へ繋がるということも覚えておくと良いでしょう。
(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)
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