ホワイト物流とは? 求められている背景や推進するメリット、具体的な方策について解説

日本の物流の多くを担い、日本の経済活動と日本で暮らす人々の生活を支えているトラック産業ですが、近年は運転者不足が深刻化しています。そこで業務を効率化して労働条件や労働環境を改善し、人材の働きやすさを向上させる「ホワイト物流」の必要性が指摘されるようになり、運動が推進されています。

本記事では、ホワイト物流とはどのようなものなのか、運動が推進される背景にはどのような事情があるのか、ホワイト物流運動推進のメリット・デメリット、改善の実現に必要な方策などについて解説します。

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ホワイト物流とは

ホワイト物流_みらいワークス

日本の国内貨物輸送の4割強を担う(国道交通省資料より/※1)とされるトラック産業は、日本の経済活動に必要不可欠であり、平時においても緊急時においても日本で暮らす人々の生活を支える重要な存在です。

ところが現在、日本の人口減少や少子高齢化の加速をはじめとするさまざまな事情から、トラック運転者は減少の一途をたどっています。トラックで輸送すべき荷物があっても必要な運転者が足りず輸送が滞るようなケースも発生しており、その問題は年々深刻化しているのです。

そこで、トラック運転者不足の大きな要因の一つである労働条件や労働環境を改善するべく、「トラック輸送の生産性向上・物流効率化」「女性や60代以上でも働きやすいよりホワイトな労働環境の実現」に取り組む運動として始まったのがホワイト物流の推進です。

ホワイト物流推進運動は、国土交通省および、有識者、荷主・物流事業者の関係団体、労働組合から構成される「ホワイト物流」推進会議によって2019年3月から展開されており、運動に参加する賛同企業は1402社にのぼっています(2022年4月30日時点)。

ホワイト物流推進運動に賛同し参加する企業は、「自主行動宣言」の必須項目に合意し、賛同を表明します。この自主行動宣言はフォーマットが用意されており、それを使って作成することができます。

自主行動宣言には、自社で取り組む項目を記載します。「ホワイト物流」推進運動ポータルサイト(※2)には取り組みの推奨項目がリストアップされており、それを参考にして取り組み項目を検討することができます。この取り組み項目は、随時変更可能です。

自主行動宣言が作成できたら、提出用フォームから事務局に提出します。ホワイト物流の推進に賛同し、自主行動宣言を作成して事務局に提出した企業は、賛同企業として国土交通省から公表されます。

 

ホワイト物流が求められる背景

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こうしてホワイト物流の取り組みが求められ、参加する企業が増えてきた背景には、複数の深刻な事情が影響しています。国土交通省・経済産業省・農林水産省が2019年3月に発表した資料(※3)をもとに、その背景事情を見てみましょう。

(1)トラック運転者の減少と高齢化

道路貨物運送業における自動車運転の従事者数は、1995年には約98万人とピークを迎えていましたが、その後は年々減少し、20年後の2015年には76万7000人まで減っています。

人数の減少と合わせて、高齢化も進んでいます。2017年度の統計では、全産業・全職種の平均年齢は42.5歳でしたが、中小型トラックの運転者は45.8歳、大型トラックの運転者は平均47.8歳と、全体の平均に比べて高齢化が目立つ結果となっています。

高齢化した運転者は一定の年齢に達すれば定年などで離職することになるため、トラックの運転者がさらに減少することになるのです。

(2)運転者の不足が常態化

国土交通省などがまとめた冒頭の資料によれば、2018年12月時点のトラック運転者の有効求人倍率は3.03倍。一般社団法人日本物流団体連合会・株式会社日通総合研究所の資料(※4)では、「コロナ禍による景気低迷下でもトラックドライバーの有効求人倍率は『2倍』前後」と記述されています。

厚生労働省がとりまとめている「一般職業紹介状況」(※5)によれば、2022年3月の全産業の有効求人倍率(季節調整値)は1.22倍とあり、この違いは明らか。トラック運転者を必要とする求人が多いにもかかわらず、人が集まらない状況が常態化しているのです。

(3)負担が大きい反面、賃金が低い

ではなぜ、トラック運転という仕事に人が集まらないか——。その理由はさまざまですが、全産業と比較して「負担が大きい反面、賃金が低い」傾向にあるというのは、その大きな要因の一つといえるでしょう。冒頭の資料から、その一端を示すデータをご紹介します。

・労働時間が長い:全産業・全職種の年間労働時間の平均が2136時間であるのに対して、中小型トラックの運転者は2592時間、大型トラックの運転者は2604時間(2017年度の統計)

・賃金が低い:全産業・全職種の年間賃金の平均が492万円であるのに対して、中小型トラックの運転者は415万円、大型トラックの運転者は454万円(2017年度の統計)

そのほか、フォークリフトなどを使わず手作業で大量の荷物の積み下ろしを行う「手荷役」を求める商慣習などもあり、肉体的な負担も軽視できない問題に。トラック運転者の仕事は長時間・高負荷労働が常態化しているのが実状です。

 

ホワイト物流を推進するメリット

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トラック運転者の長時間労働・高負荷労働を引き起こしている一因としては、荷物の積み下ろしの前後で運転者が待機する「荷待ち」の長時間化や、前述の「手荷役」の商慣習などがあります。

そしてこれらは、トラック運転者や物流・運送事業者の事情というよりも、荷物を送ったり受け取ったりする「荷主」企業や納品先企業の事情から生じることが多いもの。したがって、ホワイト物流の推進を通じた状況の改善は、物流・運送事業者だけでなく荷主企業や納品先企業の賛同・協力が必要不可欠です。

「ホワイト物流」推進運動ポータルサイト(※4)では、「ホワイト物流」推進に賛同・参加し、運動に協力することにより期待できる効果の例として、次のような内容が挙げられています。

(1)生産性の向上

ホワイト物流の推進の過程では、これまで続いていた業界の商慣習や自社の業務プロセスの見直しを行うことになり、そのことが生産性を高めることにつながるなど、企業にとってもさまざまな改善効果をもたらします。

(2)二酸化炭素排出量の削減

ホワイト物流推進の目的の一つは、「トラック輸送の生産性の向上・物流の効率化」。物流が効率化すれば、必然的に二酸化炭素(CO2)排出量も削減されることになります。

(3)物流の安定確保

事業活動においても、物流はなくてはならない存在ですが、トラック運転者の不足は深刻な問題となっており、荷物を輸送しようとしてもトラックを確保できないということも珍しくありません。

ホワイト物流の推進を通じてトラック運転者の労働状況が改善され、運転者が安定的に仕事できるようになれば、荷主・納品先企業にとっては物流を安定的に確保できることになるというわけです。

(4)企業の社会的責任の遂行

ホワイト物流の取り組みは、近年求められているSDGs(持続可能な開発目標)の取り組みと共通する要素も見られます。ホワイト物流の推進もSDGsの取り組みも、社会貢献になる行動であり、企業としての社会的責任を遂行するものです。

自主行動宣言を提出し、ホワイト物流運動推進の賛同企業として公表されることで、社会的責任を全うする企業としての認知度が高まることにもつながるでしょう。

 

ホワイト物流を推進するデメリット

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問題の改善だけでなく幅広い観点でメリットの大きいホワイト物流の推進ですが、ホワイト物流の推進に賛同・参加し運動に協力する企業にとっては、短期的にはデメリットとなってしまう点もあります。

これまで物流・運送事業者が荷主企業のリクエストに柔軟に応えることができていた背景には、運転手が“無理”な労働をしていたり、効率面では“ムダ”となる荷待ちに対応していたという側面がありました。また、サービスの低コスト化は、運転者の賃金上昇を難しくする要因になり得るものです。

ホワイト物流の運動は、そうした“無理”“ムダ”を減らしてトラック運転者の労働環境を改善することを目指す取り組み。ということは、荷主企業の多様な要望に対し、これまでのように柔軟に応えることが難しくなることにつながってしまいます。

このことは、荷主企業にとっては「配送にかかる日数の増加」「物流コストの増加」という影響を、物流・運送事業者にとってはコストやサービス面で競争力の低下といった影響をもたらす可能性があります。

 

ホワイト物流を実現するための具体的な方策

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このように、短期的に見れば難しい点もあるものの、ホワイト物流運動の推進は社会的意義の大きい取り組みであり、賛同・参加して行動に移すことは、中長期的に自社の事業活動の安定化を支えることにもつながる行動です。ホワイト物流の推進に協力し、改善を実現するためには、どのような行動を進めればいいのでしょうか。

(1)ムダな荷待ちを減らす

荷主企業や納品先企業の対応キャパシティやトラックバース(トラックの駐停車スペース)の事情から生じるムダな荷待ち、運転者の仕事を長時間化し、物流全体を非効率的なものにしてしまいます。この方策としては、「予約受付システムの導入」が考えられます。

荷主企業や納品先企業が予約受付システムを導入し、物流事業者が荷役予定日時をあらかじめ予約する運用に変更すれば、ムダな荷待ちの削減を見込むことができます。荷主企業や納品先企業にとっても倉庫業務の効率化に貢献し、コスト削減や生産性向上が期待できるでしょう。

物流事業者には、車両管理システムを導入するという方策もあります。車両管理システムを導入・活用して配送ルートや運行スケジュールを最適化できれば、運転者の業務は効率化し、労働時間の短縮をはかることができます。

(2)荷役の負担を軽減する

大量の荷物を手作業で積んだり降ろしたりする荷役作業は、トラック運転者にとっては重労働であり、長時間の運転に加えて大きな肉体的負担になります。荷主企業・納品先企業にとっても倉庫作業担当者の負担を高めるものですし、何よりリードタイムの長時間化を招きます。

そこでパレットを導入・活用し、手作業ではなくフォークリフトで荷役できるようにすれば、運転者・倉庫作業担当者の負担を軽減できるだけでなく、荷役時感が大幅に短縮。全体のリードタイムも縮めることができます。

こうした変化は、将来的にITやロボットを導入して作業をオートメーション化することも可能にします。そうなれば肉体的に頑健な男性だけでなく高齢者や女性も働きやすくなり、人手不足解消の効果も期待できるようになります。

(3)ガイドライン・事例集を参照する

労働環境や労働時間の改善に向けた取り組みの一環として、国土交通省・厚生労働省は「荷主と運送事業者の協力による取引環境と長時間労働の改善に向けたガイドライン事例集」をとりまとめています。

そのほか、ポータルサイトをはじめ、インターネット上には参加する企業のさまざまな事例を参照することができます。自社に近い業種や状況の参加企業の事例を参考にすることは、取り組みやすい行動の検討に役立つでしょう。

 

 

 

近年に日本では多くの産業で人材不足が懸念されていますが、トラック産業は特に深刻です。トラック運転者の不足を解消できなければ、日本の企業活動はもちろん、人々の生活にも深刻な影響を及ぼすことになります。

この状況を改善するためには、トラック輸送に関わる多様な企業が協力してさまざまな業務を見直し、トラック運転者の労働環境や労働条件の改善を実現することが欠かせません。

そうしたことから始まったのが、「トラック輸送の生産性の向上・物流の効率化」「女性や60代の運転者等も働きやすいより『ホワイト』な労働環境の実現」を目的とする「ホワイト物流」推進運動です。

荷主企業や納品先企業など物流を利用する企業と、トラック運転者を雇用して物流サービスを提供する物流事業者が相互に理解・協力し合い、改善に向けた取り組みを進めていくことが求められています。

(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)

 

(※1)トラック運送業の現況について(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/common/001225739.pdf

(※2)ホワイト物流推進運動ポータルサイト
https://white-logistics-movement.jp/

(※3)「ホワイト物流」推進運動のご案内と参加のお願い(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/common/001284400.pdf

(※4)一般職業紹介状況(令和4年3月分及び令和3年度分)について(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_25302.html

(※5)一般職業紹介状況(令和4年3月分及び令和3年度分)について(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_25302.html