DXにも不可欠な組織デザイン!失敗要因やプロセス、成功ポイントを解説

市場環境の変化を受けた課題に対応するため、刻々と変わっていく顧客ニーズに応えるため、企業経営に変革を促すため、既存事業のパフォーマンスを最大化させて成長を目指すため、新規事業やDX推進プロジェクトを新たに立ち上げて成長を加速させるため……近年の企業経営においては、さまざまな場面で組織の立ち上げ・改編の必要に迫られることになります。

組織を構成する際は、ただ人数や役職に応じて人材を集めて組み合わせ、管理者がマネジメントすればいいというわけではありません。そこで、組織に属する社員の能力を生かし、組織のパフォーマンスを最大限に高めるためにその必要性が提唱されているのが、「組織デザイン」というプロセスです。

今回は、企業のDX推進における組織デザインを中心に、組織デザインとは何か、失敗要因にはどのようなものがあるか、企業経営やプロジェクトを成功へ導く組織デザインやマネジメントのポイント、組織デザインに役立つ分析のフレームワークなどについて解説します。

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1.組織デザインとは?

「組織デザイン」を一言でいうと、ある組織のあり方を、パフォーマンスを最大限発揮できるような構成や環境にデザインすることを指します。

企業でいえば、その組織で仕事をする社員一人ひとりが能力を発揮できるような環境を整え、組織として合理的・効率的に機能することで、企業経営や成長に貢献するというのが最終的な狙い・目標ということになります。

企業を取り巻く環境の変化が激しい昨今、経営・事業戦略の変更や課題への対応に際して組織の変革が必要となることは少なくありません。また、新規事業やDX推進プロジェクトなどの立ち上げ時には、新たな組織を編成することになります。そうした場面において必要となるのが、組織デザインというプロセスです。

組織デザインのバランス_みらいワークス

組織デザインを行うにあたっては、「リーダーシップ」「企業文化の変革」「ビジョンや戦略の明確化」のバランスが重要といわれています。優秀な人材の能力を最大限に生かすためには、適性を見極めたうえでの人材配置やマネジメントも重要なポイントになります。

競争力強化のためのマネジメントとは_みらいワークス

2.DX推進プロジェクトにおける一般的な組織編成

DX推進における組織デザインを整理する前に、ここでは、企業がDX推進を行ううえでの組織編成について、提唱されているさまざまな形態のなかから代表的な3つをご紹介します。

組織編成_みらいワークス

1)IT部門拡張型

自社にすでに存在するIT部門や情報システム部門を拡張するかたちで組織を編成し、DX推進の役割を担うのが「IT部門拡張型」です。

IT部門や情報システム部門は基本的にITの専門家であり、IT技術や各種システム、先端技術の理解も進んでおり、対応能力もあります。デジタルを活用して変革を実行するDXにおいて、スペシャリストの高度なITスキルは重要な戦力になるのです。

他方、IT部門には、事業や顧客ニーズ、ビジネス戦略、実際の業務に関する理解は深くなく、システムの保守・管理を通じて安定稼働を志向する性質から変革の推進という点では行動力に欠ける傾向があるという一面も。それを補うためには、IT部門と事業部門を橋渡しする仕組みや人材を配置するのが望ましいでしょう。

2)事業部門拡張型

「事業部門拡張型」は、自社の既存の事業部門を拡張するかたちで組織を編成し、DX推進を主導する形態です。事業や業務などの現場に立っている立場から、日々感じている課題や顧客ニーズなどをふまえ、事業の変革やDX推進のあり方を検討できるのが大きなメリット。

ただし、IT技術や各種システム、デジタルの先端分野に対する理解度はそれほど高くはないことが多く、アイデアを現実的に実現へ導く役目を担うIT部門やDX推進のためのDX人材によるサポートは不可欠です。

3)専門組織設置型

最後に、既存部門から独立したかたちでDX推進のための専門組織を立ち上げるのが「専門組織設置型」。事業部門やIT部門の関係する社員をメンバーとするのはもちろん、社外のコンサルタントやITベンダーと業務委託契約を結んで人材を一時的に招き入れるケース、DX推進のためのプロフェッショナルを新たに採用するケースなども少なくありません。

チームとして機能するためにリーダーシップをとる人材の配置や組織としてのマネジメントは必要ですが、よりすぐりのメンバーで新たな組織を構成することで、変革を実現するようなアイデアの創出やプロジェクトの実行に推進力が生まれやすくなります。

3.DX推進における組織デザインの失敗要因

企業がDX推進を実施する際には、前述のような組織編成パターンのなかから自社の状況に適したものを選択し、組織デザインを行っていくことになります。

しかし、ただでさえ容易ではないDX推進において、組織デザインの“失敗”が原因となってDX推進がうまく進まないこともままあるもの。

ここでは、組織やマネジメントの課題が原因となってDX推進がつまずいてしまうケースについて、よく見られる状況を整理してみましょう。

組織デザインの失敗要因_みらいワークス

1)トップと現場担当者との間に温度差がある

企業の経営に大きな影響を及ぼすDX推進は、経営陣・DX推進責任者・DX推進の現場担当者の間で価値観や目標を共有し、ともに同じゴールを目指して進む意識をもつことが非常に重要です。

しかし、そこにDXに対する無理解や温度差があると、経営陣の価値観や狙いが現場担当者まで伝わらなかったり、現場社員からの提案を責任者や経営陣が理解しなかったりといったことが生じ、DX推進は失敗してしまいます。

2)事業に対して自分事と感じられない

DXの推進の本質的な目標は、データやデジタル技術を活用して商品・サービス、事業、ビジネスモデルを変化させ、それを通じて組織やプロセス、組織、文化、企業などの要素を変革し、企業の課題を解決したり競争優位性を確立したりすることにあります。

これが「DXとは単なるIT化ではない」とされるゆえんですが、これを自社に置き換えて具体的にどう進めるかを検討・実行するのは簡単なことではありません。その分、トップからの指示が抽象的なものになりがちですし、DX推進を担当する組織のメンバーにとっては自分事と感じられないことも。

3)組織や参加メンバーに共感できない

DX推進には社内外の幅広い部門・関係者が関与します。その推進を担当する組織・プロジェクトにも、IT部門のエンジニア、事業部門の企画担当者や営業担当者、データサイエンティストから外部のコンサルタントまで、さまざまな人材が参画することになります。

社員にはそれぞれ通常業務があり、そこには利害関係があります。そして、その人が有する知識や理解、スキル、価値観なども人それぞれ。そうしたメンバーで構成される組織において、一定の相互理解・共感を得られるような組織デザインがなければ、一つの目標に向かって皆で進んでいくのは難しくなるでしょう。

4)組織や個人の問題・不満が解消されない

デジタル技術やデータの活用によって新たな価値を生む商品・サービス・事業を創出し、組織やビジネスモデルの変革などの実現を目指すDXの推進には、さまざまな困難がつきもの。専任であってもその負荷は軽いものではありません。

ましてや、メンバーが通常業務と兼任である、組織にDX人材がいないなど、DX推進プロジェクトの人材確保の状況やメンバーの参画スタイルによっては、組織メンバーや組織自体に大きな負担がかかり、DX推進を妨げる要因となります。こうした負担のかかり方も考慮した組織デザインが必要といえます。

4.DX推進における組織デザインのプロセスと成功ポイント

上記の失敗要因や課題をふまえ、DX推進における組織デザインを成功へ導くためには、どのようなプロセスをとり、どのようなポイントに留意すればいいのでしょうか。

とるべき選択肢は企業の状況やDX推進のあり方によって異なりますし、実際の運営上はマネジメントでのケアも必要ですが、ここからは組織デザインとしての一般的なプロセスやポイントをご紹介します。

プロセスと成功ポイント_みらいワークス

 

1)トップからゴールやビジョンを示してもらう

経営陣とDX推進の現場担当者に温度差があると、DX推進が根本からつまずく要因となってしまいます。それを防ぐためには、まずは経営陣からDX推進のビジョンを明確に提示してもらうことが重要です。

DX推進の背景となっている課題や経営状況、DX推進において重視すべき価値観、DX推進で期待したい効果、DX推進の最終的なゴール……そうしたビジョンを経営陣と現場担当者が共有できる組織デザインに留意しましょう。

2)DX推進に自分なりの意味や必要性を見出してもらう

「仕事だから」「トップから指示されたから」という意識では、能力発揮を最大化することはできません。DX推進を本当の意味で成功させるためには、メンバーが主体的に参加し、協働できる組織デザインが不可欠です。

3)組織横断のコミュニケーションができる工夫をする

幅広い人材が参画し、利害の衝突も生じるDX推進では、意見の衝突を完全に避けることは難しいでしょう。人どうしで進めていく以上、価値観を100%すり合わせるというのも困難です。

それを前提に組織として仕事を進めていくためには、率直な意見交換ができるような心理的安全性の高い組織にすること、メンバーどうしの相互理解をはかりやすい組織文化・環境を形成することなどが重要なポイントです。

4)DX人材を採用する

DX推進には、先進的なデジタル技術やデータ活用、DX推進に関連するITツールやシステムなどをはじめ、DXに関する知見・スキルを有するDX人材の参画がやはり望ましいです。DX人材がいないとメンバーの負担は高まりますし、場合によってはDX推進自体が滞ってしまうことも十分考えられます。

DX人材となり得る社員が社内に在籍している場合はその配置転換を、社内での人材確保が難しい場合は採用や外部人材の業務委託契約などを検討し、そうした人材計画も盛り込んで組織デザインを行う必要があるでしょう。

5)フォロー体制を整備する

DX推進のための組織が立ち上げられプロジェクトがスタートすると、遂行に伴う課題が多々発生します。新しい組織ならではの課題、DXという目的ならではの課題も少なくないはずです。

そうした状況下で、プロジェクト参画メンバーだけに負担をかけることを避け、メンバーが能力を最大限に発揮できる組織にしていくためには、人材を適切に管理・マネジメントし、何かあったときにはきちんとフォローできるようなマネジメント体制の整備も必要となります。

5.DX推進の組織デザインに使えるフレームワーク

既存の組織に変化を促すための組織デザイン、あるいは、DX推進や新規事業の立ち上げに向けた組織デザインに際しては、自社の課題や人材の状況を分析・整理する必要があります。

分析手法にはさまざまなフレームワークがありますが、そのなかでも有効な手法として多く用いられているフレームワークが「7S分析」というものです。

これはマッキンゼー・アンド・カンパニーが提唱した、組織を分析するフレームワーク。企業の成長戦略に必要な要素を、ハードの3要素とソフトの4要素からなる7要素の相互関係から分析するものです。

7S分析_みらいワークス

ハードの3要素は「戦略(Strategy)」「組織構造(Structure)」「社内の仕組み(Systems)」、ソフトの4要素は「人材(Staff)」「能力(Skills)」「経営スタイル(Style)」「価値観(Shared Value)」から構成されます。

6.まとめ

かつての日本社会では、数年単位で先を見通して経営戦略を打ち出し、同じ組織で長年にわたり培われた企業文化のもと、事業をマネジメントして安定運営させるといった経営スタイルは当たり前のように見られていました。

しかし今は、いかに適切に事業をマネジメントしていたつもりでも、昨日までうまくいっていたビジネスモデルが外的要因によって明日には立ち行かなくなるということも珍しくない時代です。

そうした状況で企業が生き残るためには、その行動も日々変化を起こさざるを得ません。顧客ニーズの変化を見極めながら企業の課題を分析・把握し、経営戦略上の通過地点や目的地を変化させていく——。その過程では、企業内の組織や企業自体のあり方の変革が必要となることも多くなります。

その組織改革に必要とされている要素が「リーダー」「戦略」「組織文化」「組織デザイン」です。チームビルディングについてはさまざまな手法・理論が提唱されていますが、これら4つのどの要素も、組織運営に重要な影響を及ぼす要素であることは変わりありません。

また、その組織デザインを実施する際にも、ビジョンや戦略を明確化すること適切なリーダーシップをとること企業文化を変革・改善することが重要です。加えて、情報管理も成功の鍵を握るポイントに。

DX推進というプロジェクトを遂行するなかでは、多種多様な情報の管理が必要不可欠となります。その管理負荷を低減するシステムを導入し、情報管理を適切に行うことができれば、プロジェクトの遂行を助けるだけでなく、組織としての戦略策定、効果測定、マネジメント補助などに役立てることも可能になります。

こうした組織デザインを実施する前段階として、自社の課題を分析・整理することも重要です。分析手法には多様なフレームワークが存在しています。組織デザイン・マネジメントにおいて特に有用なフレームワークとしては、マッキンゼー・アンド・カンパニーが提唱した「7S分析」が有名です。

そのほか現在は、企業経営やマーケティングに有用なフレームワークも多数提唱されています。こうしたフレームワークのなかから、目的や状況に適したフレームワークを使い分けることで、企業の経営や組織デザインを適切に進めることができるでしょう。

(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)

競争力強化のためのマネジメントとは_みらいワークス