ゼロベース思考とは?メリットや身につけ方を成功事例とともに解説

最終更新日:2025/02/04
作成日:2021/01/06
現在コンサルタントに必要な思考方法といわれるのが「ゼロベース思考」です。ゼロベース思考とは、自らの思い込みを一旦ゼロにして、まっさらな状態から物事を見る思考方法です。
一般的に人間は、経験や知識などをベースに物事を判断します。しかし、時にそのスキルや経験が思考力を低下させ、新しい発想を妨げる原因にもなります。ゼロベース思考のメリット、アイデアを出すプロセスと身に付け方や実践方法について解説を行ないます。
目次
■ゼロベース思考による4つの成功事例
(1)JRの湘南新宿ラインの運行状況
(2)旭山動物園の行動展示
(3)ユニクロのヒートテック
(4)ドトールコーヒーの価格設定
■ゼロベース思考によるデメリット
(1)手間と時間がかかる
(2)分析麻痺が起こる
(3)組織間での乱れが起こる
■ゼロベース思考を身につける3つのトレーニング
(1)クリティカルシンキングで物事を捉える
(2)異なる環境に身を置く
(3)身近な物事を題材に考えて鍛える
■ゼロベース思考でアイデアを出す4つのプロセス
(1)何が問題なのかを明確にする
(2)従来の発想を一度捨てる
(3)視点を変えて新たなアイデア出しに取り組む
(4)できることに目を向ける
■ゼロベース思考をさらに磨く方法
(1)ゼロベース思考の本を熟読する
(2)ゼロベース思考の研修を受ける
■ゼロベース思考以外のコンサルが使える思考方法
(1)Pros and Cons思考法
(2)STP分析
(3)ナレッジマネジメント
ゼロベース思考とは
ゼロベース思考とは、既存の考えや経験、規則などから一旦離れ、全くのゼロベースで物事を考える思考方法です。この思考方法をマスターすることで、新しい発想に行き着くことが可能になります。
ゼロベース思考は、特別な訓練は必要ではなく、日常生活のなかで、考え方や物事に対する見方を変えるだけで誰でも習得できます。こちらでは、ゼロベース思考を身につけるメリットや習得する道筋を具体的に解説します。
ゼロベース思考の身近な例
ゼロベース思考は、私達の生活の中にも応用可能です。
例えば、家計を見直す際に活かすことができます。家計の中で当たり前に必要だと思っていた費用を、改めて本当に必要なのかゼロベースで見直してみましょう。
生命保険への加入や、新築一戸建ての購入などの見極めが具体例です。改めて本当に必要なものだけに絞ることで、無駄な出費を削減できます。
他には、スーパーに行く時間の削減があげられます。より近くのスーパーを選んだり仕事帰りに寄ったりすることは、時間短縮に効果的ですが、ゼロベース思考ならネットスーパーを利用して買い物の時間をなくします。
似た事例で言うと、通勤時間の削減もあります。ゼロベース思考の場合、リモートワークへの切り替えや、徒歩圏内に引っ越すなどの発想に至ります。
ゼロベース思考による4つの成功事例
ここからは、ゼロベース思考によって成功した企業の事例を4つ紹介します。具体的な成功例を確認して、ゼロベース思考への理解を深めていきましょう。
(1)JRの湘南新宿ラインの運行状況
JR湘南新宿ラインは、貨物・回送路線を旅客路線として活用し、売上アップを実現しています。
関東の鉄道は高い需要があったものの、ダイヤを割り込ませたり線路を増やしたりすることは難しいとされていました。しかし、JRは発想の転換で、既にある貨物・回送線路を活用することを思いつきました。
「貨物列車で人を運ぶなんてありえない」といった考え方であれば、こういった斬新な案は思いつかなかったかもしれません。
(2)旭山動物園の行動展示
旭山動物園は新たに人気の動物を迎え入れるのではなく、「行動展示」に切り替えることで来場者数増加を実現しています。1990年代に来園者数が減少した際に、考えられた施策です。
そもそも行動展示とは、動物が快適に過ごせるように、動物本来の行動や能力を熟知した飼育員が展示方法を設計していることです。
動物たちの生き生きとした姿が見られ、動物の命について学べる旭山動物園は、世界的に注目されています。
(3)ユニクロのヒートテック
ユニクロは東レとパートナーシップを結び、ヒートテックを開発しました。
東レはものづくりを軸とした企業でしたが、2001年に赤字転落したことをきっかけに「消費者が求める新しいサービス」に視点を変え、ユニクロとパートナーシップを結びました。
ヒートテックはユニクロのマーケティング力と、東レの素材開発の技術力の組み合わせにより爆発的に売れたと言われています。
ユニクロと東レが共に開発した商品は、ヒートテックの他にもエアリズム、ウルトラライトダウン、感動パンツなど、ユニクロを代表するラインナップばかりです。
(4)ドトールコーヒーの価格設定
ドトールコーヒーは1980年当時、1杯150円のコーヒーを提供していました。この価格設定は一般的な喫茶店と比較すると、半額以下の安さでした。
背景にあったのは、創業者の鳥羽氏による「美味しいコーヒーを消費者の負担のない価格で提供したい」という思いです。
本物のコーヒーを安い価格で提供するために、コーヒー豆のクオリティを優先し、回転率の良いターゲット層を狙うことや、フランチャイズの展開などに意識を向けました。今も、安い価格で本格コーヒーを提供しようという思いは変わっていません。
ゼロベース思考を身につけるメリット
ビジネスや日常生活において想定外のことが発生した場合、解決策を導くのは至難の業です。人間の脳には通常の思考が、新しいアイデアが生まれるのを邪魔する傾向があるためです。
ゼロベース思考を身につけると高度化した問題や複雑化した課題の解決も可能になるでしょう。ゼロベース思考には今までの経験に囚われない状態で発想し、解決方法を導くという利点があるからです。
また、柔軟な思考で、新たなビジネスチャンスを創出したり、顧客視点で物事を考えたりも可能です。今までは考えつかなかった顧客側から見たメリットや課題点を発見できる可能性も高いです。
ゼロベース思考によるデメリット
ここからは、ゼロベース思考によるデメリットを紹介します。メリットと合わせて確認していきましょう。
(1)手間と時間がかかる
ゼロベース思考を実践するには手間と時間がかかることがあり、場面によっては不適切になる可能性があります。
ゼロベース思考で物事を考えるには、これまで持っていた固定観念をリセットしなければなりません。多くの人は思考のパターンが身に付いていて、簡単には変えられないのです。
例えば、プロジェクトの際に慣れないゼロベース思考を取り入れると、仕事が進まなくなる可能性があります。臨機応変に導入するかを決めたり、事前にゼロベース思考を実践練習したりするのが理想的です。
(2)分析麻痺が起こる
分析麻痺とは、分析に時間をかけ過ぎることによって、計画を実行に移せなくなる状態です。
ゼロベース思考にとらわれ過ぎると、分析麻痺を引き起こす可能性があります。色んな意見が出ることで完璧にとらわれ、得られたはずの利益を失ってしまうかもしれません。
分析麻痺を回避するためには、重大な決断は最初に下すことや期限を決めることなどがポイントとなります。
(3)組織間での乱れが起こる
ゼロベース思考を取り入れると、組織に乱れが起きる可能性があります。ゼロベース思考は従来のやり方と大きく変わるため、社内メンバーが新たな手法を受け入れるまでに時間がかかる恐れがあるのです。
過去の成功例を参考にできないので、リスクを懸念するメンバーが現れるかもしれません。ゼロベース思考は、慎重なバランスや適切なタイミングを見て取り組む必要があります。
ゼロベース思考を身につける3つのトレーニング
ゼロベース思考は、意識次第で誰でも身につけられます。一見難しそうですが、経営者から従業員、学生など立場を問いません。ゼロベース思考を習得するコツは、日常の景色を少し異なる角度で見ることです。
とはいえ「視点を変えて考えた」という実感を得るのはなかなか難しいでしょう。こちらでは、ゼロベース思考に必要な視点の変え方を分かりやすく具体的な3つの方法を解説します。
(1)クリティカルシンキングで物事を捉える
ゼロベース思考を身につけるには、クリティカルシンキングで物事を捉えることが必要です。クリティカルシンキングは日本語に訳すと「批判的思考」です。目の前の出来事や情報を鵜呑みにせずに、疑問を持って接し、考察を行ない、結論を下す考え方です。
普段受け入れている事柄も、本当にこの情報が正しいのかを考えながら結論を出すのがクリティカルシンキングです。ゼロベース思考を確立する前段階といえます。
(2)異なる環境に身を置く
ゼロベース思考を身につけるためには「新たな視点を知る」ことも大切です。あえて自分の身を今までとは異なる環境に置いてみるのが早道です。
進学や転職などで慣れない環境や人間関係から新しい考え方に触れ、新たな視点を得た経験は誰にでもあるでしょう。いつもはやらない仕事や家事なども取り入れることで、新しい価値観や思考方法が生まれる可能性もあります。
(3)身近な物事を題材に考えて鍛える
原則としてゼロベース思考を身につけるには、特別なアイテムなどは必要ありません。日常で触れる情報や身近な人間関係からも視点の変え方は鍛えられます。
ニュースや新聞などメディアで「真実である」と報道されていることであっても、一旦まっさらな目で俯瞰してみましょう。この癖をつけるだけでもゼロベース思考は強化できます。
まずは、家族や同僚といった身近なコミュニティのなかで出た話題でもゼロベース思考を使って考える癖をつけるのがおすすめです。
ゼロベース思考でアイデアを出す4つのプロセス
通常アイデアを練る場合、人間は今までの経験や知識を基に頭をひねる傾向があります。いつもの考え方やルールを基盤にしていると煮詰まって斬新なアイデアが浮かばないことがあるものです。
ゼロベース思考を身につければ、今まで浮かばなかった新しいアイデアと出会える可能性があります。こちらでは「購入意思のある顧客をレジ前で待たせてしまいがちな小売店」を例に、ゼロベース思考でアイデアを出すプロセスを4つに分けて解説していきます。
(1)何が問題なのかを明確にする
ゼロベース思考でアイデアを出すには、まずは「問題が何か」を明確にします。発生している問題ではなく、「問題の本質は何か」を探ることが重要です。
例の状況では、問題はスタッフが足りないことだと考えてしまいがちです。しかし、本来は「お客を待たせてしまう」「接客がおろそかになる」こと、さらには「売り逃しにつながる」「顧客が離れる」ことが真剣に取り組むべき課題です。
ゼロベース思考で問題点を明確化することで、すでに数値化されている課題(人員の不足)だけに目を向けるのではなく、その結果発生するサービスの問題点(満足なカスタマーサービスを提供できない)が浮かび上がってきます。
(2)従来の発想を一度捨てる
ゼロベース思考でアイデアを出すには、既存の考え方を一新する重要性を意識しましょう。
先ほどの例で説明すると、人員不足でカスタマーサービスが十分でない場合、新たな人材を雇用することで解決させようとするケースがほとんどでしょう。しかし、業務の見直しやオペレーションの変更だけで解決できることもあるはずです。
慣例や企業文化として行ってきた作業でも、顧客の満足度や収益のアップには無駄だったり時間がかかりすぎていたりしないか、振り返ってみましょう。
(3)視点を変えて新たなアイデア出しに取り組む
ゼロベース思考をもとにアイデアを出す癖をつけるには「自分以外の立場になったつもり」が重要です。自分の立場や業種にとらわれず、顧客の目線に立ったり、まったく異なる業種の手法を参考にしたりするのもよいでしょう。
自分が置かれている環境以外の視点なら「どう動いてほしいか」「どう動くか」などを考えてみると新しいアイデアが浮かんでくるかもしれません。
例で考えると、自分が従業員をマネジメントする立場なら、顧客はもちろん、従業員や出入りの業者の目線などから振り返ってみるのがおすすめです。
(4)できることに目を向ける
ゼロベース思考は、「従来の考えやルールを捨てることが重要」といわれています。しかし、物ごとの見方を変え、新たなアイデアが浮かんだときは、すでにあるリソースの活用に目を向けましょう。
例で説明すると、新たな人材確保に奔走するより、オペレーションの無駄を省き必要な作業を見極め、従業員を再教育する時間を設けたり、人材や商品の配置転換を行ったり、といった方法をとるほうが、コストもリソースも負担にならない場合があります。
「今の状況でできること」をゼロベースで探り、トライした結果に本当に必要なスキルを持った「今雇用すべき人物像」が見えてくるでしょう。
ゼロベース思考をさらに磨く方法
続いて、ゼロベース思考を磨く方法を紹介します。思考力アップを目指して、気になる方法を試してみてはいかがでしょうか。
(1)ゼロベース思考の本を熟読する
ゼロベース思考のレベルを上げる方法は、関連する本を読むことがひとつです。本を読めば、ゼロベース思考について体系的に学ぶことができます。本を読むことを習慣にすれば、必要な時にゼロベース思考を発揮できます。
ゼロベース思考に関する本は、例えば「0ベース思考」があります。本書は、世界中で読まれており、シリーズ750万部を超える人気の書籍です。
「PKをどの方向に蹴るのか」「仕事を辞めるのか」「国家の公共政策」など、多種多様な問題に対して、合理的に答えを導き出す思考法を展開しています。
(2)ゼロベース思考の研修を受ける
ゼロベース思考に関する研修を受けると、より思考力が磨かれます。
多くのゼロベース思考の研修では、講義だけでなく実践の場が設けられています。実際の会議のシーンなどを想定して実践するため、本番で力を発揮しやすいでしょう。
講師からフィードバックが受けられる研修であれば、より学びが多い場となります。
研修はゼロベース思考に特化した内容や、ビジネス・マネジメントに関する内容などさまざまです。対面はもちろん、オンラインでも開催しています。
コンサルにおけるゼロベース思考の実践方法
コンサルティングでは「目的、成果」から逆算して解決方法を探るのが大切です。それにはゼロベース思考の手法は非常に効率的です。
まず、問題を疑い、課題の本質を探り、そこから得られる不利益な結果を想像します。そのうえで真のニーズを問う癖をつけましょう。
実践段階では既存の慣習やルールをフラットな状態で俯瞰します。必ず、問題解決の妨げとなっている事柄が1つ、2つ見つかるはずです。
そこから先は「業務の手法や量」を変えることだけではなく「新たなやり方を探し提案する」というコンサルタントがすべき仕事の本質につながります。
ゼロベース思考以外のコンサルが使える思考方法
コンサルタントは問題解決のプロフェッショナルとして雇用、もしくは契約されています。ゼロベース思考以外にもコンサルタントはクライアントの問題を解決するためにさまざまな思考方法の習得が不可欠です。
ゼロベース思考以外のコンサルタントに必要な思考方法を紹介します。
(1)Pros and Cons思考
Pros and Cons思考法の「ProsとCons」は「長所と短所」「賛成と反対」という意味です。メリット・デメリットを比べて判断するコンサルティングの基本となる思考法です。Pros and Cons思考法は、プランについての長所と短所を導き出し、客観的に判断するために役立ちます。
☆あわせて読みたい
Pros & Cons(プロコン)の考え方とは?選択の局面に活かす具体例も解説
(2)STP分析
STP分析とは、3つの要素を使って市場と自社製品を分析する手法です。
Segmentation(セグメンテーション)は市場を細分化してターゲットを絞り込む手法です。Targeting(ターゲティング)はターゲットにする市場を決める手法。そしてPositioning(ポジショニング)は市場の中で自社の位置を決める手法です。
多くのビジネスシーンでは、STP分析を用い「自社製品の強み」「販売対象」を見極め、マーケティングを行うスキルがコンサルタントに求められています。
(3)ナレッジマネジメント
ナレッジマネジメントとは、外部・内部を問わず精通した分野を持つ人材から必要なスキルや知識を社内で共有し、それをベースに新しい技術や考え方を生み出し、生産性向上を狙っていく手法です。
個人の中にある知識や経験をいかに可視化・言語化するかがポイントです。コンサルタントにはこうした無形の知的財産を有形に転換させることも必要とされるでしょう。
ゼロベース思考を身につけて革新的なコンサルタントへ
ゼロベース思考は、「当たり前」を見直し、新しい観点から目的と手段を再確認する手法です。ゼロベース思考を身につけるには、日々のちょっとした出来事もいつもの考え方や価値観にとらわれずに眺める癖をつけるのが大切です。
今回の記事を参考にしつつ、ゼロベース思考の重要性を認識し、ほかの手法と併せてコンサルティング業務に活かせるようにしていきましょう。
(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)
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