コンサルティングでPDCAに限界を感じたら…思考法「OODAループ」
最終更新日:2021/07/30
作成日:2018/09/26
従来のPDCAサイクルに代わる新しいビジネスフレームワーク「OODAループ」。
OODAループは、もともとアメリカの軍隊で生まれた発想がベースになっています。戦場で求められる「スピーディーな意思決定」「状況の変化への対応力」が重視されている点が、PDCAサイクルと大きく異なるところ。
ビジネスシーンでもスピードや臨機応変な対応が求められている今、アメリカを中心にOODAループを取り入れる企業もあるようです。
そこでコンサルティングをはじめビジネスシーンで活用できるOODAループについて、仕組みやメリット/デメリット、コンサルティングに取り入れる方法をご紹介します。
目次
■まず知っておきたいOODAループの仕組みと由来
(1)OODAループの4つのステップ
(2)OODAループは軍隊から生まれた理論
■そもそもPDCAサイクルでは、なぜ課題が多くなってしまうのか
(1)綿密な計画を立てるため、時間がかかる
(2)リソース不足になりがち
■OODAループのメリット・デメリットまとめ
(1)OODAループのメリット
(2)OODAループのデメリット
■ビジネスにOODAループを取り入れるために!4つのポイント
(1)リーダー・管理職のスタンスが重要!
(2)メンバーのスキルアップに取り組む
(3)いきなりPDCAサイクルは捨てられない!
(4)AIなどを活用したツール導入も検討したい
■まとめ
※本コラムは、2021年7月30日に「コンサルティングでPDCAサイクルに限界を感じたら・・・新発想の思考法OODAループ」を再構成したものです。
まず知っておきたいOODAループの仕組みと由来
PDCAサイクルは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)を順番に実行し繰り返すこと。プロセスがわかりやすいという点でも定評があります。
一方、OODAループは、Observe(観察)、Orient(方針決定)、Decide(意思決定)、行動(Act)という行動を順番に実施します。それぞれのステップを詳しく見ていきましょう。
(1)OODAループの4つのステップ
1.Observe(観察)
現在置かれている状況を観察し、情報を集める。ビジネスの場合にはデータを集めて分析することも多いですが、あくまで現状を素早く把握することが優先されます。そのためあらゆるデータを集めるというよりも、意思決定に関わる情報に絞り込むという点がOODAの特徴です。
2.Orient(方向づけ)
観察をもとに戦略を立てて、方向性を見極める段階。ここでも綿密な戦略を立てるというのではなく、今やるべきことの方向性を定めるイメージです。
3.Decide(意思決定)
方向づけをもとに最終的な判断を下し、具体的な行動の準備を行なう段階です。
4.Act(行動)
意思決定した内容に基づき行動を起こします。この行動によって、状況がまた大きく変化するケースもあります。OODAループでは行動の次に、あらためてObserve(観察)のステップに戻って繰り返すというスタイルが基本です。
(2)OODAループは軍隊から生まれた理論
OODAループは、もともと軍隊の意思決定を素早く行なうために考えられた理論で、アメリカ空軍のジョン・ボイド氏が提唱しました。
戦場ではどんなに綿密な計画を立てていても、常に状況は変わっていき、想定外のことも起こります。こうした流動的な状況でも迅速に意思決定するために考えられたのがOODAループ。実際にアメリカなどの軍隊でOODAループを取り入れているケースもあります。
OODAループは、基本的に戦場(=職場。周囲に相談できる人がいるとは限りません)でひとりひとりが自分で判断・行動するためのフレームワーク。そのためビジネスにおいてもチーム全体で取り組むというよりは、メンバーごとにOODAループを活用して判断させる形が望ましいでしょう。
もちろん、軍隊においてもひとりひとりの判断だけで全て行動するわけにはいきません。全体を仕切るリーダーが戦場に赴く前にミッションを設計し、メンバーに理解してもらった上で各自の行動につなげます。
OODAループにおいても、最初にチーム全体の目標を共有するプロセスを加えた「D-OODA」という考えもあります。Dは「Design」のことで、目標を設計するという意味を持っています。ビジネスにおいてもプロジェクトチームなど組織で動くケースが多いと思いますが、チーム単位で考えるならば最初に全体で目標を共有するD-OODAの方が適していると言えます。
そもそもPDCAサイクルでは、なぜ課題が多くなってしまうのか
PDCAサイクルは、1950年代にアメリカの統計学者であるウィリアム・エドワーズ・デミング博士が提唱したもの。ビジネスでも一般的に使われていますが、本来PDCAサイクルは生産管理のためのフレームワークのため、工場での品質管理などルーティーン業務の改善に適しています。
一方でフレキシブルな対応が求められるコンサルティングなどのビジネスでは、PDCAサイクルだけでは無理が出てくるケースがあるのも事実。
(1)綿密な計画を立てるため、時間がかかる
PDCAサイクルは基本的には、全てプロセスとなります。計画に基づいてDo、Check、Actというプロセスに進みます。そのために綿密な計画を立てようとして時間を費やすケースが多く、サイクルを回すのに時間がかかるケースがどうしても多くなってしまうのが課題。
もしPDCAサイクルを回す中でミスが起こっても、次のサイクルに進むまでに時間がかかると改善が後回しになってしまうことも。
また多くの企業ではPDCAサイクルを回すとき、計画を立てるチームと実行するチームが分かれていることが多いのではないでしょうか。この場合計画の時点で現状にそぐわないものになってしまう、ということも起こり得ます。
例えば、あるクラウドサービスのプロジェクトのケースで考えてみましょう。
PDCAの場合Planによって時間をかけて完璧な計画を立てたとしても、その後競合となりうるサービスがいきなりリリースされる可能性もあります。
こうなると競合のサービスの機能や料金を詳しく調べて、これからリリースする自社サービスを「機能を増やすか?」「プロモーションの方向性を変えるか?」というように計画からやり直す必要が出てくるのです。
また、サービス検討時とリリース時で間が空くと、その間に世間のトレンドが変化していたということもよくあります。ビジネスのスピードが速まる中、綿密な計画を立てるPDCAサイクルでは対応しきれないケースが増えています。
(2)リソース不足になりがち
さらにPDCAサイクルではPlanやDoの段階にリソースをかける傾向が強く、CheckやActの段階では専門チームを置くというケースはあまり多くありません。つまりリソース不足によってうまくPDCAサイクルが回らないというケースも見られます。Planはしっかり作っているものの、その後改善につながらないという経験を持つビジネスパーソンの方も多いのではないでしょうか。
OODAループとPDCAサイクルでは、プロセスの最初が「観察」か「計画」かという点が最も大きな違いです。
OODAループでは綿密な計画というステップはなく、まず現状を観察して周囲の状況にあわせることを重視。PDCAサイクルのようなタイムラグが起きにくいと言えます。またOODAループは個人単位で取り組む前提なので、リソース不足になりにくいという点もOODAループとの違う点です。
OODAループのメリット・デメリットまとめ
それでは、さらに詳しくOODAループのメリットとデメリットを見ていきましょう。
(1)OODAループのメリット
①現場に適した対応・改善がしやすい
PDCAサイクルの場合、スタートの計画段階では現場から離れて考えるケースが多くなりがち。こうなると、どうしても現場の動きとマッチしない計画になってしまうことも多くなります。
一方OODAループでは、最初に現在置かれている状況の観察がスタート地点となります。つまりまず現場を把握するため、現場に最適な対応につながりやすいというメリットがあります。
②トラブルや想定外の事態が起こっても柔軟な対応がしやすい
PDCAサイクルの課題と言えば、あらかじめ計画をしっかり立てるため変化に対応しづらいという点。
一方OODAループでは、綿密な計画を立てる時間は省略。現在置かれている状況に合う対応が優先されます。トラブルや想定外のことが起こっても、現場を把握しているので柔軟な対応を取りやすいというメリットがあります。
実際に柔軟な対応ができるというメリットを生かし、OODAループは情報セキュリティ分野でも取り入れられています。
古い資料にはなりますが、2013年に発表された「総務省における情報セキュリティ政策の推進に関する提言」(※)では、従来のPDCAサイクルでは対応のスピードが遅く、定型の判断では情報セキュリティ対応は不十分という課題を挙げています。
変化の激しい情勢に対応するために、OODAループのプロセスを推奨。実際にこの提言をもとに、日立製作所ではOODAループを取り入れたセキュリティソリューションサービスも提供しています。
※参照:総務省における情報セキュリティ政策の推進に関する提言(2013年4月5日 情報セキュリティ アドバイザリーボード)
③スピーディーな対応が実現する
OODAループが重視しているもうひとつのポイントが「スピード」。軍隊では、迫るリスクに対してすぐに対処が求められます。
軍隊の発想から生まれたOODAループにおいても、意思決定にかかるスピードの速さを重視。あらゆる角度から綿密に調べて判断するのではなく、必要な情報を絞り込み、個人で意思決定を行なうのが基本。ビジネスでもスピード感のある判断が求められている中、OODAループのスピード感に注目が集まっているようです。
(2)OODAループのデメリット
①数値目標を設けづらい
PDCAサイクルでは、計画の時点で売上目標などの数値を設けるケースが一般的ではないでしょうか。
OODAループではもともと軍事目的ということもあり、各ステップの中で数値目標を設けるタイミングがあまりないという特徴があります。それぞれ得意分野が違うため、OODAループだけに頼らずPDCAサイクルと組み合わせる必要があります。
②メンバーを管理できる体制が必要
OODAループには、個人の判断を尊重するという特徴があります。ただし個人が勝手に現場判断してしまい、プロジェクト全体がバラバラになりやすいというリスクがあるのも事実。チームメンバーの特性を把握した上で、メンバーの状況を俯瞰でき、適宜アドバイスできる管理者が必要です。
③認知度が低い
最近ではOODAループをテーマにしたビジネス書も登場していますが、PDCAサイクルに比べるとまだまだ認知度が低いという課題があります。
OODAループを取り入れたい!と思っても、周囲が進め方を知らなければ導入は難しいもの。まずは関係者にOODAループの特性やメリット、PDCAとの違いについて説明が必要です。事前に十分理解してもらう時間をスケジュールに組み込んでおきたいところです。
④メンバーの経験値・スキルに左右されやすい
PDCAサイクルはリーダーなどが立てた計画があれば、その後の行動はある程度どんなメンバーでもブレにくいという特徴があります。
ところがOODAループでは、基本的に現場に立つ本人が自分で情報収集・判断をすることになります。情勢を判断するには、過去の経験も大きく影響するため、経験の少ないメンバーではどうしても正しい判断ができないことも。
また臨機応変に対応できるのがOODAループのメリットですが、詳細なマニュアルや手順書に頼れるわけではありません。人によって結果にバラつきやすいという点を考慮しておく必要があります。
ビジネスにOODAループを取り入れるために!4つのポイント
デメリットもありますが、PDCAサイクルにはないメリットが注目されているOODAループ。ビジネスでも利用範囲が広いと言えます。ただしOODAループを取り入れるときに、重要なのが組織のリーダーの役割。そこでリーダーが取り組むべきポイントを4つご紹介します。
(1)リーダー・管理職のスタンスが重要!
OODA(またはD-OODAループ)は、基本的に個人で意思決定を行なうためのフレームワーク。トップダウンで全て意思決定してしまうと、意味がありません。ある程度現場で判断できる環境を整えることがリーダーの役割と言えます。
とはいえ、全ての判断を現場に任せすぎてしまうと、それはそれで統制しづらくなるのも事実。「ここまでは現場で判断OK」というように、事前にルールを設けておくことが重要です。なお、現場にある程度権限を委譲することでメンバーの自己実現にもつながり、モチベーションアップ効果も期待できます。
現場をメンバーに任せる一方で、リーダーはD-OODAの「Design」、つまりプロジェクトの目標設計を担う必要があります。
プロジェクト全体の目標と戦略を明確にして、メンバーと共有する役割に徹し、具体的な行動はメンバーに任せるスタンスが求められます。
(2)メンバーのスキルアップに取り組む
軍隊でもそうですが、ビジネスでも常に上長やリーダーの意見や判断を仰いでいては、迅速な対応はできません。
OODAループでは個人で意思決定を行なうシーンも多いため、メンバーのスキルで差が出る傾向があるため、リーダーはチームメンバーの育成にも力を入れたいところ。
具体的には、小規模案件でOODAループを実践する機会を設ける、OODAループに関する研修を実施する、情報収集・分析能力をアップするための仕組みを導入する、などの育成プログラムを検討しましょう。
(3)いきなりPDCAサイクルは捨てられない!
OODAループはPDCAサイクルの課題を解決できるポイントが多くありますが、もちろんOODAループだけでは対応しきれないケースも。
この場合スピーディーで柔軟な対応よりも、数値を含めた計画性が重視されます。経営にもOODAループを取り入れることができる場面は多くありますが、大枠の事業計画はPDCAサイクルで回しつつ、現場で稼働するところではOODAループを取り入れるというように使い分けも重要なポイントです。
また従来型のPDCAサイクルに慣れている人が多い中、いきなりOODAループにスイッチしようとすると戸惑う人も多いはずです。リーダーはOODAループの使いどころを見極めた上で、慎重に導入する必要があります。
(4)AIなどを活用したツール導入も検討したい
OODAループにおいて、ベースとなるObserve(観察)。この観察をスピーディーに行なうためには、やはりデータを分析・集計できるツールが必要です。
AI(人工知能)などの技術を活用したツールを活用すれば、観察ステップにおいて、スピード向上だけではなく精度の向上も期待できます。BI(ビジネス・インテリジェンス)ツールなど、情報の収集・分析を自動化できるツールの利用もおすすめです。
まとめ
コンサルティングの場合、クライアント側のスタンスやプロジェクトメンバー構成などによって進め方は変わります。
従来のPDCAサイクルにこだわっているとうまく回らない、時間やリソースがどうしても足りないということになりかねません。こんなときはスピード感があり、柔軟な対応がしやすいOODAループを取り入れる機会かもしれません。
もちろんOODAループにもさまざまな課題があり、むしろ従来型のPDCAサイクルの方が進めやすいというシーンもあります。
まずは「PDCAサイクルだけではなくOODAループというフレームワークも活用できないか?」というスタンスを持ってみるだけでも、コンサルティングに広がりが生まれるのではないでしょうか。
(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)