DX推進プロジェクトや新規事業におけるビジネスモデルの作り方
社会や市場が大きく変化する今、さまざまな業界でDX推進や新規事業に取り組む事例が増えています。こうした取り組みに実は欠かせないのが、ビジネスモデルの再構築。ビジネスモデルの構築と言うと、起業家が検討することというイメージが強いかもしれません。しかしDXや新規事業に取り組むには、これまでのビジネスのやり方を大きく変える必要があります。起業に限らず、あらゆる企業にとって今はビジネスモデルの再構築が課題というわけです。
例えば大手コンサル会社のPwC Japanも、大きくビジネスモデルを再構築した事例のひとつ。コンサル会社といえば人を扱うビジネスですが、PwCは数年前からデジタルを活用したサービス開発にも投資を始めています。実際に2021年4月、AIやVRを活用した不動産仲介プラットフォームを立ち上げました(※1)。
ここではこれからDXや新規事業に取り組みたい企業に向けて、ビジネスモデルの基礎知識から具体的なビジネスモデルの作り方まで解説します。
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1.新規事業やDXプロジェクトになぜビジネスモデルが重要なのか
ビジネスモデルの定義は、実は専門家によって若干異なります。例えばマネジメントで知られる経営学者のピーター・ドラッカーは、「顧客は誰か?顧客にとっての価値は何か?どのようにして適切な価格で価値を提供するのか?」という質問の回答がビジネスモデルであると定義。一方でビジネスモデル論の専門家であるアラン・アファーは「一言でいうと儲かる仕組み」と定義づけ、ビジネスモデルが利益と直結すると語っています(※2)。
これらを総合して考えると、ビジネスモデルは「製品やサービスを顧客へ提供して、収益を得る仕組み」と言えるでしょう。ビジネスモデルは一時的な利益ではなく、継続して利益を得るための仕組み。つまりビジネスモデルを作成するには「安定して利益を得られる」という視点で人・物・お金の流れを整理することがポイントです。
1)ビジネスモデルとビジネスプラン(事業計画書)の違いとは
ビジネスモデルとよく似ているのがビジネスプラン(事業計画書)。近い意味で使われますが、ビジネスモデルとビジネスプランには違いがあります。
ビジネスモデルは収益を生む仕組みであり、ビジネスの最も基本となるベース。このビジネスモデルをもとに、「いつまでにいくら収益を出すか」「ビジネスモデルを作るためにいくら投資するか」など中長期の計画を立てたものがビジネスプランです。なお、ビジネスプランを可視化したドキュメントが「事業計画書」です。
起業する場合まずビジネスモデルを考え、その上でビジネスプランを立て事業計画書にまとめるのが基本。既存ビジネスモデルの再構築でも基本は同じです。まずビジネスの根幹となるビジネスモデルの再構築に取り組み、その後ビジネスプランや資金計画・事業戦略などをまとめて事業計画書を作成するのがおすすめです。
2)DXや新規事業のプロジェクトでは、ビジネスモデルが重要な役割を担う
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、AIなどのデジタル技術を活用してビジネスを大きく変革させること。社会や市場が急速に変化している中、企業のDX成功が今後の経営を大きく左右すると言われます。ただし既存業務をデジタル化しただけでは、DXとは言えません。デジタルを活用して企業のビジネスを大きく変えて、収益を上げることが求められます。
例えばソニー損保の「GOOD DRIVE」という自動車保険ブランドの事例。このブランドでは契約者の運転技術をAIで測定して、事故リスクが低い人の保険料を下げる(キャッシュバックする)サービスを提供しています。デジタル技術を活用して新たなサービス開発に成功していると言えるでしょう。単なる割引よりもブランドイメージの向上につながります。
こうした成功事例を目指すには、「流行っているからうちもデジタルを使って新しいことできないか?」という発想では難しいでしょう。実際にソニー損保ではデジタル活用を目的にするのではなく、顧客価値を最大化することに重点を置いています(※3)。
つまりDXでは、ビジネスモデルやブランド戦略を見据えた上でデジタル活用を考えることがポイントと言えます。経済産業省の調査を見ても、DXの認定を受けた企業とそうでない企業には「ビジネスモデル設計」という点で大きな差があることがわかっています(※4)。
DXだけではなく新規事業の立ち上げも同様。もともと成功率は低いと言われる新規事業ですが、利益が出ない新規事業はビジネスモデルの設計に問題があることも多いのです。
またDX推進や新規事業のプロジェクトではメンバーやステークホルダーがどうしても多くなり、まとめるのが難しくなります。しかし明確なビジネスモデルが共通認識としてあれば、多様な人材が集まるプロジェクトでも進行がスムーズになるはずです。
2.新規事業やDXプロジェクトで参考にしたいビジネスモデル10種
起業でも既存ビジネスでも、実はビジネスモデルを自社でゼロから作成するケースはほとんどありません。すでにあるビジネスモデルをアレンジして、自社のビジネスモデルを作成するのが一般的です。
起業したばかりの企業や新たな市場でビジネスを始めたい企業の場合、まずすでにあるビジネスモデルを参考にするのがおすすめです。ここでは基本と言われる10パターンのビジネスモデルの型を紹介します。
1)物販型
自社で製品やサービスを開発・製造して販売するメーカーなど。性能や価格などを工夫することで販売数を増やし、収益を上げる仕組みです。
2)小売型
製造は自社で行わず、他社から製品を仕入れて販売する小売店などに見られます。安く仕入れたものを高く販売することで収益を上げる仕組み。
3)卸売型
メーカーと小売店を仲介する卸売業など。卸売りはメーカーと小売りの間に立ち、在庫を持って需要にあわせ製品を提供する役割を担います。小売型と同様、仕入と販売の価格差で収益を上げる仕組み。
4)直販型
卸売を通さず、物販と小売を自社で担うことを直販型と言います。パソコンメーカーのDELLや、アパレルメーカーのユニクロなどは直販型と言えるでしょう。自社で全てまかなうことで、高い収益を上げることが狙いです。
5)広告型
雑誌などのメディアに代表されるのが広告型。媒体に広告を載せることで広告主から収益を得る仕組みです。YouTubeやFacebookといったWebメディア・SNSも広告型の一種。媒体の発行部数や閲覧ユーザー数によって、収益性は大きく変わります。
6)二次利用型
映画などの著作物を二次利用する方法。例えば過去の作品を他社の動画配信サービスに提供することで、収益を上げます。作品に登場するキャラクターの使用権を他社に提供して収益を上げるケースもあります。
7)消耗品型
ウォーターサーバーなどによくみられるビジネスモデル。機器本体は無料または低価格で顧客へ提供します。その代わりに消耗品を継続して購入してもらい、収益を上げる仕組みです。
8)サブスクリプション型
音楽や動画の配信サービスに多いビジネスモデル。製品やサービスの販売ではなく、利用料を毎月支払ってもらうことで収益を上げる仕組み。最近ではソフトウェアなど、さまざまなサービスがサブスクリプションモデルを採用しています。利用者数の増減によって、収益が大きく変わります。
9)マッチング型
人材紹介サービスなど、提供者と利用者をマッチングさせるビジネスモデル。提供者(または利用者からも)から手数料をもらうことで収益を上げる仕組みです。質の高い提供者を集められるかどうかがポイントです。
10)フリーミアム型
機能を限定した無料サービスを提供しながら、高機能の有料サービスも販売して収益を上げる仕組み。「フリー」(無料サービス)と「プレミアム」(有料サービス)を組み合わせたビジネスモデルなので「フリーミアム」と呼ばれます。ストレージなどクラウドサービスの多くがフリーミアムを採用。有料サービスの契約数を増やすことで収益は上がります。
3.新規事業やDXプロジェクトに役立つビジネスモデルの作り方
自社のビジネスモデルを作成するときに意識したいのが、「プロジェクトに関わるメンバーやステークホルダーが全体を俯瞰して内容を理解できるか」いう点。やはり文章だけでは、ビジネスモデル全体を俯瞰できません。人や物、お金の流れの全体像を把握するためにも、図解する方法が主流です。
ビジネスモデルを図解でまとめるフレームワークはいくつかありますが、代表的なフレームワークが「ビジネスモデルキャンバス」(Business Model Canvas)。2005年にアレックス・オスターワルダーが考案したビジネスモデルキャンバスは、ビジネスを9つの要素に分けて考える作り方です。
ビジネスモデルキャンバスは、ビジネスモデルに欠かせない要素を網羅できるので全体像が把握しやすい点がメリット。自社のビジネスモデルや競合他社のビジネスモデルを分析するときにもおすすめです。ここでは、ビジネスモデルキャンバスのフレームワークで使われる9つの要素を紹介します。
1)顧客セグメント
サービスや価値の提供先となる顧客を明確化します。「〇〇に課題を感じている人」というようにできるだけ具体的にセグメントするとわかりやすいでしょう。
2)価値提案
顧客に提供できる価値を明確化します。どんな課題解決につながるかなど、顧客が特に価値を感じてもらえるポイントを洗い出します。性能や価格のほか、ブランド、納期スピードなども価値のひとつ。他社と異なる価値を提供できるか、という点も重要です。
3)チャネル
顧客にどう価値を届けるかを明確化します。チャネルは販売経路と訳されることが多いのですが、それだけではありません。顧客がどこでサービスを認知して、どう購入につなげるかといった一連の流れを明確にしておく必要があります。
4)顧客との関係
顧客との関係を明確化します。最近はあらゆるビジネスモデルで顧客との関係を強くすることが重視されています。最近では顧客とのつながりのことを「ロイヤリティ」(忠誠心)と呼ばれています。例えば自社ブランドのロイヤリティが高い顧客が多ければ、リピート購入も増えるでしょう。またロイヤリティの高いファンの口コミによって、ブランドイメージが向上する効果も期待できます。
5)収益の流れ
顧客からどんな名目で売上(利益)を上げるか、いつ利益が入るか、といった点を明確化します。例えばサブスクリプションサービスなら「月額〇〇円の利用料を毎月〇日に顧客から集めて売上を立てる」ということが収益の流れにあたります。
6)リソース
顧客に提供する価値をどうやって生み出すか、を明確化します。小売のビジネスモデルなら販売商品のほか、開店にかかる資金、店舗の立地、販売スタッフなどがリソース。まず自社内にある人材やお金などのリソースを洗い出すことがポイントです。
7)主要活動
顧客へ価値を提供するために必要な活動を明確化します。小売なら店舗運営がメインですが、人材育成、問い合わせ対応、在庫管理などの活動も必要です。
8)パートナー
自社だけで完結するビジネスモデルはほぼありません。どんな外部パートナーが必要かを明確化します。小売なら仕入先のほか、販売システムの提供会社、スタッフ採用に必要な人材会社などをパートナーとして想定する必要があります。
9)コスト構造
顧客へ価値を提供するために必要なコストを明確化します。小売なら仕入コストのほか店舗の賃料、人件費、広告費などがコストとして含まれます。「リソース」「主要活動」「パートナー」など、他の要素をもとにコストを想定するのがポイントです。
4.まとめ
コロナ禍をきっかけに、急遽DXや新規事業に取り組み始める企業が増えています。ただトレンドに乗ろうと焦るあまり、新規事業やDXそのものが目的になってしまうケースも多いのが事実です。これでは市場や顧客を分析できないままビジネスモデルを再構築するため、成功にはつながりにくいでしょう。
まずはビジネスの根幹となるビジネスモデルをしっかり作成して、それからビジネスプランをまとめるという流れがおすすめです。ビジネスモデルを考えることで、ターゲットとなる市場や顧客、自社が提供できる価値などを明確化できます。また起業時の市場やビジネスモデルをあらためて分析すれば、新たな課題に気づける可能性も高いでしょう。また明確なビジネスモデルがあればプロジェクトメンバーで共通認識が持てるというメリットもあります。さらに企業として中長期のビジネスプランも立てる時にも役立ちます。
「ビジネスモデルの作り方」と聞くとやや難しいイメージがあるかもしれません。まずは自社や競合について、ビジネスモデルキャンバスなどのフレームワークを使って分析することで、コツがつかめるはずです。
(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)
【出典】
※1:PwC Japan、AI/VRを活用した新しい不動産仲介プラットフォーム「Virtual Vintage Residence Lab」を開発(PwC)
https://www.pwc.com/jp/ja/press-room/virtual-vintage-residence-lab210406.html
※2:ビジネスモデルの定義及び構造化に関する序説的考察(立教DBAジャーナル第2号)
http://www.jctbf.org/C_BM/BM_CK_Rikkyo.J_20120315.pdf
※3:ソニー損保代表に聞く、運転の仕方で「3割引き」する商品を作ったワケ(FinTechJournal)
https://www.sbbit.jp/article/fj/37882
※4:デジタルトランスフォーメーションの調査2021の分析(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/keiei_meigara/dx-bunseki.pdf