【プロ執筆】これからのブランディング・ブランドコミュニケーションとは——経営における重要性、そのあるべき姿、効果的な設計方法などを紹介
消費者の価値観や生活習慣が多様化し、メディア環境や情報流通の仕方が刻々と変化する現在、企業の競争力の源泉の一つである「ブランディング」すなわち「ブランドづくり」もこれまでのやり方が通用しづらくなっており、変化を強いられています。
今回は、さまざまな企業のブランディングに社内担当者・社外パートナーの両方の立場から携わってきたブランドアーキテクトの鎌田宏史氏に監修いただき、これからのブランディングおよびブランドコミュニケーションのあり方、企業経営におけるブランドの重要性、効果的なブランド活動のためにおさえておきたいポイントなどを解説していただきました。
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1.一般的な「ブランド」「ブランディング」「ブランドコミュニケーション」の定義とは
ブランドの定義は、人によって、あるいは書籍や媒体によって、さまざまな定義がなされています。一般的に広く理解されているのは、アメリカ・マーケティング協会が定義する「個別の売り手もしくは売り手集団の商品やサービスを識別させ、競合他社の商品やサービスから差別化するための名称、言葉、記号、シンボル、デザイン、あるいはそれらを組み合わせたもの」というものではないでしょうか。シンプルに言い換えると、「ブランドとは、自社の商品・サービスを他社のものと識別させるものである」といった内容です。
同様に、一般的に認識されている「ブランディング」とは「自社の商品・サービスを他社のものとは一線を画すユニークな存在とするべく、ロゴ・ネーミング・パッケージなど生活者の目に触れるものを魅力的に変えて、良い印象をつくり上げていくこと」であり、「ブランドコミュニケーション」とは「ブランドイメージを定着させるためのコミュニケーション活動」とまとめられるでしょう。
実は、この「ブランド」「ブランディング」「ブランドコミュニケーション」に対する一般的な認識にこそ、多くの企業が陥りやすい落とし穴が潜んでいます。
2.嘘や誇張が暴かれやすい現代におけるブランディングとは
これまでのブランディング活動では、「印象づくり」の部分が過剰に重視されてきた側面があります。そのことの表れとして、現代の趣向やトレンドに合わせて企業ミッション・CI(コーポレートアイデンティティ)・パッケージを刷新する、テレビCMなどの広告を通して憧れやクールなイメージを醸成する、といった活動が「ブランディングの主役」を担ってきました。
さまざまな企業の経営者やマーケティング担当の方と話していても、「ブランディング=印象づくり」と捉えている方はとても多く、「他社と差別化したイメージを築きたい」「ブランドイメージを良くしたい」といった相談が数多く寄せられます。
10年ぐらい前までは、この「印象づくり」だけでも、ブランドづくりを行うことはできていたのかもしれません。しかし今や、表面をきれいに取り繕うだけでは、ブランドをつくり上げることができない時代になりました。それはインターネットやソーシャルメディアなどの普及により、透明性が高くなったからです。
特にソーシャルメディアの普及により、顧客・生活者・社員・関係者などさまざまなステークホルダーが発信しやすくなったことで、企業・商品・サービスの良いところも悪いところも含めた実態が明るみに出やすくなりました。いくら企業からの発信を通して”素敵なブランド”を装ったところで、実態の伴わない“虚像”であれば、いずれ見抜かれ、顧客は「裏切られた」と感じ、以降は見向きもされなくなるでしょう。「炎上」や「不買運動」の増加、「キャンセルカルチャー」の広がりは、今の時代の象徴的な事象で、多くの企業にとって他人事とは言えない経営リスクとなっています。
昨今のSDGsの重要性の高まりを受けて、企業が広告などを通じて自社のSDGs活動を誇大にアピールするケースが見受けられます。しかしそれが、活動実態の伴っていない「SDGsウォッシュ」や「グリーンウォッシュ」であれば、ブランド毀損のリスクを伴うことにもなります。その観点から考えても、実態に即していない嘘や誇張のあるコミュニケーションは行うべきではないでしょう。
このように、従来の「印象づくり」を前提としたブランディングのアプローチは日々通用しづらくなっています。今の時代に合わせてブランドづくりを行っていくためには、ブランド・ブランディング・ブランドコミュニケーションの「定義」と、ブランディング・ブランドコミュニケーション活動の「中身」をアップデートしていく必要があります。
3.ファンに愛され・信頼され・応援される存在になるための総合的な活動こそが、ブランディング
では、現代におけるブランディング活動、ブランドコミュニケーション活動はどうあるべきか——。結論からいえば、商品・サービス、ひいては企業を「ブランド=ファンに愛され・信頼され・応援される存在」に変えていくことがブランディングであり、そのブランドの魅力や世界観を通して共感を生み、好きになってもらう(ファンを増やす)コミュニケーション活動がブランドコミュニケーションである、と定義することができます。
先述の「ロゴを変える」「商品パッケージをリニューアルする」「ブランドイメージを高めるCMをつくる」といった従来のブランディング活動は、いわば“狭義のブランディング”です。
しかし、ブランディングの本質とは、事業改革・商品開発・顧客体験開発・組織改革などにより、商品・サービス・企業自体を「魅力的な存在」に変え、その上でそのブランドが実現したい未来像、大事にしている価値観、背景にある哲学や想いをコミュニケーションを通して伝達し、それに共鳴してくれる仲間やファンのベースを築いていくことにあります。
先にお伝えしたように、ブランドには実態が伴っていること、噓や誇張がないことが大事なポイント。したがって、そもそも商品・サービス・企業自体に課題があれば、まずはそれを解決して魅力的な状態に変えていくことが先決です。
ファンに愛され・信頼され・応援される存在になるために、商品・サービス・企業自体を再設計し、コミュニケーションによってその価値を伝達する総合的な活動こそが、ブランディング、つまり“広義のブランディング”といえます。
4.経営におけるブランディング・ブランドコミュニケーションの重要性
ここで、適切なブランディングやブランドコミュニケーションが、企業の経営にどのような影響を与える可能性をもつのか、考えてみましょう。
ブランディングやブランドコミュニケーションを通して、商品・サービス・企業を「ブランド=ファンに愛され・信頼され・応援される存在」に変えることができれば、商品・サービスのリピーターや継続利用者の割合が高まる、顧客単価が向上するなどの結果につながります。
ブランディング・ブランドコミュニケーションのビジネスリターンとしては、これが一番わかりやすいものでしょう。しかし、メリットはそれだけにとどまりません。
熱量の高いファンは、新たな顧客を連れてきてくれる”仲間”になり得ます。まわりの人との日常会話で「このブランドいいよ」「この商品いいよ」と勧めてくれたり、SNSで投稿してくれたりすることによって、新たな顧客が生まれていく好循環につながるのです。
この好循環は、企業の販売促進費用への“依存度”を下げることにつながります。つまり、キャンペーン・プロモーション・セールなどの一過性の施策に巨額の費用を投じる必要性が少なくなり、安定的に売り上げが立ち、持続的に成長していく状態をつくり出すことができるようになるのです。例えば、ファンに支えられるブランドの代表格であるアップルはセールを行いませんし、スノーピークはプロモーションを行わない方針で、財務体質も健全です。
販売促進費用への“依存度”が下がれば、その分の浮いた予算を商品開発や新規事業、社員採用などに投資することができ、より本質的な魅力をそなえた会社になっていける可能性が高まります。
また、ブランドにおけるファンとは顧客だけではありません。自社の社員や取引先、メディアの記者といったように、企業の内外をとりまくステークホルダーもファンになり得る存在です。社員がファンになれば、モチベーションが上がり、業務のパフォーマンスも高まります。取引先がファンになれば、引き合いが増え、成約につながりやすくなります。PR企業やメディア担当者にファンが多い企業は、取材を受ける機会が増えるかもしれません。
顧客だけでなく、企業が関わるすべてのステークホルダーにとっての「ブランド=魅力的な存在」になることは事業性と持続性を高め、経営にも多大なインパクトをもたらします。上手く行けば、消耗戦の競争から抜け出して、独自のポジションで本質的な事業活動ができます。「ブランドは資産である」とよく言われますが、その分、一朝一夕で築き上げることができるものではなく、時間をかけて取り組んでいくべきものである点は念頭に置いておく必要があります。
5.効果的なブランドコミュニケーションの設計方法
ここからは、ブランディングの中でも、本記事の主題である「ブランドコミュニケーション」の取り組み方について触れていきます。ブランドコミュニケーションの進め方は、企業や商品・サービスの置かれている状況、抱えている課題によってさまざまです。ここでは、基本的な6つのステップについて解説します。
この6つのステップはすべて重要ですが、なかでもステップ1のゴール設定は、ブランドをつくり上げていく屋台骨になるものです。ここで設定したゴールが以降のプロセス(すべての判断基準)になることを踏まえ、時間をかけてさまざまな視点から検証して設定する必要があります。
1)ステップ1:ゴールの設定=理想像の再定義
商品・サービス・企業の理想像、すなわち「ファンに愛され・信頼され・応援されるためには、どのような存在になるべきか・どのような役割を果たすべきか」をゴールとして定義することが、最初にして最重要のステップです。
言い方を変えると、商品・サービス・企業の「存在価値」を再定義するということです。この存在価値のことを「ブランドコンセプト」と呼び、昨今バズワードとなっている「パーパス」も同様の役割を果たします。
ゴールの設定、すなわち存在価値を再定義する際には、①企業・商品・サービスが保有する本質的な価値は何か、②これからの社会に必要とされていることは何か、③ステークホルダー(特に顧客)が潜在的に求めているものは何か、の3つの観点から導き出すことが大切です。
ブランドの存在価値を考えようとすると、どうしても①の企業・商品・サービスの価値からのみ答えを導き出そうとしてしまいがちですが、そうすると独善的な価値になり、結果として誰にも求められない存在となりかねません。
上記3つの観点から導き出す、としているのはそれを防ぐため。「そのブランドがある状態とない状態を比較すると、その人の人生や社会がどう変わるか」ということを言語化するのがオススメです。注意点としては、耳障りがいいだけの言葉にしないこと。そのブランドコンセプトは共感・応援されうるものになっているか、ブランドが目指すべき北極星=判断基準としてきちんと機能しうるか、という視点で見直してみると良いでしょう。
2)ステップ2:ブランドキャラクター(ブランドパーソナリティ)の設定
商品・サービス・企業は、それぞれ「らしさ」を内包しています。その中から、ステークホルダーが魅力を感じる「らしさ」を定義して、具体的な施策やトーン&マナーの判断基準にしていきます。現状の「らしさ」だけでは魅力として不足する場合は、新たに獲得すべき「らしさ」も定義する必要があります。
ブランドキャラクターは、ブランドとなる商品・サービス・企業の「人格」になぞらえて表現されることが多いです。かっこいい感じ、かわいい感じ、クールな感じ、身近な感じ、洗練されている、遊び心がある、真面目で正直である、真摯である……といったように、人格を表すような言葉を切り口にして、その魅力、「らしさ」を表現できるパーソナリティ(個性・性質)を洗い出し、精査していくといいでしょう。
外資系ブランドでは、「Do’s & Don’ts」と言って、ブランドとして「すること」「しないこと」を明文化します。「しないこと」とは「セールを行わない」「自画自賛をしない」といったもので、特にこの「しないこと」の定義こそがブランドの「らしさ」を形成することにつながります。ですから、必ず明文化するようにしましょう。
3)ステップ3:ロードマップの設計
ステップ1で設定した「こういう存在になりたい」というゴールに向かって、どのような段階を踏んで徐々にその存在に近づいていくか、そのロードマップを設計します。現状とゴール(理想像)の間にあるギャップ(課題)を明らかにしてそれらをどのようにして段階的に埋めていくのかを検討します。ステップ1・2で定義した内容に合わせて、商品開発・顧客体験開発・組織改革を行う場合は、その内容もこのロードマップにプロットしていきます。
ブランドコミュニケーションを通じて「愛され・信頼され・応援されるブランド」をつくり上げていくことは、短期的に実現できるものではありません。そのためロードマップも中長期的に考える必要があります。1年後、2年後、3年後、……と先々まで含めて、それぞれの段階でどういう実態とパーセプション(認識)をつくり上げるのがいいのだろうか、というところに考えを巡らせて設計しましょう。また、無理のない計画になるよう、予算・人員を中心としたリソースの配分も行います。
4)ステップ4:コミュニケーション戦略の設計
誰に対してコミュニケーションを行っていくのが最も効果的か、というコミュニケーションターゲットを設定した上で、ステップ3で設計したロードマップの各フェーズにおいて、どのタイミングに、どういうチャネルで、ブランドに対してどういうパーセプションの変化を起こしていくのか、どのようなコミュニケーションをしていくのがよいのか、その設計図を構築します。
コミュニケーションに用いるチャネル(メディア)は、オウンドメディア、アーンドメディア(PR)、ペイドメディア(広告)、シェアドメディア(ソーシャルメディア)と分類し、各チャネルでどのようなメッセージングを行い、それによってどういったパーセプションの変化を図るのか、複合的なチャネルでのコミュニケーションを設計します。
5)ステップ5:具体的な施策の企画・実行
ステップ4で設計した戦略に基づいて、各フェーズで達成すべきパーセプションの変化を起こすための各チャネルでの具体的な施策を立案します。
このタイミングで特に気をつけたいのは、「言いたいことを伝える」のではなく「受け手のインサイト(潜在的欲求・課題)」に基づいて「伝わる」コミュニケーションを行うこと。「偉大なブランドは自分自身についてではなく、自分が愛するものについて語る」とも言われますが、そのブランドが実現したい未来像や大事にしている価値観・その背景にある想いや哲学を嘘偽りなく語っていくこと、行動で示していくことこそが共感を呼び、ブランドが愛されるための一助となります。
6)ステップ6:施策の効果検証・改善・継続
施策を実行した結果の効果を検証し、反省点を踏まえて改善・継続していきます。ステップ5までの段階で仮説を精緻に練り上げたつもりでも、実際に実行してみないとわからないことは多いもの。したがって、実行した結果を検証すること、改善して継続していくことが不可欠です。
このプロセスを続けていくことで初めてブランドはつくり上げることができます。“ブランドは一日にしてならず”——ブランドづくりに終わりはなく、継続こそがすべてです。
刹那的に愛されるのではなく、愛され続ける存在になることが肝心です。アップル・ナイキ・パタゴニアなど偉大なブランドは、事業活動の中にブランディングが組み込まれています。活動を継続するための判断基準・財務体質・組織体制・企業文化の構築も合わせて行っていく必要があります。
6.ブランディング・ブランドコミュニケーションの成功に必要な体制づくり
ブランディングやブランドコミュニケーションを実施するにあたっては、その体制づくりも重要なポイント。特におさえておきたいのは「経営者が関与すること」「担当者に適切な権限とサポートを付与すること」「適切な外部パートナーとチーム体制を築くこと」の3点です。
1)経営者も積極的に関与すること
先に述べたように、ブランディングやブランドコミュニケーションは、企業の経営にも大きなインパクトを与え得る活動です。特にその第一歩となる「ゴールの設定」は、以降の企業経営に密接に関わる重要な要素。「我々企業は10年後にこういう存在になっていたい」など目指すゴールを明確に設定することができれば、それが以降のさまざまな意思決定を一貫性があり、精度の高いものにするための判断軸になるからです。
ブランディング・ブランドコミュニケーションによって企業に事業性と持続性の向上をもたらすためには、経営者自身もブランドづくりの重要性を理解して活動に関与すること、特にゴール設定に際しては経営者自身も決定プロセスに関与することが必要です。
例えば、企業が新規事業を立ち上げ、ブランドを構築するなかではさまざまな意思決定が必要となりますが、経営戦略としてのゴール設定がしっかりなされていれば、「私たち企業はこうなりたい」、だから「これをする・しない」という判断を下すことができます。他方、ゴールという判断基準をもっていない企業では、「儲かるかどうか」「シェアが上がるかどうか」など短期的な視点のみで意思決定を行わざるを得なくなり、ブランドとしての一貫性を失い、ブランドづくりは失敗に終わってしまうでしょう。こうした判断基準の不在が、多くの企業における新規事業の失敗につながっているのかも知れません。
2)担当者に適切な権限移譲とサポート提供を行うこと
ブランディングやブランドコミュニケーションの実務を担当するのは、コーポレートブランド担当者、事業部門のブランド担当者、新規事業担当者であることが多いでしょう。しかし、ブランディング・ブランドコミュニケーションにおいては商品・サービス自体、さらには事業自体を変えていくことが求められる場面もあります。現場担当者の担当範囲だけでは解決できない問題や、担当者の決裁権限だけでは判断できない事象が生じることも多々あります。
そうした場面でも、担当者が関係部門と連携して必要な意思決定を行い、活動をスムーズに進めていけるようにするためには、全社を巻き込んでプロジェクトを主導するために必要な権限の付与と、必要なサポートを受けられるような体制づくりが重要です。ここにおいても経営者からのバックアップが必要不可欠になります。
3)適切な外部パートナーとチーム体制を築き、設計・指揮・統合すること
ブランディングにおいては、自社内のメンバーが持つ「中の視点」だけではなく、客観的な「外の視点」、さらには各分野のエキスパートが持つ専門性を結集していく必要があります。また昨今では、様々な専門領域が細分化され、解決策の実行も複雑化しています。たとえば、ブランドコミュニケーションであれば、大手広告代理店にすべてお願いしておけば良いという時代ではなくなりました。広告・PR・オウンドメディア・ソーシャルメディアなど各チャネルでのコミュニケーションに専門性を持った企業・個人でのチーム編成が必要不可欠です。それぞれの分野で専門性を持った企業や個人が点在しているため、そういった人々を束ねあげて、ブランディングプロジェクトを推進することが求められます。
そもそも、ブランディング活動を推進するにあたっては、ブランディングに関する経験と知見を備えプロジェクトをリードできるような人材が必要ですが、社内のブランド担当者にそのスキルがあるケースはまれであるのが実状です。そうしたリーダー的人材が社内にいない場合は、ブランディングの設計・指揮・統合をサポートしてくれる外部の伴走者(ブランドマーケター、クリエイティブディレクター、ブランドアーキテクトなど)の採用を検討しましょう。
クリエイティブディレクターの佐藤可士和さんや水野学さん、グラフィックデザイナーの原研哉さんは、これまで多様な企業でブランドづくりの伴走者の役割を担ってきています。また、無印良品では、外部のトップクリエイターで構成するアドバイザリーボードという組織を設け、経営者と現場メンバーにブランド観点からのチェック機能・アドバイザー機能を果たしているそうです。そうした体制構築はこれからのブランディングには欠かせないものとなり、これからブランディングを手がける企業においても参考になるでしょう。
ブランディングの施策を着実に実行するためには、それぞれの分野の専門知識やスキルを有する企業・個人をメンバーとしてチームを編成し、ブランディングプロジェクトを推進することが求められます。
7.まとめ
従来の日本企業では、「いいものをつくれば売れる」と考える文化が少なからず見受けられました。しかし情報も商品・サービスもあふれるほど存在し、時間も可処分所得も奪い合いの現代は、「いいもの」をつくるだけでは顧客の手に届けることはできません。
「いいもの」をつくることは大前提ですが、そもそも「企業が考えるいいもの」と「顧客が考えるいいもの」の間にギャップがあることを理解し、時には商品やサービス自体を作り直したり、その存在や魅力、背景にある思いまで知ってもらい、「いいもの」の存在が顧客に伝わる状態を設計することもセットで考える必要があります。
つまり、ブランドが愛され・信頼され・応援される存在になるためには、「魅力ある内面」「魅力が十分に伝わる表面」「その内面と表面を伝えるコミュニケーション」を兼ね備えるという条件をクリアしなければなりません。その手段がブランディングであり、ブランドコミュニケーションです。
内面や表面をつくり上げるにも、その魅力を伝えるにも、時間がかかります。経営者は短期での成果を求めがちですが、本当の意味で企業に価値をもたらすブランドをつくり上げるためには、長い目で見て投資するという意識が不可欠です。
適切な時間をかけてじっくり取り組み、噓や誇張のない、本当に魅力的な商品・サービスに仕立て、その魅力を伝えるコミュニケーションを続ける——。こうしたブランディング・ブランドコミュニケーション活動を継続し、多くの顧客にそのブランドを「好きで応援したい存在」だと感じてもらえるようになれば、企業にさまざまな好循環が生まれます。その結果、企業の経営がより健全なものになっていくことを実感できるようになるはずです。
(編集:株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)
執筆者プロフィール
鎌田 宏史(コンセプター・ブランドアーキテクト)
広告代理店でプランナーを経験したのち、アディダスジャパンやネットフリックスジャパンでブランドマーケティングを担当。10年以上のキャリアを通して、エージェンシー/クライアント両側よりマーケティング・ブランド・コミュニケーションを横断的に経験。2020年に独立し、外部パートナーの立場から企業が「ブランドに変わっていく」ための支援を行う。社会の潮流や「誰かが感じている違和感」を手がかりに、その企業なり商品が本質的に持っている魅力を発見し、ブランドのコンセプトを再定義する。そのブランドのコンセプトに沿って、事業・コミュニケーション・組織を変えていくことで、実態と印象の両面から、その企業を魅力的な存在にアップデートしていくための、「戦略設計」「解決策のプランニング」「実行のディレクション」を行っている。http://and2.jp/