オープンイノベーションとは?メリットや課題、成功・失敗事例を徹底解説
新規製品・サービスを創出し人々の生活に大きな価値をもたらすイノベーションは、企業の事業開発を通じた成功・発展に欠かすことのできないものです。変化の激しい今の時代において、そのイノベーションを起こすための手法として世界中から注目されているのが「オープンイノベーション」です。
日本企業もその例に漏れず、スタートアップ企業はもちろん、大企業や中小企業の多くでもオープンイノベーションへの関心は高いものの、実際の採用はというと世界に後れを取っているのが現状です。その現状を打開するには、オープンイノベーションについてきちんと理解するというプロセスが欠かせません。
そこで本記事では、オープンイノベーションとはどういうものなのか、その推進にはどのようなメリットが課題があるのかといったことを解説します。
[toc]
1.オープンイノベーションとは
「オープンイノベーション」とは、自社の技術やアイデアだけでなく、外部の組織や研究機関が有する技術やノウハウなども活用することで革新的な製品やサービスを開発し、新規の事業・ビジネスモデルを開発するものです。
このオープンイノベーションは、経営学者のヘンリー・チェスブロウ氏が「イノベーション創出を効率化する手段」として提唱した概念で、「組織内部のイノベーションを促進するために、意図的かつ積極的に内部と外部の技術やアイデアなどの資源の流出入を活用し、その結果として組織内で創出したイノベーションを組織外に展開する市場機会を増やすこと」と定義されています。
海外では、世界的な大企業からスタートアップに至る多くの企業でオープンイノベーションの概念が採用され、革新的な価値創出につながる大きな成果を上げています。また、世界最大級のベンチャーキャピタルである米国のPlug and Playは、イノベーション支援機関としても活動しているのが大きな特徴。世界でアクセラレーションプログラムを運営してスタートアップへの出資・支援を手がけ、イベントを実施するかたわら、「イノベーションプラットフォーム」を掲げてスタートアップ企業と大企業をマッチングし、オープンイノベーションの取り組みを促進する役割を担っています。
日本でもオープンイノベーションの価値への注目は高まっており、採用する企業も増えつつあります。アジア最大級のオープンイノベーションマッチングイベント「Innovation Leaders Summit」をはじめ、さまざまなイベントが開催されている様子からも、その関心の高さがうかがえます。とはいえ世界各国に比べると、日本におけるオープンイノベーションへの挑戦はまだまだ遅れているのが現状です。
そこで経済産業省も、その動きを後押しするべく、日本のイノベーション創出の現状と課題整理などを目的とした「オープンイノベーション白書」を発行。最新の関連データやイノベーション推進の事例を紹介し、イノベーションの創出に向けた方策を提示しています。
オープンイノベーション促進に関する取り組みとしては、関東経済産業局がハブとなり、大手企業、中堅・中小企業、スタートアップ企業などの企業体や、自治体、産業支援機関、大学などでオープンイノベーションを推進する人どうしのネットワークを形成・強化したり、企業のマッチングを行いイノベーション創出を支援したりするといったものも。
加えて、2020年度税制改革では「オープンイノベーション促進税制」を創設。スタートアップ企業とのオープンイノベーションを目指す法人などを対象として、設立10年未満の未上場スタートアップ企業に出資する際、その出資が一定の要件を満たすと、税制優遇措置を受けられるようになっています。
2.オープンイノベーションの種類
オープンイノベーションをさらに詳細に見ていくと、大きく分けて3つの種類があります。
1)インバウンド型
社外の企業や組織、研究機関などが開発した技術やノウハウ、アイデアなどを自社に取り込んでイノベーションを実現するのが「インバウンド型」です。一定額を支払い、他社が所有する技術の使用権を得る「ライセンス・イン」もインバウンド型に分類されます。世界で広く活用されています。
2)アウトバウンド型
自社が有する技術や知識、アイデアなどを外部企業などに提供してイノベーションを実現するのが「アウトバウンド型」。自社が保有する技術などの使用権を社外の企業などに提供する代わりに一定額を得る「ライセンス・アウト」、自社のベンチャー事業などを独立させる「カーブアウト・スタートアップ」なども、このアウトバウンド型に該当します。
アウトバウンド型のオープンイノベーションは、技術などの資源を外部へ提供し、その提供の対価として金銭的な利益を得ることができるビジネス戦略です。さらに、技術などの資源を外部へ提供することが社会全体として新たな価値の創出につながれば、その価値を多くの人々や企業が活用できるようになります。
3)カップルド型
インバウンド型とアウトバウンド型を組み合わせたタイプが「カップルド型」です。社外の技術やノウハウ、アイデアなどを自社に積極的に取り入れ、同時に自社の有する技術や知識、アイデアを外部企業などに対して提供するといったように、自社社内と外部企業の間で双方向の流れが起こります。
企業どうしが協業する事業連携やコラボレーション、さまざまなプレイヤーが参加・協業して製品やサービスの創出や課題解決に向けてアイデアを出し合うイベント「ハッカソン」なども、このカップルド型に分類されます。
3.オープンイノベーションとクローズドイノベーションの違い
オープンイノベーションと対比して語られるのが「クローズドイノベーション」。これは、自社が有する技術やノウハウ、研究成果といったリソースのみで、自社組織において画期的なビジネス開発に挑戦しイノベーションを実現するものです。自社と社外という組織の境界線を超えて行われるのがオープンイノベーションであるのに対して、クローズドイノベーションはその境界線の中で行われる閉じた取り組みといえるでしょう。
クローズドイノベーションは、技術やノウハウといった競争優位につながる資源の流出を防ぎ自社で独占することができます。すべての取り組みが自社で完結しているため、イノベーションの実現を通じて得る利益も自社で獲得できます。かつての日本企業の大半はクローズドイノベーションの手法を採用しており、長い歴史をもつ大企業などでは今もその手法を前提とした経営が深く根付いていることも。世界に比べて日本ではオープンイノベーション採用で後れを取っている状況は、この点も要因の一つになっています。
しかし、クローズドイノベーションの場合、革新的なビジネス開発を可能にして競争優位性を高めるような技術やノウハウなどをすべて自社で開発・保有し続ける必要があります。製品・サービスの開発もすべて自社で行う必要があり、そのための時間やコストの負担は小さくありません。労働人口の減少が懸念されている中、人材確保も課題です。
もう一つ、大きな懸念がスピードの問題。変化が激しく先が読めないこの時代に、ビジネスとして企業の活動を成立させていくためには、市場や技術の最新動向をキャッチアップし、スピーディーに事業開発することが不可欠です。しかし、それらをすべて、スピード感をもって自社で賄うというのは、容易なことではありません。
4.オープンイノベーションのメリットと課題
世界各国でオープンイノベーションが採用されるようになったのは、それだけさまざまなメリットがあるということ。ですが、オープンイノベーションの推進にはいくつかの課題もあります。
オープンイノベーションのメリット
1)新規技術やノウハウなどを獲得できる
自社だけでは持ち得なかった技術やノウハウ、アイデアを外部から取り入れることができます。これによって、自社に新規の技術・ノウハウが蓄積されれば、自社だけでは挑戦できなかったような分野でイノベーションを起こすことも可能になります。また、自社が研究・開発した技術を外部に提供するアウトバウンド型オープンイノベーションは、技術の有効活用によって金銭的利益を得られるほか、研究・開発担当人材のモチベーションを高める効果も期待できます。
2)幅広い戦略が可能となる
外部の技術やノウハウといったリソースを活用できるようになれば、それまでの枠を超えた幅広い事業戦略をとることができるようになります。スピーディーなビジネス創出が可能になれば、市場変化の激しい時代に対して柔軟な対応をとることができるようになり、企業の成功にもつながるでしょう。
3)時間とコストを削減できる
一から研究して新規技術を創出し、製品・サービスの開発を行うためには、膨大な時間とコストの投資が必要です。オープンイノベーションで外部のリソースを活用できれば、研究・開発コストを削減し、開発期間を短縮することができます。これによって、コストダウン効果を見込むことができるだけでなく、市場や時代の変化に合わせたスピーディーな事業促進も可能になります。
オープンイノベーションの課題
1)機密情報や知的財産などの流出リスク
アウトバウンド型・カップルド型オープンイノベーションでは、自社の有する技術やノウハウを外部に提供します。このやりとりを通じて、特許やアイデアなどの機密情報や知的財産が外部に流出する危険があります。この技術流出リスクは、日本企業で強く懸念されていることの一つでしょう。
対策としては、協業する外部に対して「どの情報までを開示するか」「どの部分は開示しないか」を事前に明確に決めておくということが挙げられます。オープンイノベーションだからといって、自社のすべての資源を外部へオープンにするわけではないという点をおさえておきましょう。
2)ビジョンの明確化する必要がある
オープンイノベーションは万能ではありません。オープンイノベーションの効果を最大限に発揮するためには、オープンイノベーションについて正しく理解したうえで、どのような理由で、何を目的としてオープンイノベーションを採用するのかといったビジョンを、あらかじめ明確にしておきましょう。
3)自社開発力の衰退
外部のもつ技術やノウハウの活用を促進する一方で、自社の研究組織への投資をないがしろにしてしまうと、自社の研究・開発能力が衰退してしまいます。その状況にモチベーションを失ってしまった人材が流出する可能性も。自社の研究・開発能力は、競争優位性を保持するうえで重要なものです。バランスを考えて適切に出資しましょう。
5.オープンイノベーションの成功事例と失敗事例
ここで、オープンイノベーションの成功事例と失敗事例を紹介します。
1)成功事例
グローバルなポテトチップスブランド「プリングルズ」は、アメリカの一般消費財メーカーP&Gが開発(のちに事業売却)し、世界の多くの国で販売されています。しかし2000年にかけて売り上げが低迷すると、P&Gのマーケティングチームは販売強化策の一つとして、ポテトチップ1枚1枚にキャラクターの絵やクイズなどを印刷し需要喚起を図ろうと考えました。
ポテトチップに印刷する技術もノウハウも持っていなかったP&Gは、その力を外部に求め、最終的にイタリアの大学教授が開発した食用印刷技術を発見。製品改良の末、印刷に成功したポテトチップスを販売して新たな需要を喚起することに成功し、見事大ヒットを記録するに至ったのです。
2)失敗事例
「セグウェイ」といえば、アメリカで開発された電動立ち乗り二輪車。革新的な技術が採用されたセグウェイはスティーブ・ジョブズやビル・ゲイツも絶賛し、「世紀の大発明」と称されました。しかしその売り上げは期待を裏切る結果となり、事業としては“失敗”の烙印を押される結果となりました。
その理由についてはさまざまな分析がなされていますが、1台5,000ドル(当時の日本円で約60万円)という高価格であったこと、ニーズがなかったことなどが挙げられています。たとえ先進的な技術が活用された新規製品であっても、イノベーションの創出とはならないというケースもあるのです。
6.まとめ
従来の多くの日本企業では、技術の研究から製品・サービスの開発まですべての工程を自社で担う“自前主義”クローズドイノベーションがよしとされ、実際にそれで成功を収めてきた時代がありました。しかし、社会が刻々と変化し続け、同時に労働人口の減少などの課題を抱える今の時代、それだけでは新たなビジネスの創出、企業としての価値創造を推進するのは困難です。
イノベーションというと、スタートアップ企業や先端的な企業が挑戦するものといったイメージがあるかもしれません。しかし、変化が激しく、人材不足が深刻な課題となっている日本社会においては、大企業といえども必ずしも安泰とはいえず、新たな事業の創出を通じた価値の創造に積極的に挑戦していく必要があります。
外部と協業しその資源を有効活用することでさまざまな効果を狙うことができるオープンイノベーションの手法は、スタートアップ企業ばかりでなく、従来の日本企業においても、その挑戦を助ける強力な手法です。現代の企業の経営において不可欠ともいえるものでしょう。
(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)