コロナ禍こそEC戦略を見直し!成功事例と売上アップのポイントを解説
日本でもコロナ禍によって、外出せず自宅で買い物をする「巣ごもり消費」が広がっています。これによって大きく成長しているのが、物販系を中心としたEC業界。しかしこれによってECを運営する企業は、新たな課題を抱えています。例えばECへ新規参入する会社の増加により、競争が激化してきました。またコロナ禍で生活が大きく変わる中、ECで何が売れるか見極めるのが難しくなってきています。
こうした中で自社のECを成長させるには、さまざまな変化へのスピーディーな対応が必須。こうした見直しができないECは、今後生き残れない可能性が高いでしょう。まずはコロナ禍によって起こっているEC市場の変化について把握することが重要です。その上で改善に成功した事例をもとに、見直すべきポイントをチェックしましょう。
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1.コロナ禍でEC戦略の見直しが必要な理由とは
経済産業省の調査データを見ると、2020年BtoCのEC市場全体は前年より微減しています。これは主に旅行やチケット販売などサービス系ECの落ち込みが要因。小売りなど物販系ECに限れば、前年比21%も増えています(※1)。コロナ禍で巣ごもり消費が広がる中、食料品のほか生活家電や化粧品、インテリア関連でECが大きく成長しています。テレビ通販やカタログ通販の伸びが鈍化する中、ネットショップだけが高い成長率を見せています。
また楽天やAmazonといった大手ECモールも、コロナ禍で利用が増えているというデータもあります。日本の主要ECモールの利用状況を見ると、コロナ禍の影響が出始めた2020年5月に過去最高の利用者数を記録(※2)。PayPayモールなど新たなECモールも増え、今後さらにECモール利用者は伸びることが考えらます。
1)BtoCでは小売業を中心にECへのシフトが加速
経済産業省のデータでは、2020年物販系ECのEC化率が上昇しています(※1)。つまりコロナ禍の中、リアルからECへシフトしている状況がうかがえます。緊急事態宣言などの影響で、実店舗の売上が伸び悩んだことも要因ではないでしょうか。
あわせてEC化率上昇の要因と考えられるのが、EC参入のハードルが下がっていること。最近では低価格でネットショップ構築ができるサービスも増えています。実際こうしたEC構築支援サービス市場は大きく伸びていて、2024年度には2,005億円に達する予測もあります(※3)。
もはや誰でも、自社だけで手軽にネットショップを構築できる時代。競合が参入しやすいとも言えます。こうなると自社の強み・弱みを把握して、他社と差別化できるかがポイントになってきます。
2)外出自粛やテレワークの影響で、売れる商品が大きく変化
EC戦略を見直す上で、外せないのが消費行動の変化。コロナ禍で生活スタイルが変わったことで消費行動は激変。これによって売れる商品にも変化が起こっています。例えば自宅で過ごす時間が増えたため、冷凍食品や菓子などのニーズが高まっているというデータもあります(※4)。
またテレワークなど、働き方の変化も消費行動に大きく影響しています。例えばあるメディアによれば、コロナ禍によって口紅が売れなくなったと言います。これはマスクをつける機会が増えたためでしょう。一方同じ化粧品でも、ヘアトリートメントは売上が増加したと言います(※5)。ヘアサロンに行く機会が減り、セルフケアを行う人が増えたためと考えられます。このように、さまざまな分野で売れる商品と売れない商品の変動が起こっています。
3)BtoBでもEC化が迫られている
BtoCだけではなく、BtoBでもコロナ禍の影響は大きく出ています。例えばBtoBでは従来FAXや電話で注文を受けるスタイルが主流でした。しかしこれでは自社のスタッフが出社してFAXを確認する必要があり、テレワークが難しいという課題があります。
さらにコロナ禍のBtoBでは、対面営業が難しいという状況もあります。こうした中、BtoBにおいてもECへのシフトが進んできました。経済産業省の調査によると、2020年BtoBのEC市場規模全体は減少していますが、小売りなどなど一部の業界では増加。EC化率も2019年と比べて上昇しています(※1)。
2.コロナ禍でEC戦略を成功させる5つの見直しポイント
アフターコロナを見据え「自社のEC戦略をどう見直せばいいかわからない」という方も多いのではないでしょうか。ここでは、ECにおける消費行動モデルとして知られる「AFLARモデル」をベースに、5つの見直しポイントを解説します。
ネットショップ総研が2010年提唱した、EC版・消費者購買行動理論。ECサイトでのユーザーの行動を5つのプロセスに分類しています(※6)。
1)ユーザーにECを「認知」してもらうには
まずは顧客が自社ECサイトを認知しなければ購入にはつながりません。コロナ禍によってSNSの利用が増えている今(※7)、SNSマーケティングによって自社ECサイトへ集客するケースが増えています。SNSに投稿するほか、SNSに広告を掲載するのも集客方法として有効です。
ある京都のコーヒー店では、コロナ禍でSNSマーケティングに注力。YouTubeでコーヒーの淹れ方を解説した動画をアップするなど、さまざまな施策を実施しました。その結果ECへの流入数が10倍になり、売上の約8割がEC経由となったそうです(※8)
2)顧客にECを使ってみたいという「感情」を持たせるには
自社ECサイトへアクセスした顧客の関心を高める必要があります。コロナ禍では価格を重視する顧客が多いこともあり、割引クーポンなどの広告を活用するケースが目立ちます。
例えば酒類を販売する「カクヤス」のECサイトでは、ギフト専用の割引クーポンを提供。ギフト利用が初めてという新規顧客を集客する狙いだったといいます。コロナ禍によって自宅でお酒を飲む人が増える中、友人・知人にお酒を送る機会も増えているようです。こうした顧客行動の変化にうまく対応した広告ではないでしょうか(※9)。
3)欲しい商品があるか「検証」してもらい、購入を決断させるには
顧客がECサイトに訪問した後は、自社・他社のECサイトで商品を比較・検討を行います。ここでは、顧客が欲しいと思う商品を載せられるかがポイントです。コロナ禍によって売れるもの・売れないものは大きく変化しています。そこで注力する商品を見直したり、コロナ禍に合わせた新商品を開発したりする動きが進んでいます。
例えば食品のECを手掛けるオイシックス。外食自粛が広がる中、有名店とコラボして自宅で外食気分が味わえるセットを販売しました。食材だけではなく、調理器具もセットで販売するなどの工夫をしています(※10)。
4)途中で離脱せず、「購入」(アクション)を完了してもらうには
ここで購入意欲の高まった顧客は購入というアクションに進みます。この段階では、いかに手続きをスムーズにして途中離脱を防ぐかがポイント。しかしECサイトの場合、実店舗のような1to1の対応が難しく、離脱しやすいという課題があります。
そこで最近導入が進んでいるのが、オンライン接客ツール。あるアパレル系ECサイトではシップスタッフによるライブコマースを実施。9000人が視聴するほどの集客力を誇っています(※11)。
SNSのライブ配信機能を使い、視聴者とリアルタイムでコミュニケーションをしながら商品について解説する広告手法。商品の細かい部分を詳しく解説できたり、視聴者の質問に即時回答できたりする点がメリットです。SNSで拡散されれば広告効果も期待でき、新たな顧客の集客にもつながります。また決済方法を充実させるのも、スムーズな購入につながる施策のひとつ。例えば最近は「BNPL」と呼ばれる後払いサービスを導入するECサイトも、海外を中心に広まっています。
「Buy Now, Pay Later」の略。クレジットカードと比べて「手数料が安い」「信用調査のハードルが低い」などのメリットがあり、海外ではBNPLの利用が急増しています。コロナ禍で高額商品をECで購入する機会が増えたことも利用増の要因と言われます。日本でもLINEやメルカリがBNPLサービスを開始しており、注目を集めています。
5)顧客の信頼を「取得」して、リピーターになってもらうには
売上アップを目指すには、集客した顧客をリピーターにさせることも重要です。ファンになってもらい、リピート購入につなげるために必要なのが「信頼」。実際に多くのECサイトでは、顧客の購入履歴から最適な商品を提案したり、リピーター限定の特典を用意したりというマーケティングに取り組んでいます。
ここでもSNSの活用が有効です。あるブランドはLINEでお友達登録をした顧客限定で、割引クーポンを配布。こうした広告によってリピーターが増え、EC売上アップに成功したそうです(※12)。
3.コロナ禍でもEC売上は伸ばせる!4事例に見る成功の秘訣
実際にコロナ禍でEC戦略を見直し、成功をおさめた企業も増えてきています。ここでは4つのECサイトの成功事例をもとに、コロナ禍でEC売上を伸ばした理由を解説します。
コロナ禍で外出自粛が続き、実店舗の売上が減って苦戦を強いられているアパレル業界。こうした状況でECに活路を見出す企業も増えています。ECサイトで売上アップに成功している事例のひとつが、グローバルワークなどのブランドを扱うアダストリア社。
1)ショップスタッフを有効活用して売上アップ「アダストリア」
アパレルブランドを持つアダストリアも、EC売上をアップさせた事例のひとつ。2020年第1四半期のEC売上は、前年同期比25.7%増となりました。売上アップした要因のひとつが、実店舗スタッフを活用したマーケティングです。アダストリアではコロナ禍以降、運営しているECサイトにてショッスタッフによるコーディネートコンテンツを強化。またInstagramを使ったオンライン接客も導入し、ショップスタッフに運営させています(※13)。
ショップスタッフをコンテンツやSNSで前面に出すことで、ECでありながら実店舗に近い購入体験を実現。ここが売上アップにつながったポイントでしょう。またスタッフによるコンテンツをきっかけに、従来店舗だけ利用していた顧客をECへ集客できるメリットもあります。
2)オムニチャネル戦略で実店舗とECの相乗効果を高めた「ホットマン」
タオルの製造販売を行う「ホットマン」も、実店舗に近い接客に取り組みEC売上アップに成功した事例です。ホットマンの場合、特に注力したのがギフト対応。一般的なECサイトでは、ギフトで送る場合細かな設定が難しいケースがほとんど。しかしホットマンは包装や配送方法、宛名などの細かな設定ができる機能を運営中のECサイトに搭載しました。
ECと実店舗で同等のサービスを提供するというのも、実はEC売上アップにつながるポイントです。ホットマンでは実際にECと実店舗の相乗効果が出ているそうです。ECをきっかけに店舗の来店が増えたり、逆に店舗利用者がECを活用したり。
ただし相乗効果を狙うなら、ECと実店舗で同じ商品をそろえサービスレベルも同等にする必要があります。こうした施策は「オムニチャネル」と呼ばれますが、EC単体ではなくオムニチャネルを想定したマーケティング戦略を立てることも重要です。ホットマンではこうしたマーケティング施策に取り組んだ結果、2021年3月期のEC・実店舗あわせた売上高を倍増させました(※14)。
店舗や通販(テレビや電話)、ネットショップといった各チャネルを連携させる戦略。例えばオムニチャネルが実現していれば、店頭に在庫がない商品をネットショップで取り寄せができたり、ネットショップで購入した商品を店舗で受け取れたりします。チャネルを融合させることでユーザーの購入機会を増やし、売上アップにつなげます。
3)テレワークでスーツの需要減にもかかわらず、売上5割増を実現「青山商事」
アパレル系で特にコロナ禍で打撃を受けているのが、スーツ業界です。テレワーク増加に伴い、スーツを着る機会が減ったことが大きな要因でしょう。ところがビジネススーツを扱う青山商事は、2021年3月気の通販売上56.7%増と大きく売上を伸ばしています。
コロナ禍で社会が大きく変わる中、青山商事は機能性の高いマスクやテレワーク向けカジュアルウェアの販売に注力。コロナ禍で売れる商品を迅速に見極めたことで、集客・売上のアップにつなげました。
またSNSマーケティングにも力を入れています。青山では「Twitter上でシャツが税込み11円で買える」というキャンペーンを実施。話題性のある企画によって、SNSで拡散され高い集客効果が期待できるわけです。他にも、Instagramで集めたユーザーの声をもとに新商品を開発。SNSマーケティングによってユーザーとコミュニケーションを深めることで、リピーター獲得を狙ったようです。
他にもオンライン接客ツール導入するなど、まさにコロナ禍のECサイトに必要な施策を次々と実践しています(※15、※16)。
4)ECでも、老舗ならではのおもてなしを強みにする「笹屋伊織」
和菓子の製造販売を行う笹屋伊織も、コロナ禍で百貨店や店舗が休業したことで売上に大きく影響があったと言います。もともとECサイトの構築・運営は外部の会社に任せていたそうですが、コロナ化をきっかけにEC運営の戦略を自社で見直すことにしました。
例えば、在宅時間の増加をふまえて「自宅で上生菓子を作れるセット」といった新商品をECで発売。話題性があるだけではなく、従来とは異なる新規顧客の集客も狙える優れた企画ではないでしょうか。
また従来からあった「帰れなくてごめんね」というメッセージ付きギフトをコロナ禍向けにあらためてPR。これも幅広いユーザーの集客につながったと思われます。実際にこうした施策のおかげで、ニュースメディアでも記事化されています。
また笹屋伊織では、ECサイトのサポートにおいても実店舗に近いおもてなしを意識したと言います。例えば企業向けに「来客用」「お祝い用」「お詫び用」など用途で商品を選べるようにしたり、マナー解説コンテンツを設けたりという改善を行いました(※17)。
4.まとめ
コロナ禍をきっかにニーズの高まるECサイト。とはいえ従来の戦略のままでは、売上アップを目指すのは厳しいでしょう。コロナ禍による顧客の変化、新たな競合他社の参入などに対応できるかがポイントです。実際にコロナ禍でEC戦略を再構築した事例を見ると、商品の見直しやECサイトの機能改善だけではなく、「オンライン接客の導入」「オムニチャネル」「SNSマーケティング」など、新たな取り組みを行っていることが共通しています。
こうしたEC戦略の見直しにまず必要なのは、現場に詳しい自社メンバーによる取り組みです。しかしECの場合、実店舗や他の通販チャネルとは異なる消費行動モデルがあります。さらにEC構築支援サービスや決済サービスなどの機能もどんどん進化しています。EC業界のトレンドにキャッチアップしていくべきでしょう。自社メンバーとあわせて、ECマーケティングに詳しい専門家の導入も検討したいところです。
(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)
出典
※1:電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/press/2021/07/20210730010/20210730010.html
※2:コロナでEC利用はどう変わった?「ECモール」「ファッションEC」「ネットスーパー」利用者数推移(ネットショップ担当フォーラム)
https://netshop.impress.co.jp/node/8855
※3:ECサイト構築支援サービス市場は、2024年度に2,005億円規模に拡大(ECのミカタ)https://ecnomikata.com/ecnews/30979/
※4:第2回 コロナ禍における消費価値観の変化調査(PRTIMES)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000478.000004376.html
※5:コロナで「売れた」「売れなくなった」商品TOP30(東洋経済ONLINE)
https://toyokeizai.net/articles/-/417143?page=2
※6:AFLAR(アフラー)消費者購買行動理論 概論(ネットショップ総研)
https://netshop-soken.co.jp/behavior/
※7:ニューノーマル時代、企業はSNSをどう活用すべき?「新型コロナがもたらした【新しい生活様式】における消費者のSNS利用実態調査」結果発表(echoes)
https://service.aainc.co.jp/product/echoes/voices/0033
※8:EC売り上げがYouTubeで大幅増 崖っぷちコーヒー店の起死回生策(日経クロストレンド)https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/casestudy/00012/00632/
※9:カクヤスネットショップで『eギフト』クーポン+10%還元キャンペーン
(通販通信ECMO)https://www.tsuhannews.jp/shopblogs/detail/67529
※10:外食店での体験ごと宅配するオイシックス 焼き鳥台や鉄板も届く(日経クロストレンド)https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00457/00005/
※11:ベイクルーズのライブコマース運営とは 最大9000人の視聴者を集める集客力(ECのミカタ)https://ecnomikata.com/column/29865/
※12:LINE公式アカウント導入で、EC売上を130%アップさせたアパレル雑貨ショップ(LINEforbusiness)https://www.linebiz.com/jp/case-study/titicaca/
※13:コロナ禍でEC売上増! アダストリアのアパレルオンライン接客事例とは(ネットショップ総研)https://netshop.impress.co.jp/node/7833
※14:繊維製品の製造・販売を行うホットマン、店舗とECの相乗効果で売上倍増 コロナ禍に「自分専用タオル」の販促に成功(日本ネット経済新聞)https://netkeizai.com/articles/detail/4058
※15:「洋服の青山」、ライブ配信で新商品を開発 ECサイトで先行発売(TECH+)
https://news.mynavi.jp/article/20210822-1953061/
※16:【コロナ禍の成長企業分析】青山商事、通販売上高56.7%増 ECを主体とした商品展開も(日本ネット経済新聞)https://netkeizai.com/articles/detail/4369
※17:創業305年目のチャレンジ。コロナ禍のピンチをチャンスに変えた老舗和菓子屋のネット通販奮闘記(YAHOO!ニュース)
https://news.yahoo.co.jp/articles/11c7827d4586826b45b0a59daf474132fcacfe54?page=1