ジョブ型雇用制度とメンバーシップ型雇用制度の違いとは?

新型コロナウィルス感染症の拡大に伴って社会が変化し、テレワークを導入する企業が増えています。パーソル総合研究所の調査によれば、緊急事態宣言が発出された場合に71.1%の企業がテレワークを認める方針であることがわかりました。(※1)

しかしながら、テレワークを認める場合には人事制度や勤務形態を変化させる必要があります。テレワークを導入する企業では人事制度や勤務形態見直しの検討も始まっています。これは政府が推進している働き方改革にも大きく関わることです。

そこで注目されているのが従来のメンバーシップ雇用からジョブ型雇用への移行です。終身雇用や年功序列を背景としたメンバーシップ型雇用ではなく、成果物主体の人事制度であるジョブ型雇用制度に移行しようという動きが高まっています。

この記事では、ジョブ型雇用制度とメンバーシップ雇用制度の違いと、そのメリットとデメリットについて解説します。

1.ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の違い

ジョブ型雇用とメンバーシップ型の違い_

1)ジョブ型雇用制度の特徴とは?

ジョブ型雇用とは、求人の時点で仕事内容、勤務地、給与などがジョブディスクリプションによって厳密に決められ、それに基づいて労働者が応募することに特徴があります。配置転換や昇給、昇進はジョブ・ディスクリプションの更新によって行われます。いわば仕事(=ジョブ)に対して人材を割り当てていく雇用制度です。これは昨今注目されているテレワークと非常に相性の良いという特徴があります。なぜならテレワークでは「一生懸命やっていたか」「真面目に取り組んでいたか」という仕事の過程ではなく、成果物(アウトプット)を中心に据えた人事制度にする必要があるからです。

2)メンバーシップ型雇用制度の特徴とは?

メンバーシップ型人事制度とは日本企業の多くが昔から採用している雇用制度です。これは新卒一括採用、終身雇用、年功序列を前提とした昔ながらの制度になります。ジョブ型雇用では仕事に対して人材を割り当てていくのに対し、メンバーシップ型雇用制度では人材に対して仕事を割り当てていくという特徴があります。メンバーシップ型雇用制度ではポテンシャルを持った未経験の人材をとりあえず採用し、それから仕事を割り当ててスキルや経験を身に付けさせるという制度となっています。採用時点では仕事内容は決まっておらず、従業員ごとの役割分担も曖昧であるのが特徴です。

3)ジョブ型人事制度とメンバーシップ型の違い

メンバーシップ型人事制度は年功序列や終身雇用を前提とし、仕事内容が総合的で非限定的なのに対し、ジョブ型雇用は仕事内容が専門的かつ限定的であるのが1つの違いです。またジョブ型雇用は報酬が成果で決まるのに対してメンバーシップ型雇用は勤続年数や等級や役職等で決まります。さらに、メンバーシップ型雇用は労働時間が一律で決まっていますが、ジョブ型雇用は労働者本人の裁量によって労働時間を決めることが大きな違いとなります。また、ジョブ型雇用制度のほうが雇用が流動化しやすく、社会全体にとっては良い側面があります。

2.ジョブ型雇用制度のメリット・デメリット

ジョブ型雇用のメリットデメリット

メリット

1)雇用のミスマッチが防げる

ジョブ型人事制度が普及すると採用の段階において仕事内容がきっちりと決まるため、必要なスキルや待遇についての労働者と組織のミスマッチを防ぐことができます。スキルや経験と人に関する情報がリンクされ可視化されるのでポジションにマッチした人材をアサインしやすいという特徴があります。

2)専門人材の採用やアサインがしやすい

ジョブ型人事制度ではメンバーシップ型人事制度とは違い、ミスマッチが起こりにくく、専門技術を持ったスペシャリストの採用やアサインがしやすいと言うのもメリットです。ジョブディスクリプションによって勤務地、勤務時間、仕事範囲を限定することで仕事の専門性を高めます。労働者の側もジョブ・ディスクリプションに基づいて採用に応募しますので、必然的に専門的なスキルや経験に対する意識が高くなります。

3)仕事に対する報酬が明確になりやすい

ジョブ型評価制度が普及すると、ジョブ・ディスクリプションに基づいてあらかじめ仕事の範囲に対する対価を明確に定め、労働者側が納得した上で応募してきます。したがって、労働者のほうに対価や仕事内容に対する不満が出にくいと言う特徴があります。必然的にモチベーションも上がりやすいです。また、政府が働き方改革において推進している同一労働同一賃金が実現しやすくなるのも特徴です。

4)年齢や勤続年数に左右されにくい処遇

ジョブ型評価制度が普及すると、年功序列や終身雇用を前提としていたメンバーシップ型雇用とは違い、スキルの練度によって対価が決まるので、年齢や勤続年数に左右されにくい処遇をすることができます。あまり成果の上がらない労働者に対して勤続年数が長いというだけで高額の対価を払わないといけないという状況を無くすことができ、経営の効率化が期待できます。

5)成果が出やすい環境

ジョブ型評価制度が普及すると、労働者はジョブ・ディスクリプションに書かれている仕事のみに集中できるので成果を上げやすいです。また、労働者は明確なキャリアと育成を得られるのでモチベーショが上がりやすく、パフォーマンスの向上が期待できます。また、テレワークと相性が良いのもメリットです。ジョブ型雇用では成果物を中心に人事制度が構築されるため、仕事の途中の過程を監視する必要がないためです。

デメリット

1)管理が煩雑

ジョブ型評価制度に移行した場合、ジョブ・ディスクリプションが必須であり、ジョブ・ディスクリプションを作成しないとジョブ型雇用とは言えません。そして、ジョブ型評価制度を導入するのに最も難しい課題はこのジョブ・ディスクリプションの作成と管理です。

これを作成するには社内の隅々までどのような仕事があるかを現場レベルで洗い出さなければなりません。事業規模の大きな組織では仕事の数が膨大すぎてこれは困難を極める作業となるでしょう。また、少人数の中小企業では1人の人員が複数の領域の仕事を抱えるのが当たり前であり、仕事の細分化が困難を極めるでしょう。

2)ポジションが流動化しやすい

ジョブ型人事制度に移行した場合はキャリアアップする際にはジョブ・ディスクリプションを更新しなければなりません。もし組織の方針転換で自分の職務や勤務する事業所が無くなった場合にはそのまま契約が終了となります。したがって、労働者側から見れば組織に対して帰属意識や忠誠心が湧きにくいというデメリットがあります。これはつまり、自分の居場所が非常に流動的になりやすく、人生が安定しにくいというデメリットです。

3)転職されやすい

ジョブ型評価制度に移行した場合、労働者から見ればキャリアアップやスキルアップは完全に自分の責任となります。メンバーシップ雇用であれば社内にスキルアップのための研修制度などが用意されていますが、ジョブ型雇用の場合はそのような制度が無いことが多いので、労働者がスキルアップしようとすると転職という選択肢のウェイトも大きくなってきます。雇用の流動化の面ではメリットですが、組織の面や労働者の雇用の安定の面から見るとデメリットとなります。

3.メンバーシップ型雇用制度のメリット・デメリット

メンバーシップ型雇用のメリットデメリット

メリット

1)安定した雇用環境での成長

メンバーシップ型雇用の場合、長期的な雇用を背景として採用がなされるので、組織は労働者を安心して育成することができますし、労働者は安心して成長することができます。
また、その組織の色に染まっていきやすいというのも経営者から見たらメリットと言えるでしょう。メンバーシップ型雇用はどちらかというと企業に長期で籍を置くことを背景として、社内の研修制度やOJTによってスキルや専門性を身に着け成長していく制度です。長期の雇用が背景となるので、労働者側にとっても人生設計が立てやすいというメリットがあります。ただし、社員が組織に依存してしまいがちになるので、雇用の流動化の面ではマイナスとなります。

2)忠誠心の高さ

メンバーシップ型雇用は、労働者が組織に帰属するという背景が非常に強いため、労働者が忠誠心を抱きやすい制度です。「日本企業の採用は就職ではなく就社だ」というよくある言葉がこの性質を端的に表しています。ですが、これはメリットデメリットの問題ではなく、高度成長期に必ず市場が拡大していくという確証がある社会のなかで結果的にこのような制度になったという背景を考える必要があるでしょう。この背景から長時間残業を誘発するような側面もあり、働き方改革においてはマイナスの面もあります。

3)強化したい分野に人材を異動させやすい

メンバーシップ型雇用は人材が職務に縛られないため、人材の異動を柔軟に行うことができます。メンバーシップ型雇用はジョブローテーションによってゼネラリストを育成するのに向いている制度であり、労働者は転勤や異動を繰り返すことでさまざまなスキルを獲得し、成長していくことになります。

デメリット

1)生産性の低さ

メンバーシップ型雇用は年齢や勤続年数に応じて給与が決まるため、生産性の低い社員でも長く勤めれば高額の給与を得ることができます。経営者から見たらこのような社員は大きなコストとなります。また、生産性の高い若手社員に取ってみれば生産性の低いベテラン社員が高額の給与をもらっているのは著しくモチベーション低下の原因になりやすく、若手社員ほど転職してしまいやすいという背景を生むことになります。
また、テレワークと相性が悪いのもデメリットです。なぜならテレワークは組織への帰属意識が薄れるため、メンバーシップ型雇用のメリットを発揮しにくく、逆に成果物主体の人事制度で生産性を高めるというテレワークのメリットをメンバーシップ型雇用の考え方が阻害してしまいがちだからです。また、メンバーシップ型雇用では、組織への帰属意識がマイナスに作用してしまい、残業をせずに帰りにくいという労働者の意識を生み出します。これは無駄な長時間残業を誘発しますし、働き方改革にも逆行します。

2)会社都合での転勤

メンバーシップ型雇用において労働者側の大きなデメリットが組織都合でのジョブローテーションに基づく転勤です。メンバーシップ型雇用において、いつ転勤を命じられるかわからないというのは労働者側の大きな人生のリスクです。マイホームを購入した後や子どもが生まれた直後に転勤を言い渡されると、労働者の人生設計が大きく狂うことになります。これは労働者のモチベーションを著しく低下させ、転職の原因にもなりますし、経営者にとっては訴訟リスクもはらみます。また、最近では働き方改革の一環として転勤を廃止する企業も増えてきています。

3)特定のスキルを伸ばしにくい

近年はAIやIoT、ブロックチェーン、ビッグデータなど、高度な専門スキルを持つ人材が不足しています。これらは専門的な高等教育を学んだ人材だけが獲得できる高度なスキルであり、ゼネラリスト向けの社内研修制度やOJTなどで人材を育成するのは不可能です。メンバーシップ型雇用では、これらの高度なスキルを持ったスペシャリストを採用しにくいというデメリットがあります。

まとめ

近年は新型コロナウィルス感染症の影響や政府が推進する働き方改革の影響もあり、ジョブ型雇用への注目が集まっています。しかしながら、従来のメンバーシップ型雇用と比べて全てが良くなるということはなく、一長一短でメリットもデメリットもあります。

特にジョブ・ディスクリプションを作成できるかどうかが一番のハードルとなるでしょう。また、労働者側にとっても今までの給与が大きく下がるリスクがあり、いきなり制度が激変することは好ましくありません。そこで、メンバーシップ型雇用かジョブ型雇用かという二元論で考えるのではなく、従来のメンバーシップ型雇用のなかでできるところからジョブ型雇用へ変えていき、まずは2つの制度の共存を目指すのが重要な考え方です。

(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)

出典
※1:新型コロナ感染拡大のレベルに応じ、企業のテレワーク方針はどう変化するか(パーソル総合研究所)
https://rc.persol-group.co.jp/news/202101041120.html