【プロ監修】AIって何ができるの?今さら聞けないAIの得意なこと・不得意なこと
現代のビジネスにおいて、AI(Artificial Intelligence=人工知能)やIoT(Internet of Things=モノのインターネット)の導入はさまざまな場面で不可欠な存在となりつつあります。その勢いは、一種のブームともいえるほどです。
しかしながら、アメリカ、中国、ヨーロッパ主要国などと比較すると、日本ではAIやIoTの導入がまだそれほど進んでいません。実際、AIやIoTを活用して業務の効率化をはかりたい、あるいは新規事業を展開したいと考えているものの、具体的にどのように活用したらいいかわからないと悩む企業も少なくありません。
そこで本記事では、
・AIを活用したいと考えている担当者の方
・AIのことをこれから勉強したいと考えているAI初心者の方
などに向けて、AIとはどのようなものなのか、AIで何ができるのかといった基本的な知識について、AI・データ解析分野のプロ人材が解説します。
※本コラムは、AI(人工知能)やIoT、量子コンピュータなどさまざまな最先端技術に関わり、AIやデータ活用のプロジェクトを多数手がけておられるコンサルタントが監修しています。
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1.今さら聞けない! そもそもAIって何?
「AI」とは「Artificial Intelligence」の略語。日本語に訳すと「人工知能」です。AIの学術な定義は今も確立していませんが、一般的にはその名のとおり、人間の脳がふだん行っているような思考、認識、学習、予測といった活動を、コンピュータを使って再現するシステムを指します。
AI(人工知能)という用語が初めて世に出たのは1956年。それ以来研究・活用が発展し、さまざまな分野でサービスなどへの組み込みが進んでいます。身近な活用事例だけみても、AppleのSiri、Googleの音声検索、掃除ロボット、ソフトバンクのロボット「Pepper」など、枚挙にいとまがありません。
AI(人工知能)は導入するだけではその効果を存分に発揮することはできず、学習を繰り返していくことで能力が高度化されていきます。よく聞かれるようになった「機械学習(machine learning/マシンラーニング)」や「深層学習(deep learning/ディープラーニング)」は、AIの学習方法の一種。
それらをさらに細分化すると「強化学習」「CNN(Convolution Neural Network)」「RNN(Recurrent Neural Network)」などがあり、用途に適した学習方法を利用することになります。
「機械学習(machine learning/マシンラーニング)」とは
人間が学習用に用意したテキスト、画像、音声、数値といった大量のデータを、コンピュータがAIにプログラミングされたアルゴリズムによって処理し、そこから、コンピュータが自ら知識やルール、法則性を学習する技術です。
「深層学習(deep learning/ディープラーニング)」とは
機械学習の手法の一つですが、こちらは人間が加工していないビッグデータをコンピュータが分析し、その特徴やパターンを見つけられるように学習する技術を指します。
AIの導入に際しては、AIが機械学習するためのデータを用意し、機械学習を可能とする情報処理システムを構築して、ディープラーニングなどを用いて繰り返し機械学習を行うことで、初めて効果を発揮することが可能になるのです。
2.なぜ日本ではAIの導入が進まないのか?
1950年代から研究が進むAIですが、その過程では「AIブームの時代」と「AIの冬の時代」を繰り返してきました。おおよそ1950年代後半から1960年代の第1次AI(人工知能)ブーム、1980年代の第2次AI(人工知能)ブームに続き、現在迎えているとされているのが第3次AIブームです。そんな現在、AI(人工知能)はさまざまな業界で活用が期待されています。2020年1月発表のキーマンズネット編集部読者調査では、全体の85.9%が「企業の業務およびシステムに、AI(人工知能)が必要だと思う」と回答しています。(※1)
他方、総務省発表の「令和元年版 情報通信白書」によれば、各国における企業のAI導入割合は、アメリカ・中国・ヨーロッパ主要国および日本の7カ国中で最も低い値を示しています。そして、国内のAI活用状況は、全体で10.9%。先端技術を提供する企業ではなく利用する企業に絞れば、その割合は9.4%にとどまっています。(※2)
活用を期待されているにもかかわらず、なぜ日本ではAI(人工知能)の導入があまり進んでいないのでしょうか。そこには大きく3つの課題があると考えられます。ここからは、その課題について解説します。
1)AIやデータ活用の重要性に対する理解が不足している
「AI(人工知能)」という用語自体は普及したものの、この用語が何を指しているか、具体的に何ができるのかというところまでは理解が進んでいないように見受けられます。そのため、実業務の環境でどのように活用できるのか、どのように導入するべきなのか、といった検討段階でつまずいてしまうという状況を多く目にします。
「AIを活用した新規事業」というと何かすごいことができそうなイメージが湧くでしょうし、対外的にも先進的なイメージを与えることもできますから、経営者が「我が社もAIを導入して何かやろう」と考えるのもうなずけます。しかし、AIで実現できること・実現できないこと、AIに向いていること・向いていないこと、AIの技術の中でも具体的にどういった技術を使うのか、といったことを理解したうえで導入を検討しないと、具体的な話を展開させるのは難しいでしょう。
2)リソース不足によりAIの業務活用が進展しない
AI(人工知能)の導入には、AIやデータをどう活用できるかを判断し進める人材、AIのシステムを導入する資金、AIを開発するコンピュータなど、さまざまなリソースを必要とします。しかし、そうしたリソースが不足していると、スピーディーな導入は困難です。
特に人材面では、AIの技術や知識を理解し実業務にどのように活用できるかを“目利き”する人材も必要ですが、AIの活用と密接に関わるデータの活用についても、社内に埋もれるデータをどう利用しAI導入につなげていくかを“目利き”する人材も不可欠です。日本では、データ利活用の重要性が経営者や上層部に浸透していない企業がまだまだ少なからず存在するという印象があります。そうした企業では、せっかく社内に有効活用できそうなデータがあっても、データ活用の“目利き”人材が不足しがちというケースも。
また、投資対効果の観点でいうと、企業の経営者は早期の効果創出を期待しがちですが、AIは学習を繰り返すことでその精度が徐々に高度化され、効果を高めていきます。すなわち、AI(人工知能)の導入効果は学習が前提であり、そのための期間やコストを見積もっておく必要があるのです。この点を見誤ると、AI活用可否の判断を誤る可能性につながってしまうため、注意が必要です。
3)AI導入のリスクを恐れ実行に踏み切れない
いざAI(人工知能)を業務に導入するとなると、企業の経営者、上層部、従業員に至るまで、「本当にAIで大丈夫なのか」「AIの仕事は信頼できるのか」といったように、人間がAIに対して漠然と不安感を抱くという状況が起こりがちです。
また、AIと人間が協働する領域においては、従来の業務では発生しなかったようなリスクが生じ得ます。例えば、自動運転をしていた車が事故を起こした場合、その責任は車両を作ったメーカーにあるのでしょうか。それとも、車内で自動運転を制御していた人間にあるのでしょうか。AIを活用したサービスが増加している現代の環境に、法律の整備はまだまだ追いついていない部分もあります。そうしたすき間でトラブルが発生することも十分に考えられます。
起こり得る問題が明らかであればそれに対する体制を構築することもできますが、どのような問題が起こるかも未知数であるなかで問題をどこまで許容し、どこまで回避し、どこまで責任を負うかといったことを判断できない企業もあるでしょう。そうなれば、AI導入の実行に踏み切れない、という結論になってしまいます。
3.何ができる? AIの得意なこと
前項の課題をふまえたうえで、AI(人工知能)を開発・導入し有効に活用するためには、まずはAIに何ができるのかを理解することが大切です。AIは万能ではなく、できることとできないこと、得意と不得意があります。その特性を理解し、自社の業務のどの部分を任せることができるかを判断したうえで活用することで、初めてAIのメリットを生かせるようになるのです。そこでまずは、AIが得意とすることを解説します。
1)画像認識・分析・処理
人間がコンピュータに提示した画像データをAIが分析し、「これは○○の画像である」と認識。その分類に基づいて適切な処理をするといったような画像認識は、AIの得意分野の代表例です。深層学習(deep learning/ディープラーニング)を利用した顔認証システムは、監視カメラなどで活用することができます。Googleで検索キーワードから画像を検索できるサービスも、AIの画像認識を利用した処理が活用されています。
また医療分野では、深層学習(deep learning/ディープラーニング)の代表的な手法であるCNN(Convolutional Neural Network=畳み込みニューラルネットワーク)を用いて、AIに厖大な腫瘍画像データを読み込ませ、患者さんの内視鏡検査などで問題のある腫瘍を検出するといった活用モデルなどがみられます。人間には疲労もありますし集中力にも限界がありますが、AIは疲れ知らずです。きちんと学習させ、AIによる高精度の検出が可能になれば、医療分野においてもAIが人間の診療の大きな力になるのです。
2)音声認識・分析・処理
人間の話し声の音声データや機械が発する音のデータをAIが認識・分析し、適切な処理を実行する音声認識は、AmazonのAIスピーカー「Amazon Echo」やAppleの音声アシスタント「Siri」などに音声で指示するシーンを思い浮かべるとイメージしやすいでしょう。
人間の発言を録音した音声データをAIが聞き分けて書き起こし、テキストデータ化するといったシステムは、会議の議事録作成などへの活用が期待されています。海外では、工事設備や自動車などの機械が発するわずかな異音からその不調を読み取り、故障を予知するといったサービスの開発も進んでいます。
3)文章の画像認識・自然言語処理
文章の画像認識は、前述の画像認識の一種です。手書きした文字を画像化し、その画像データをコンピュータに読み込ませてテキストデータ化します。画像データのテキスト化は従来もOCRという技術がありましたが、近年ではこのOCRにAI技術を組み合わせ、機械学習(マシンラーニング)によって文字認識の精度を高めるといったことが可能になっています。
自然言語処理(NLP=natural language processing)とは、人間が提示したテキストデータに対してAIが形態素解析を行い、文章を名詞、副詞、助詞などに分類する作業を通じて、最終的にAIが文章を理解し、その理解に基づいて適切な処理をするというものです。
このAI技術活用のモデルケースとしては、会話音声やテキスト入力などによる「チャット」と、AI(人工知能)を用いた「ロボット」による自動会話プログラムである「チャットボット」が挙げられます。前述のAIスピーカーも、音声認識と自然言語処理を組み合わせたものです。
4)単純作業
単純作業の繰り返しは、コンピュータの最も得意とする分野。機械学習(machine learning/マシンラーニング)や深層学習(deep learning/ディープラーニング)でAIに学習させ、その学習をもとにコンピュータ上での計算処理や分析処理といった作業、物流業務におけるロボットの制御、農業における農作物のサイズ測定などを行わせるなど、多様な活用が考えられます。
5)推論
AI(人工知能)は、人間から提示されたデータをもとに学習するとご説明しました。例えば動物の画像認識であれば、AIは学習したデータの統計的分布から「この特徴をもつ画像は犬」「こういう特徴をもつ画像は猫」といったように、判断基準となる特徴を組み合わせた「推論モデル」を作ります。この推論モデルに基づいて、新たに認識した画像データを「これは犬」「これは猫」と分析する処理が「推論」です。AI(人工知能)を活用するための第1フェーズが「学習」であるとすれば、その第2フェーズが「推論」といえます。
2010年代には、囲碁や将棋、チェスといったゲームにおいてAI(人工知能)の活用が急速に進み、その能力も大きく飛躍したことがたびたび報じられました。こうしたプログラムは、AIの推論能力・手法が生かされています。
4.AIができないこと・苦手なこと
学習と推論でさまざまな処理を可能にしてきたAI(人工知能)ですが、できないこと、不得意なこともあります。端的にまとめると、「学習の(でき)ない状態で、ゼロから新しいものを生み出す作業」は、AIの苦手とするところです。以下に、その具体例を解説します。
1)クリエイティブな作業
人間のアーティストが行うように、ゼロの状態から新しい絵画や音楽を生み出すといったことは、AI(人工知能)にはできません。前述のとおり、AIがその能力を発揮するためには、学習の蓄積を経て推論モデルを構築する段階が不可欠だからです。
しかしこれは、裏を返せば「学習できれば“再現”はできる」ということ。実際、過去の芸術家の作品データをAIに学習させることで、AIがその作風を模倣し、作品づくりを“再現”することはすでに可能で、絵画、音楽、小説といった分野で実例があります。
2)気持ちを汲み取ること・空気を読むこと
人間どうしのコミュニケーションにおいては、発した言葉が本来の意味とはうらはらの気持ちを示していることや、無音の空気の中に人間の気持ちやその場の雰囲気が流れていることがよくあります。そうしたシチュエーションで相手の気持ちを汲み取ったり、空気を読んで行動するときの人間の脳は、非常に高度な情報処理を行っているのです。この処理をAI(人工知能)が担うのは、なかなか難しい課題でしょう。
とはいえ、ソフトバンクのロボット「Pepper」にはすでに感情認識機能が搭載され、人工知能やクラウドAIによって感情を学習するとされています。今後、人間の脳の活動のメカニズムの解明がさらに進み、人間の脳においてどのような処理が行われているかがより明確になれば、その処理をAIに再現させる技術の検討も進むようになるかもしれません。
まとめ
AI(人工知能)の研究が進んできた現在、AI技術を使ってさまざまなサービスの開発や業務への組み込みが可能となりました。自動車の分野では、特定の場所において運転者の操作を不要とする自動運転「レベル4」の実現も視界に入ってきています。
第3次AIブームのただなかで、最先端のIT技術のひとつとしてAIが幅広く認識されるようになったのは喜ばしいことといえますが、他方で「AI(人工知能)」という用語が一人歩きし、まるで何でもできる魔法のように漠然としたイメージをもってとらえられてしまっている向きもあります。
実際には、AI(人工知能)と一言でいっても、AIを構成する技術や学習・構築のための手法は多種多様。学習方法だけをみても、機械学習(machine learning/マシンラーニング)、深層学習(deep learning/ディープラーニング)、強化学習、CNN(Convolution Neural Network)、RNN(Recurrent Neural Network)など実にさまざまです。AIを解説する情報も多数存在するものの、詳細を解説した情報はどうしても理解が困難になりがちですし、簡単に解説した情報は漠然としたイメージの域を出ないということも。そうしたなかで、企業の経営者や担当者がAIをきちんと理解しようとしても、やはりなかなか難しいということもあるのではないでしょうか。
こうした状況下で、AIの開発・導入を適切に進めるためには、「AIを使ってこういうことをしたい」といったように目的・目標を明確にするプロセスが不可欠です。AIを導入する目的・目標が明確になって、初めて最適な技術・手法を選択することができるようになるのです。これからAI導入を検討しようとお考えの方は、この目的・目標が明確になっているかどうかをまずご確認いただきたいと思います。
また、AIはすぐれた技術ですが、まだまだ発展途上。そして、成熟した従来のIT技術や、統計学をベースとした予測手法も、状況に応じてまだ十分活用可能です。実際、さまざまな企業から「AIを活用して何かやりたい」というご相談を大変多くお受けするようになりましたが、お話をうかがってみると従来の学問やIT技術を用いて実現するほうが適しているケースも散見されます。AI導入を検討される際には、「AI」という漠然としたイメージにこだわりすぎず、あくまで前段の目的・目標ありきでAI(人工知能)も含めた数多の技術のなかから最善の方法を検討するといいでしょう。
AI初心者の方、ITの専門家でない方にとっては、「そのように幅広い技術があるとなると、すべてを理解するのは難しそうだ」「最適な選択ができるかどうか不安」と感じることもあるかもしれません。そうした場合は、AI技術や最先端のITに関する知識を有するプロフェッショナルに相談することをおすすめします。AIの技術動向や活用のモデルケースといった最新情報をキャッチアップし、専門的な知見をもつプロフェッショナル人材のサポートを受けることで、最適な技術の解説や提案を受けることも可能になり、AI導入の効率もメリットも格段に高まるでしょう。
監修者プロフィール
長迫勇樹
株式会社クォンタムデータ代表取締役。
量子情報技術とその他先端領域(人工知能、データ解析)の融合により新規事業の研究開発・導入コンサルティングを手掛ける。京都大学大学院卒・NTT横須賀研究所、インターネット総合研究所を経て2017年に創業。米国の大学での教職他海外駐在経験も豊富。理学修士、工学修士、玉川大学量子情報研究センター博士課程単位取得修了。現在は千葉大学のキャンパス内に事務所を構えている。
(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)
出典
※1:AI導入「必要」86%、実際の導入率は18%……RPAと混同する声も(キーマンズネット)
https://www.keyman.or.jp/kn/articles/2001/24/news031.html
※2: 第1部 特集 進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0(総務省)
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r01/html/nd112220.html