SAPの新たなPaaS戦略 それが及ぼす影響とは?
作成日:2017/02/20
クラウド関連事業を中心に成長を続けるSAP
2016年10月24日、SAPは第3四半期の好調な業績により通年の業績見通しを引き上げることを発表しました。その発表の中で、SAP CEO ビル・マクダーモットは「お客様の強固なSAPポートフォリオ導入に支えられ、予想を上回る業績を達成しています。SAP S/4HANAのイノベーションサイクルは弊社の歴史の中で最も早く、すべてのSAP クラウドソリューションのパフォーマンスを促進しています。SAPは成長を続けており、通年計画を確信をもって引き上げます」と述べています。
今回の業績では、SAPのクラウドビジネス売上の急速な拡大がサポート売上の堅調な成長とともに予測性の高い売上のシェアを引き続き押し上げていると言えます。そんなクラウドソリューションを中心に成長し続けるSAPは、2016年6月、今後の事業戦略としてPaaS(Platform as a Service)型サービスへの注力を明確に打ち出しました。
今回は、SAPが志向する「PaaS戦略」について見ていきます。
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SAPのPaaS戦略とは
SAPのPaaS戦略における主力サービス「SAP HANA Cloud Platform(以下、HCP)」は、インメモリ型のリレーショナルデータベース管理システム「SAP HANA」を中核に据え、この上にアプリケーション開発用の各種ミドルウエアを用意し、これらを月額制のクラウドサービスとして提供するPaaSです。
PaaS型サービスへの注力に伴い、新たにHCPのデータセンターを国内に2ヶ所、東京データセンターを2016年第4四半期(10月~12月期)に、大阪データセンターを2017年第1四半期(1~3月)に新設すると発表しました。
これまでHCPは、ドイツ、オランダ、米国、豪州にあるデータセンターから提供されていたため、国外データセンターの利用に制限があった官公庁や金融機関等の厳しいセキュリティポリシーを持つ組織・企業はその利用が難しかった背景があります。しかし、今回のデータセンター新設により、これらの組織・企業もHCPを利用する土壌ができたと言えそうです。昨今、“クラウドサービス”という言葉は完全に定着したものの、さまざまなアプリケーションを開発するためのPaaS(Platform as a Service)型サービスのスタンダードはまだ確立されたとは言い切れません。今回のSAPの動きは、そのPaaSの覇権を獲りにいく意思表示とも言えます。
では、今回のSAPの動きは、多くのITエンジニアやコンサルタントに関係するSAP関連プロジェクトに今後どのような影響を及ぼしていくのでしょうか?
モダナイゼーションプロジェクトの増加とITエンジニアの期待要件の変化
“モダナイゼーション”とは、企業の情報システムで稼働しているソフトウェアやハードウェアなどを、稼働中の資産を活かしながら最新の製品や設計で置き換えることを意味します。昨今、日本企業の基幹業務システムの多くにモダナイゼーションが求められているのは周知の事実です。日本企業の基幹業務システムは、まだまだスクラッチで開発されたものが多く、このままではどんどん新しくなる技術を採り入れたアプリケーションに対応できなくなってしまう可能性があるからです。
これを打開するには、まずアプリケーションの開発環境を整備し、システム全体を柔軟かつシンプルなものに再構築していく必要があります。さまざまな業務アプリケーションとの連携機能を装備し、オープンな技術を活用しながらクラウドも有効利用できるHCPはその役割を担う可能性が十分にあり、既存オンプレミスシステムからのモダナイゼーションの手段としてのHCPプロジェクトが増えてくるかもしれません。
また、クラウド化の進行は、必然的にサーバーやインスタンス、OSといったインフラを意識するエンジニアリングが減っていくということを意味しています。かつては、特定のハードウェアやその中で動作する特定のミドルウェアやアプリケーションを安定的に動かしていく専門性がエンジニアの必要要件の一つでしたが、今後は、その専門性を活かして、如何に「サービス価値を高められるか」がITエンジニアに求められる要件の一つになると考えられます。
SalesForce.comに代表されるようなSaaS型製品が急速に普及していく中で、SaaS時代のITエンジニアには既存技術をベースとしたサービスを開発・利用するための『企画力』が必要となると言われています。「どのようなAPIを組み合わせるとサービス価値が高まるのか?」「基幹システムにどのように連携させると最もサービス価値が向上するのか?」といったように、サービス価値を高めるための提案をする力が重要になってくるでしょう。
このようなPaaSの覇権をめぐる動きは当然SAPだけではなく、たとえばOracleは「クラウドナンバーワンカンパニー」に向けた戦略として、PaaSサービス「Oracle Cloud Platform」でクラウド事業をさらに成長させようとしています。その動きの中で、Oracle Cloud Platformの技術者認定制度を立ち上げ、現在国内に約24万人いると言われている「ORACLE MASTER」の資格保有者を中心にトレーニングを展開していく、と発表しています。
SAPは、2018年度にはクラウドとオンプレミスの売上を逆転させると表明しています。PaaSやSaaSをはじめとしたクラウドサービスの急速な普及は、フリーコンサルタントやITエンジニアのプロジェクトの在り方、そして、その必要スキルにも影響を及ぼす大きな変化となります。このSAP HCPがどこまで広がりを見せるのか、今後の動向に要注目です。
(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)