リビングラボの課題と可能性とは?種類や事例を解説

最終更新日:2022/04/27
作成日:2022/04/27

 

企業が他の企業や団体などと協力し、新しい技術やサービスの開発づくりを行なう「オープンイノベーション」。企業のほか、大学などの教育機関、NPOなどの団体とアライアンスを組むケースが多いオープンイノベーションですが、最近では市民やユーザーも参加するケースもあり、活動の拠点として「リビングラボ」が注目を集めています。今後、リビングラボのプロジェクトにかかわるコンサルティングも増えるといわれています。

 

 

目次

 

■リビングラボとは?
(1)リビングラボと従来の開発との違い
(2)リビングラボの歴史
(3)リビングラボのステークホルダー

 

■リビングラボの種類
(1)利用者主導型
(2)実現者主導型
(3)プロバイダー主導型
(4)ユーザー主導型

 

■リビングラボのメリット|ステークホルダー別
(1)行政にとってのメリット
(2)ユーザーや市民にとってのメリット
(3)企業にとってのメリット

 

■リビングラボのデメリット
(1)まとまりづらい
(2)イノベーションが起こらないケースも
(3)市民の参加促進が必要
(4)情報漏洩のリスク

 

■リビングラボでのコンサルタントの役割

 

 ■リビングラボ国内事例
(1)地域の課題解決を目指す「鎌倉リビング・ラボ」
(2)横浜市と東急電鉄がリビングラボ拠点施設「WISE Livig Lab」をオープン
(3)トヨタが建設中リビングラボのプラットフォームとなるスマートシティ「ウーブン・シティ」

 

■リビングラボの勢いが増す今後に備えよう

 

※本コラムは、2022年3月27日に「オープンイノベーションの拠点として注目される「リビングラボ」とは」を再構成したものです。

 

リビングラボとは?

リビングラボ図表

 

 

リビングラボ(Living Lab)は「生活空間(Living)」「実験験室(Lab)」を組み合わせた造語で、一般的には「新しい技術やサービスの開発」、いわゆるオープンイノベーションのを「ユーザーや市民が生活する場で行う共創活動。またはその活動拠点」のことをさします。

(1)リビングラボと従来の開発との違い

従来の企業のサービス開発との違いについて例をあげると、ユーザーへのインタビューやプロトタイプ体験といった場を設ける試みは一般的ですが、主体はあくまで企業側。オープンイノベーションの場や機会であるリビングラボでは、ユーザーがより主体的に参加して、企画や開発について意見を出すだけではなく改善に向けて活動するのが大きな違いです。

 

現在、リビングラボは、自治体運営にも取り入れられています。官民が力を合わせ市民参加型プロジェクトにすることで、コストを抑えつつ「高齢化・子育て支援・まちづくりなど地域が直面する課題の具体的・効果的な解決につながる」と期待が寄せられ、地方創生や公助・共助の観点からも注目が集まっています。

(2)リビングラボの歴史

リビングラボの概念は、アメリカで1990年代に生まれました。その後、オープンイノベーションの手法やプラットフォームとして、サステナビリティやサーキュラーエコノミーの実現を目指すヨーロッパで用いられてきました。特に、2000年代にはフィンランドやスウェーデン、デンマークなど北欧でリビングラボが急速に発展したそうです。

 

現在は、行政やビジネスシーンで日本でもリビングラボ事例は続々と生まれています。

(3)リビングラボのステークフォルダー

リビングラボの主役となるのは、ユーザーや市民など、開発中のサービス・商品を利用する立場の人やグループです。「企画」「開発」「評価・テスト」「改善」といったすべてのプロセスに、こうしたステークホルダーが参加します。

 

ステークホルダーとして参加する団体には下記の属性もあげられます。

 

『サービス開発を目指す企業

地域の課題解決を目指す自治体やNPO法人

地域に関する研究を行なう大学などの教育機関』

 

また、業種の異なる企業が協同するリビングラボ事業事例も続々と生まれています。

 

引用:経済産業省 リビングラボ導入ガイドブック

 

リビングラボの種類

リビングラボの種類

 

リビングラボは目的や運営組織によって、大きく4つに分類されています。しかし、すべてのリビングラボが1種類に特化して運営されているわけではなく、2種類、もしくは3種類のリビングラボのタイプが混在しているケースもあります。リビングラボの種類をそれぞれ詳しくみていきましょう。

 

(1)利用者主導型

企業が自社のサービスや製品など事業開発推進のために運営するリビングラボのことです。企業が舵取りをしてユーザーの意見や知見をまとめて企画・利便性向上・事業戦略に活かすことから事業主導型ともよばれています。

(2)実現者主導型

実現者主導型は、公共機関やNGOなどエリアマネジメントを行う組織が運営するリビングラボです。助成金を受けるケースも多く、地域の課題解決を目的として運営されるため、地域主導型とよばれることもあります。

(3)プロバイダー主導型

プロバイダー主導型は教育機関や大学、コンサルタントなどが運営するリビングラボで、市民の日々の生活向上を目指して運営されます。研究や商品開発を行うリビングラボでもプロバイダー型主導型のリビングラボは存在しますが、利用者主導型と異なるのは企業戦略とは一線を引いている部分でしょう。そのため、アカデミア主導型とよばれることもあります。

(4)ユーザー主導型

ユーザー主導型は、ユーザーや一般市民本人たちが生活における問題を持ち寄り、自分たちで解決に導くリビングラボのことです。生活者主導型ともよばれます。組織化するのが難しいため、現在はレアとの指摘もあります。

リビングラボにおける対話の場がもたらす価値 - J-Stage

 

ページ内コンサル登録遷移バナー

 

 

リビングラボのメリット|ステークホルダー別

リビングラボのメリット

 

リビングラボは主に「社会問題の解決につなげる」ことを目的で始動します。ほかにも行政・市民・企業(団体)にとって、それぞれメリットがあります。

(1)行政にとってのメリット

市民の意見から行政側が認識していない地域の問題が明るみに出ることがあります。同時に深刻さなども明確になるでしょう。これは、リビングラボならではのメリットといえます。

 

また、行政だけで地域の問題を解決しようとすると、コストや人材不足に陥りがちです。リビングラボであれば市民や企業とアライアンスを組んでいるので、コストの削減や人材不足の解消に理解や協力が得られます。

(2)ユーザーや市民にとってのメリット

地域の問題に自分の意見を直接反映させられるのは、市民にとってリビングラボの大きなメリットです。リビングラボの活動を通じて、潜在的な問題に気づいたり、不満自体がリビングラボの意義として認められたりと社会参加を実感できることも、人によってはメリットと感じられます。

 

リビングラボを通じて、市民同士の交流が増える例は多くみられるようです。例えば、ある子育て関連のリビングラボで、今まで接点のなかった子育て世帯同士の交流が活発化したという事例もあります。

 

(3)企業にとってのメリット

従来のインタビューやマーケティングリサーチと比べ、ユーザーとの関係性が深くなります。普通の調査では企業が把握しづらい、潜在的なニーズ発掘のチャンスもあります。

 

また、従来のリサーチではモニターの募集などそれぞれのユーザーと個別につながる必要があり、手間や時間がかかります。リビングラボを利用する場合、市民グループと組むケースも多く、まとまった数のユーザーとつながり、調査研究の効率化にされます。

 

リビングラボをベースにすることで、民間企業や官庁、市民がアライアンスしやすいのも大きなメリットです。

 

 

リビングラボのデメリット

.リビングラボのデメリット

 

さまざまなメリットがあるリビングラボですが、市民など参加するステークホルダーが多いことによる課題やデメリットもあります。

(1)意見がまとまりづらい

ステークホルダーが多すぎる場合、結論がまとまりづらいことがあります。また、リビングラボ活動の結果、まとまったアイデアなどの知的財産権を誰が所有するかという問題も起こりやすくなります。

 

オープンイノベーションを目指すために、さまざまな企業や団体に参加してもらいたいところですが、参加者が多すぎると目的がズレが生じやすくなります。特に、企業同士のやりとりだけではなくユーザーや市民も関わるリビングラボでは、多様な意見が出て収拾がつかなくなることも。ゴールを定めてステークホルダーを絞り込むことも重要です。

(2)イノベーションが起こらないケースも

市民が主体となるリビングラボでは、市民のパワー次第で想定していたアウトプットが出てこないというケースもあります。

 

あくまでリビングラボは実証実験の場。あらかじめ決めたスケジュールで結果が出ないときに備えて、他のプランも検討しておきましょう。

(3)市民の参加促進が必要

リビングラボに協力してくれる市民・ユーザーが集まるとは限りません。また、人数が集まったとしても主体的に行動してくれるか、意図を理解してくれるかどうかはわかりません。意識の高い人々に参加してもらえるような仕組み・きっかけ作りが必要です。

 

また、一般の市民やユーザーにとって、リビングラボはまだまだなじみのない活動です。例えば、リビングラボを立ち上げる根本の目的と合う、すでに地域で活動実績のある市民グループと提携し、意見を出し合う場を設けるのも一つの手です。

 

こうした団体であれば参加経験が豊富ですし、すでに代表者が決まっていることもあって進行がスムーズな傾向があります。

(4)情報漏洩のリスク

企業ではサービスの開発段階に機密事項が含まれるケースがほとんどです。企業同士のオープンイノベーションでは、事前の契約などである程度情報のコントロールが可能ですが、多くの市民が参加するリビングラボでは情報漏洩のリスクが高いでしょう。

 

サービスや製品の開発が目的の場合は、ステークホルダーや参加者が決定後、知的財産権の扱いについて事前に通知しておきましょう。

 

 

 リビングラボでのコンサルタントの役割

リビングラボの調整役をするコンサルタント

 

コンサルタントとして今後開発やマーケティングなどのプロジェクトを進める際、リビングラボを活用する機会も出てくるでしょう。従来の手法と比べてさまざまなメリットがあるリビングラボですが、日本ではまだ知名度も低いこともありプロジェクトに組み込むには、まず時間をかけて市民の意識を高める取り組みも必要です。

 

こうした取り組みでの「仕切り」こそがコンサルタンティングの手腕を発揮できる機会となるでしょう。ステークホルダーの絞り込みや目標設定、それに必要な根回しや資料集め、分析・予測などもコンサルタントの役割です。

 

また、リビングラボは単発のワークショップやセミナーと違い、同じメンバーで何度も話し合う機会が必要です。そのため、気軽に集まれる場所を確保できるかどうかも成功のポイントといえるでしょう。

 

参画する企業や教育機関、官公庁とのコミュニケーションもコンサルタントの介入が必要になります。各機関のメリット・デメリット、リビングラボ参画で得られる収益の予測も重要な役割です。

リビングラボの国内事例

コミュニティセンター

 

リビングラボをきっかけにオープンイノベーションが進む事例が増えています。例えば一般社団法人高齢社会共創センター・株式会社日本総研・株式会社三井住友銀行の3社は、2017年9月にリビングラボに関する覚書を締結しています。

 

この事業では、「日本でのリビングラボのネットワーク化」「シニア向けリビングラボ事業」「海外(スウェーデン)との共同事業」などの計画があります。3社がそれぞれの得意分野をもとにリビングラボ事業活動を行なう予定とのことです。

 

こうした流れは今後一層加速すると見られていますが、現在(2022/3月)までに実施、予定されているリビングラボの国内活用事例をいくつか紹介します。

 

(1)行政が中心となり、地域課題解決を目指す「鎌倉リビング・ラボ」

リビングラボに力を入れる自治体として有名なのが、神奈川県の鎌倉市です。鎌倉市では2016年11月から、スウェーデンの共同研究による「鎌倉リビング・ラボ」の取り組みをスタートしています。一般社団法人日本能率協会の主催する、社会価値の創出を応援する表彰制度である「KAIKA Awards 2022」にて、鎌倉リビング・ラボは、「KAIKA賞」を受賞しました。自治体としては鎌倉市が唯一の受賞でした。

 

鎌倉リビング・ラボは、地元町内会のほかNPO 法人(タウンサポート鎌倉今泉台)が、鎌倉市今泉台を「若者にも魅力のあるまちにしたい!」と立ち上げました。鎌倉リビング・ラボには、東京大学高齢社会総合研究機構や三井住友フィナンシャルグループ、オフィス家具メーカー大手のイトーキ、ハウスメーカー、通信事業といった大学・企業が参加しています。

 

今泉台に住みながらビジネスでも活躍できる環境づくりとして「テレワークしやすい家具」にテーマを絞り、産官学民が協働で、コンパクトで多目的に利用できる作業用デスクを作り上げました。製品化まで、共創サイクルを丁寧に回し、生活者起点のデザイン思考手法を何度も繰り返してアイデアを具体化させたそうです。

 

デザイン思考中心の工程や住民が開発者として活動する姿勢は、リビングラボが盛んなヨーロッパでも先進的な取組として評価されました。一つの製品ができて終わりではなく、これをきっかけに次の展開につながるリビングラボ事例といえます。

 

また、鎌倉市では過去に、ベルギーの医薬品メーカーから「日本進出にあたり日本人のニーズを知りたい」という調査依頼を受け、町内会やNPOがリビングラボに参加する市民をコーディネートし、ヒアリングを行うというリビングラボ事例も存在します。官民一体となってリビングラボに取り組む街といえるかもしれません。

 

鎌倉市や東京大学がリビングラボに力を入れる背景には、高齢者の生活実態をより詳しく把握し、生活向上につなげる狙いもあります。今後も高齢者の生活支援に関連するサービス・製品の検討や実証の場として、リビングラボを活用していく予定だそうです。

 

引用:鎌倉市 鎌倉リビングラボ

(2)横浜市と東急電鉄・がリビングラボ拠点「WISE Livig Lab」をオープンし、NTTによるデータを活用

横浜市と東急電鉄では2012年から協定を締結し、たまプラーザ駅の周辺地区にて産学公民連携・協働しまちづくりに取り組んでいます。手始めに「次世代型郊外まちづくり」プロジェクトの拠点として、2017年1月にコミュニティ施設「WISE Livig Lab さんかくBASE」をオープン。セミナーやイベントを開催するためのスペースがあるほか、市民が集まるカフェも併設されています。

 

これを受け、東京大学の小泉秀樹教授などが連携し、横浜市とNTTが締結している「官民データ活用による超スマート社会の実現に関する包括連携協定」の実践事例として、NTTとドコモがまちのデータを収集・可視化してコミュニティ活性化につなげる「IoTスマートライフ」や、住民と企業が共創するリビングラボの研究などを進めています。

 

いきなりリビングラボを立ち上げただけでは、市民が集まるとは限りません。集まった市民から自由な意見が出てこないことも考えられます。そこで、まずは地域の人々が集まることのできる場を提供して市民の参加意識を高めるコミュニティづくりを目指し、そこにNTTとドコモが参画したという形です。

 

WISE Living Lab では、高齢者や子育て世代に向けたセミナーやワークショップが頻繁に行なわれており、「リビングラボって何だろう?」というセミナーも開催しています。人が集まる場所づくりからスタートしたリビングラボ事例として評価されています。

 

引用:横浜市、東急電鉄、NTTドコモ、NTTが、住民主体のまちづくりの活動をICT・IoT技術で加速する新たな取り組み「データ循環型のリビングラボ」共同実証実験を開始 

引用:WISE Living Lab さんかくベース

(3)トヨタがリビングラボのプラットフォームとなるスマートシティ「ウーブン・シティ」を静岡に建設

2020年1月、アメリカ・ラスベガスで開催された世界最大規模のエレクトロニクス見本市「CES 2020」で、トヨタが「ウーブン・シティ」設立を発表しました。2021年2月より着工を開始したウーブン・シティは、先端技術を生活環境の中に導入し、性能・成果・人々の生活への貢献度を検証できる実験都市として、街全体がリビングラボのプラットフォームとなる予定です。

 

ウーブン・シティは、2020年末に閉鎖されたトヨタ自動車東日本株式会社 東富士工場(静岡県裾野市)の跡地で現在建設中です。街の中にならびに完全自動運転かつゼロエミッションのモビリティのみが走行する道を設定するなどして最先端技術やAIを駆使したスマートシティとなる予定です。

 

人々の生活に欠かせないインフラは、燃料発電電池を想定しており、こうした施設はスマートシティらしくすべて地下に配置される予定です。2021年5月には、水素事業のリーディングカンパニーENEOSをコアパートナーに迎え、水素エネルギーの利活用を実証・実現する街としても展開予定です。

 

トヨタは、ウーブン・シティ設立の意図を

 

『人々の未来の暮らし、働き方、移動を大きく進化させる先駆的なプロジェクトです。そこに住まう人、そこに生まれるコミュニティの幸せと成長をもっとも大切にする「ヒト中心の街」。日々いとなむ生活を通して未来技術を進歩させる、活きた「実証実験の街」。住民とパートナーの継続的な参加によって成長し、進化し、共に未来を創造し続ける「未完成の街」。この3つのコンセプトをブレない軸とし、「ヒト」、「モノ」、「情報」のモビリティにおける新たな価値と生活を提案し、幸せの量産を目指します』

 

としています。ウーブンシティには、まずは東京ドーム約15個分の土地にトヨタの従業員や関係者をはじめとする2,000名程度の住民が入居予定です。将来的には、一般入居者の募集や観光施設化も期待されています。

 

引用:TOYOTA Wovencity

 

 

リビングラボの勢いが増す今後に備えよう

リビングラボの勢いが増す今後に備えよう

 

リビングラボがさらに広まれば、さまざまな属性や年代のユーザー・多くの一般市民にとって、より利便性が高いサービスが行政・民間を問わず増えるといわれています。官民、さらに研究機関や教育機関も含めた、オープンイノベーションが加速するとともに、フリーランスで活躍するプロフェッショナルコンサルタントにとっても、新たな挑戦・活躍の機会を生むでしょう。

リビングラボへの知見やステークホルダーとの関係性を深めておくのもよいでしょう。手始めに身近なリビングラボやセミナーに参加するのもおすすめです。

 

(株式会社みらいワークス FreeConsultant.jp編集部)

 

コンサル登録遷移バナー

 

 

◇こちらの記事もオススメです◇

大企業も注目する“オープンイノベーション”とは