「キャリアオーナーシップを持つ」三菱商事からGoogle Japanを経てスタートアップ企業COOとして活躍する人材の極意
みらいワークスがお届けする「プロフェッショナリズム」。今回は、デジタル医療機器や精密機器メーカーといったヘルステック領域のマーケティング支援やリサーチ業務などを強みとする松葉威人さんにお話を伺いました。
三菱商事、Google Japanを経て現在は、スタートアップ企業「Citadel AI」のCOOを務めている松葉さん。Google Japan在籍中から、本業のかたわら複数の企業のプロジェクトにも携わっています。ビジネスの最前線を走り続ける松葉さんは、キャリアの節目でどのような決断をし、どのように未来を切り拓いてきたのでしょうか。「キャリアオーナーシップを自分で持てないのはおかしい」と三菱商事を辞めた、松葉さんのキャリア構築の考え方に迫りました。

松葉 威人
今回のインタビューにご協力いただいたプロフェッショナル人材・コンサルタント
2004年、慶應義塾大学法学部政治学科を卒業後、三菱商事に入社。ヘルスケア分野の事業投資やM&A、新規事業開発に従事したあと、2013〜2017年まで米国・シリコンバレーに駐在、北米ヘルスケア事業の責任者となる。2017年、マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院にて経営学修士号(MBA)を取得。2018年にGoogle Japanに転職、Google Healthの日本事業立ち上げに参画。2024年、Citadel AIのCOOに就任し、現在はCitadel AIのプロダクトを世界中のクライアントに提案。コンサルタントとしてヘルステック領域の案件で多数の企業のプロジェクトにも携わっている。
松葉 威人
大企業での経験が、キャリアの礎になった
慶應大学法学部を経て、三菱商事に入社。ファーストキャリアとして大手商社を選択した当時の決め手は何だったのでしょうか。
松葉さん(以下、敬称略):叔父が経営者だった影響で、子どもが野球選手に憧れるように「経営者」が私にとってのヒーロー。経営者になるという目標から逆算してキャリアを築いています。
総合商社は、経営者になるためのトレーニングの場として最適だと考えました。大手商社には、事業投資を軸としたビジネスモデルを持っており、若いうちから経営に近い経験ができる環境があります。投資先の企業に出向し、経営陣として事業運営に関わる機会も多い。ノーリスクで経営経験を積める絶好のチャンスだと考えました。
三菱商事ではどのような経験を積まれたのでしょうか。
松葉:ヘルスケア領域の事業開発を担当し、シリコンバレー駐在時代には医療技術を「スカウト」するような役割を担っていました。経験を積んでいくにつれて、どういった事業がどういうタイミングでうまくいく、うまくいかないというのが経験上わかってくるんですね。北米の生きのいいベンチャーを探し出しM&Aや事業提携を進めるなかで、最先端のテクノロジーを間近で見て、それを事業化するプロセスを経験したことが大きな財産です。
オーナーシップを握ることを意識して転職

三菱商事で長年ヘルスケア事業に従事されたのち、Google Japanに転職されています。異業種へのチャレンジのきっかけは何だったのでしょうか。
松葉:シリコンバレーに駐在していた2013〜2017年頃、Googleがヘルスケア領域に100億円単位の投資を始めていました。その動きを見て、テック企業が医療業界を塗り替える未来を確信しました。働くなら最先端の技術を持っているGoogleのようなテック企業で働きたい。そう思い、当時のGoogleの求人要件を見たら、Master’s Degree(修士号)が必須条件だったんです。自分にはその資格がなく、「応募することすらできない」のかとハッとさせられました。
そこで、ビジネススクールに通うことにしました。ビジネススクールが私にとって大きな転換点だったような気がします。「卒業式から20年後の自分になった想定で、どういう人生だったか、何歳のときに会社のどのポジションにいるのか、どういった仕事をやり、年収はどのくらいか年表をつくり、自叙伝を書く」という課題が出されたんですよ。長期的視点で自分のキャリアについてあらためて整理したら、ゴールは「ヘルスケア業界の経営者といえば松葉だよね」というところだということが明確になった。ですが日本の大企業では、何年かごとの人事異動という慣習が根強く残っている。自分の人生なのに自分のキャリアの決定権がないのはおかしいと感じました。自分の人生のハンドルは自分で握りたい。そう考えて、三菱商事を飛び出す決断をしました。
副業がキャリアの可能性を広げる
Google Japan在籍時から現在に至るまで、本業の傍ら複数の企業案件にも従事されています。本業が多忙な中、兼業にチャレンジするきっかけは何だったのでしょうか。
松葉:Googleに入社して間もなく、副業のオファーがありました。ヘルスケアの新規事業開発のアドバイザー募集だったのですが、自分の得意領域だったので「これは楽しんでできる」と思い、挑戦しました。気づけば、関わった企業は20社ほど。副業は、自分の市場価値を測れる機会であり、異なる業界の知識を吸収することで本業にも好影響を与えられます。
兼業を成立させるポイントやコツを教えてください。
松葉:フリーランスの仕事では、成果がそのまま自分の評価になります。そこで重要なのは、「自分の価値を最大限発揮できる案件を選ぶこと」です。案件を選ぶために、「戦略設計」と「実行」の2つのパートに分けて考えるようにしています。業界知識や勘所があればそれほど時間がかからない戦略設計のような上流工程に特化し、時間がかかる実行部分はクライアントに任せるスタイルを確立しました。これにより、短時間で最大の価値を提供できるようになりました。
スタートアップで得た経営者の視点

Citadel AIのCOOに就任された経緯を教えてください。
松葉:Googleに在籍中、Citadel AIの創業者から声をかけられました。三菱商事出身のCEOとGoogle出身のCTOが創業メンバーです。私は三菱商事とGoogleで働いた経験があり、カルチャーフィットする。ただ、2人の子どもがまだ小さく、これから教育費がかかることで迷いがありました。最初は副業として関わっていましたが、半年ほどで「この会社は勝てる」と確信し、フルコミットを決断しました。
今後の展望を教えてください。
松葉:Citadel AIを世界的な企業に育てることが目標です。日本発のテクノロジー企業がグローバルスタンダードになる姿を実現したい。そのために、「AIの品質保証とリスク管理といえばシタデル」と世界で認知されるブランドを築くつもりです。
(Citadel AIの事業についての詳細は、『CAREER Knock』をご覧ください。)
本日は貴重なお時間をいただきありがとうございました!
「キャリアオーナーシップを持つ」必要性をあらためて考えるきっかけとなるインタビューとなりました。与えられた環境のなかで現状維持し続けていたら失敗はないかもしれない。でもその結果、何十年か後に後悔することにならないか。一度、立ち止まって考えることがキャリアの大きな転換点につながることがあると、松葉さんの言葉で気づくことができました。松葉さんが描くキャリアの設計図が、どのように実現されていくのか楽しみです。