“運営”から“経営”へ 介護業界を知り尽くした起業家が目指す“人を活かす”組織変革とは

作成日:2018年12月5日(水)
更新日:2019年1月8日(火)

「目の前の人に全力で向き合いたいー」。職員の方々のそんな想いで支えられている介護の現場。その想いを持ち続けたまま、利用する人・働く人双方の満足度が上がり、組織としても生き残っていくためには、どのような変革が必要なのでしょうか。

みらいワークスがお届けする「プロフェッショナリズム」、今回のインタビューは本田新也さん。
経営コンサルティング会社“船井総合研究所”を経たのちに独立。現在は株式会社ビジテラスを創業し、介護事業者向けのコンサルティングに携わっています。
当社も、フリーランスを中心とした医療系プロフェッショナル人材に特化した新マッチングサービス「ヘルスケアプロフェッショナルズ.jp( https://healthcare-professionals.jp/ )」の提供を2018年6月に開始し、去る11月16日に開催したプロフェッショナル同士の交流の場″みらコミュ″では、『高齢者を支える介護の仕組みと課題』をテーマに取り上げました。
超高齢化社会に突入し、医療・介護業界が変革期を迎える今、長年にわたり介護の現場に寄り添ってきたコンサルタントは何を思うのか。今回は、当社の登録コンサルタントであり、かつ「ヘルスケアプロフェッショナルズ.jp」の営業としてもご活躍いただいている吉野真佐代様も交えて、対談形式でインタビューを行ないました。

本田 新也

今回のインタビューにご協力いただいたプロフェッショナル人材・コンサルタント

大学卒業後、株式会社船井総合研究所にて介護サービスに特化したコンサルティングに従事したのち、2011年に独立。2013年8月に株式会社ビジテラスを創業し、介護事業者向けの経営コンサルティングを通じて人材が活きる組織づくりや介護事業全般の集客支援・活性化を行なっている。また、システム開発・紹介や、事業運営を改善するための仕組み作り、コスト削減など、多方面において経営課題の解決を行なっている。   ◆株式会社ビジテラス:https://www.b-terrace.co.jp/

本田 新也

幼い頃から起業を志し、介護業界のコンサルタントとして経験を積む

 

岡本:船井総合研究所を経て、現在はご自身で立ち上げた株式会社ビジテラスで介護業界の経営コンサルティングを手掛ける本田さんですが、独立はいつ頃から考えていたのでしょうか?

本田さん(以下、敬称略):祖父の代から実家が自営業だったので、働くということに対して、いわゆる会社勤めやサラリーマンのイメージはありませんでした。そういった点では、子供の頃から独立という考えはあったのだと思います。それに加え、中学生の頃に『金持ち父さん・貧乏父さん』という本を読んで「やはり雇われるよりまず自分でやってみたい」と感じたことも、いつかは起業したいと思うようになったきっかけでした。

 

岡本:では新卒の時に船井総研を選んだのも、将来の起業を見据えてのことだったのですか?

本田:「いずれ独立するならまずはコンサルティング業界がいいだろう」というのは、大学時代に将来について相談した先生からのアドバイスでした。それを受けて就職活動をする中で、船井総研が一番しっくりきたというのが最終的な決め手です。実家と同じような中小企業に向けたコンサルティングを手掛けているという点も大きかったですね。

実際に入社してみると、50人ほどいた同期のうち7割以上は実家が商売をしている人間で、「会って話してみれば、サラリーマンの子供なのか経営者の子供なのかはわかる」と後から聞き、なるほどと思いました。

 

岡本:7割とはかなり多いですね!実家が商売をされている方が集まると、それは仕事の仕方にも何か影響していたのでしょうか。

本田:「結果を出すためにはどれくらいコミットしなければならないか」という部分では、共通認識を持っている仲間が多かったと思います。顧問先の経営者の方々も、そういう若手がプロジェクトに入ってくると「自分と同じ感覚を持っている若者がいる」と喜んでくださることが多かったですね。

今思えば、特に入社したての新人の頃は、クライアントの若手社員に刺激を与えるための存在としてプロジェクトに呼ばれていたという意味合いもあったのかなと感じます。クライアントは地方の企業が多かったのですが、やはり東京に比べるとスピード感が足りないことも多いので、経営者の方々からすると当時の私たちの働き方を通して、現場の社員の方々に「同じ若手でもこんなにガツガツ働いている人間もいるのだ」ということを伝えたかったのかなと。

 

岡本:なるほど。船井総研時代から一貫して介護業界のコンサルティングに携わっていらっしゃるそうですが、この業界を選んだ理由をお聞かせください。

本田:単純にマーケットとしてまだまだ伸びていくだろうなと思ったことが一番ですね。私が在籍していた頃の船井総研では入社後2年間はいろいろな業界をローテーションで担当することになっていたので、その期間に複数の業界を経験した上で最終的に介護業界を選びました。当時は2000年に介護保険制度が創設されてから数年経過した頃で、介護がビジネスとして動き出した時期でした。まさに「これから一気に伸びてくる」という空気がありました。

 

二度の独立、そして介護事業者にも“経営”が求められる時代へ

 

岡本:最初の起業は、27歳の時なのですね。会社員時代の同僚の方と3人で設立されたとのことですが、実際に独立してみて想定通りだったこと、あるいは想定と違ったことはありましたか?

本田:想定より良かった点は、自分たちで会社をやっているという事実をポジティブに受け止めてくれる経営者が多かったという点です。「独立したからには応援するよ」という声をかけてくださる経営者の先輩方も想像以上に多く、それはとてもありがたかったですね。

想定外だったのは、会社勤めの頃は間接部門がやってくれていた仕事が全部自分たちに降りかかってきたことです。具体的には請求書発行や入金確認、経理処理、ホームページ作成といった作業なのですが、思っていた以上の時間がそれらの作業によって奪われたのは、仕方がないこととはいえ大変でした。特に設立後3~4か月間は、そういった間接業務に月1週間以上取られていましたから。

 

岡本:確かにそれくらいの工数は取られますよね。そのような苦労の末に軌道に乗り始めた会社を2年弱で抜け、29歳の時に今度はおひとりで新たに会社を設立されています。その背景にはどのような経緯があったのでしょうか。

本田:正直に言うと、労働集約型のコンサルティングというビジネスをずっと続けていくのがしんどくなったというのも理由の一つです。実はぎっくり腰になった時にそれを痛感したのですが(笑)。

自分ひとりで新たに起業した直接のきっかけは、コンサルティングとは別の事業をやりたくなったからでした。当時は「月に一度顧問先を訪問する」、「訪問できない場合は売上は発生しない」というスタイルでコンサルティングをしていたのですが、それでは自分たちに何かあると売上が止まってしまいます。そこで、ストックとなる売上が見込める事業を新たに検討した方がいいのではないかと考え、デイサービスの送迎管理システムの開発を打診したのですが、それなら会社を別にしよう、という話になりました。

急な話ではあったものの、もともと昔から「30歳になるまでに独立する」と言っていて、実際に30歳を目前にしたタイミングでそういう流れになったので、結果として夢が叶ってよかったなと今は思っています。

 

岡本:なるほど、期せずしてそうなったということですね。現在はご自身の会社でどのようなビジネスを手掛けていらっしゃるのですか?

本田:独立のきっかけになった送迎管理システムは一旦ストップしたのですが、基本的にはコンサルティングで収益を得ながらさまざまなビジネスの種まきをしているところです。

 一言でコンサルティングといっても、介護の現場ではノウハウだけ伝えても成果につながりにくいことも多いため、物販を取り入れることもあるんです。例えば昨年、デイサービスのコンサルティングと絡めて取り扱いが多かったのが高齢者用の“ケアトランポリン”です。高齢者の方から一番ニーズが強い“歩行”が目に見えて改善される上に認知症対策にもなるということで、より成果を出しやすくするためのツールとしてご紹介しました。現在では細かいものを含めると20個ほどのアイテムを取り扱っています。

 

吉野さん(以下、敬称略):確かにそういった介護向けアイテムはたくさんあるものの、その中から本当に良いものを見つける作業までを施設の介護職員の方々に求めるのは酷ですしね。

本田:その通りです。アイテムは山ほどありますから、私がフィルター機能となって、本当に良いものだけをご紹介しています。実際に取り扱うまでに至るのは、だいたい10個中1個くらいですね。介護業界の場合、マーケティングの対象はエンドユーザーである施設利用者の方々ではなく施設の職員であるケアマネジャーの方々、つまり専門家なので、エビデンスがしっかりしたアイテムが求められているんです。

 

岡本:介護業界におけるコンサルティングの内容も年々変化しているのでしょうか?

本田:ええ、10年前は“デイサービスの活性化”がメインのテーマでしたが、5~7年前は“高齢者住宅の活性化”、いわゆる集客のお手伝いが増え、最近多いのは“組織構築のコンサルティング”です。人材の採用や定着、育成のための仕組み作りを依頼されることが非常に多いですね。

全国的に人不足が加速する中で、需要が拡大する介護事業は運営に支障が出るレベルで人手に困っています。介護事業は、国の定めた人員基準に則って行なわれるため、人が基準を下回ると最終的に事業運営ができなくなります。そのため、今はすべての経営課題の中で人材に関することが求められています。

また介護事業を営んでいることが多い社会福祉法人を取り巻く制度の変化でも、規模の拡大が求められ、その手段として事業拡大や統合という話も上がっています。さらに介護報酬改定についても、規模の大きな事業所の経営数値を参考にするという案も各省庁から上がってくるようになりました。いよいよ本当に協働や統合などで大規模でなければ立ち行かなくなってきました。そうした背景もあり、組織作りのコンサルティングを求められることが増えているのだと思います。

一人当たりの生産性の向上や、そのためのITの導入、連絡体制の構築、リーダーの育て方、新人育成のスピードアップ、採用方法のマネジメントなど属人的な体制から仕組みの導入をすることで、“運営”から“経営”にシフトチェンジすることが必要だと確信しています。国がビジネスモデルを作ってくれていたフェーズは終わり、きちんと経営をしなければ生き残れない時代になったということではないでしょうか。

 

“想い”をうまく転換し、いきいきと働ける介護の場を目指す

 

吉野:今後はどのようなコンサルティングが増えるとお考えですか?

本田:当面は、先ほどお話しした組織構築や人材マネジメントのコンサルティングが続いていくのではないかと思っています。

もう一つ、今後ニーズが高まると考えているのが多様な人材の活用に関するサポートです。人手不足はこの業界とは切っても切れない問題なので、これからは高齢者や障がい者など多様な人材に活躍してもらうために、うまく業務を分担・分割し、効率的に運用していく必要があると思っています。

例えば入浴介助という業務ひとつとっても、現状では資格を持った職員が介助後に浴室の清掃や洗濯物の片付けまで担当しているケースがほとんど。でも、実際には清掃や片づけは有資格者でなくてもできるわけです。そのように、業務を再構築して適正な人材に配分することで、有資格者の満足度も上がりますし、多様な人材の登用にもつながる。そうしたコンサルティングは今後増えていくのではないかと思います。

 

吉野:なるほど。人手不足に関しては、外国人労働者についても話が進んでいると思うのですが、本田さんは外国人を介護職員として登用することに関してはどのようにお考えでしょうか。

本田:必要だと思いますし、将来的には外国人の方々にも働いてもらわないと現場が持たないのではないでしょうか。ただ、日本人の新卒すら育てられない今の体制のままでは、異なる文化・背景を持つ外国人を採用したとしても、結局は現場が混乱するだけでうまくいかないと感じています。日本人を採用する場合と違い、関係機関に支払うお金も必要になりますから、それならまずは日本人に対する待遇や環境を整えた方がいいでしょうし、外国人を登用するのはその後の話かなと。

ただ、既にEPA(経済連携協定)によって現場で働いている外国人の方々を見ていると、みなさんスキルも高くて真面目です。利用者の方々から「あの人がいい」とリクエストがあるくらいなので、きちんと育成できる環境さえ整えば、多くの方に活躍していただきたいと思いますね。

 

吉野:では、最後となりますが、今後の介護業界にどのような想いを持って関わっていきたいかを教えていただければと思います。

 

本田:“人材を適正に活用できる”ようにしていきたいです。現状の介護現場では、“思い込み”で余計なことに人手がかかっているケースが散見されます。また、比較的大きな組織であるにもかかわらず、「組織の在り方」も「人事考課制度」も「連絡体制」も「育成の仕組み」も、何もかもが“何となく”で導入されていることが非常に多いです。

議論や吟味して決めたものではなく、「他社がこうしているからこれでいいだろう」という考えに基づいているものがとても多い。まずは、それらをすべてきちんと適正化することが第一歩なのだろうと思います。

これはお客様にもよくお伝えするのですが、大事なのは「定義を決める」ことではないでしょうか。言葉の定義や役職の定義を決め、組織を動かすために必要な会議体制を再設計する。それだけで組織が生まれ変わることもよくあります。もちろん、それだけで人手不足まで解決するわけではありませんが、少なくとも、それ以前より働きやすい環境ができ、人が育って活きてくる。

介護の現場には、目の前の利用者に対する“想い”を大切にしながら日々働いている職員の方々がたくさんいらっしゃいます。しかし、時にその想いが高じて「何でも人の手でやるべきだ」、「機械に頼るのはよくない」という方向へ突き進んでしまうこともあります。ですが、時代に合わせて新たなテクノロジーやスキルを取り入れることで、よりダイレクトにその想いを利用者さんに伝えることができるようになるはずですし、そうやって想いをうまく転換できる組織が今後も生き残っていくのだと思います。

組織を変えることで一人一人の力が倍数的に膨らんでいく、そんな体制をできるだけ多くの組織で作っていければと考えています。

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

介護事業をめぐる専門的な制度設計から現場で働く介護職員の想いまで、実に幅広いお話を聞かせてくださった本田さん。10年以上にわたり介護の現場に寄り添ってこられた本田さんだからこそ語れる視点からのお話に、時間があっという間に過ぎてしまいました。

今や世界で最も高齢化の進んだ国となり、医療・介護業界の変革も待ったなしの日本。そんな社会情勢を踏まえ、みらいワークスが提供している医療系プロフェッショナル人材のための新マッチングサービスヘルスケアプロフェッショナルズ.jp。ご興味のある方はぜひ一度、当社までお問い合わせください。