“医療×IT”で業界を変える!医療業界の変革を目指す不屈の起業家の新たな挑戦

作成日:2018年6月18日(月)
更新日:2018年8月10日(金)

社会課題でもある「医師不足」の解消へ。古き慣習が横たわる医療業界でITを武器に業界の変革を目指す。

みらいワークスがお届けする「プロフェッショナリズム」、今回のインタビューは林裕尚さん。
大手コンサルティングファームを経て、「遠隔画像診断」を手掛ける企業で取締役に就任。その後、ご自身でオンライン診療ビジネスを立ち上げた林さん。2018年4月の診療報酬改定によりオンライン診療の事業が困難に。そんな逆境においても前向きに未来を見据える林さんに、医療ビジネスを志したきっかけや、医療業界の抱える課題など、さまざまなお話を伺ってきました。

林 裕尚

今回のインタビューにご協力いただいたプロフェッショナル人材・コンサルタント

東京大学大学院情報理工学系研究科修了。在学中、エンジニアとしてヘルスケアベンチャーに参画。新卒でボストンコンサルティンググループに入社。2011年より遠隔画像診断の国内トップシェアのドクターネット社取締役として、遠隔医療の課題解決や組織づくりに没頭。2015年12月に株式会社メディボヤージュ創業。   ◆株式会社メディボヤージュ:http://medivoyage.co.jp/#  

医療・ヘルスケア案件
 

林 裕尚

大学時代のアルバイトをきっかけに医療ビジネスを志す

 

オンライン診療ビジネスを手掛けていらっしゃる林さんですが、医療の分野に興味を抱くようになったきっかけは何だったのでしょうか?

林さん(以下、敬称略):大学在学中に医療系のベンチャー企業でエンジニアとしてアルバイトをしたことがきっかけでした。初めから医療系のビジネスに興味があったわけではなく、エンジニアとしての経験を積むためのアルバイト先を探す中で、たまたまご縁があったのが医療系の会社でした。

大学卒業後に就職したボストンコンサルティンググループにおいても医療分野に興味を持ち続けていましたが、そうした案件はほとんどありませんでした。そういう意味では、社会人として医療分野のビジネスに携わったのはボストンコンサルティンググループを退職してから2社目にあたる転職先が初めてでした。

 

その会社では医療分野のどのようなビジネスに携わっていらしたのですか?

林:「遠隔画像診断」です。医療機関からCTやMRIの画像を送ってもらい、日本各地の手の空いている放射線科の先生方に画像診断をしていただき、その診断結果のレポートをまた医療機関に戻すという流れで、医療機関と個人の医師をつなぐハブとしての役割を担っていました。

 

創業者が15年ほどかけて事業基盤を完成させ、既に収益が安定している状態でエグジットした会社だったので、そのタイミングで取締役として参画する自分の役割はさらなる売上拡大サービスの品質向上だと理解して事業に取り組みました。

 

特に注力したのはサービスの診断精度の向上でした。そもそも医療現場に放射線科医が足りないからこそ遠隔画像診断のニーズが存在するわけですが、それを遠隔で請け負う放射線科医の多くは日中に医療現場で働いており、すきま時間や早朝・深夜の時間を捻出していただいていました。つまり、医師に多少の無理を強いて成り立っているサービスでした。そこで、遠隔画像診断を担ってくれる放射線科医を増やすとともに、放射線科医の負担を減らすために社内の医師や医療スタッフが画像診断の事前処理や診断内容の事後フォローを行なうなどのさまざまな仕組みを設けて、質の維持・向上を図るといった取り組みに注力しました。

 

 

質と量、いわゆる提供サービスの品質と売上・利益のバランスを取りながら事業を拡大していくのは難しいテーマですね。その時のご経験は、現在のご自身のビジネスにも活かされているのでしょうか?

林:そうですね。当時は“IT”を活用した“遠隔医療”と言いつつも、結局は少しでも多くの画像診断を担ってもらえるように先生にお願いしたり、レポート内容に問題があって医療機関に謝罪に行ったりとフェイストゥフェイスの仕事がほとんどであり、どんなにITを活用したとしてもそのフェイストゥフェイスに労力を費やさなければならないことを理解できたのは、起業前に知っておいてよかったことの一つでした。「遠隔画像診断」にせよ「オンライン診療」にせよ、システムは作れても実際には現場のオペレーションとの“接続”こそが難しく、最終的にはそこがボトルネックになってしまいます。オペレーションは医療機関ごとに異なるため、現状ではやはりフェイストゥフェイスで時間をかけて、オペレーション含めて解決するしかないというのが実際ですね。

 

「医療の質」という点に関しても、自分で起業してみて改めて「質を担保できないフェーズもある」ということを痛感しました。事業が立ち上がるまでの過程では、「質について思うところはあるものの割り切るしかない。まずは0を1にする」という段階が必ずある。私が大変お世話になった遠隔画像診断の会社の創業者だった方は、そのフェーズを見事にやり遂げたという点で経営者として非常に素晴らしいと思いますし、起業した今、改めて尊敬しています。

 

オンライン診療ビジネスで起業するも規制強化により断念

 

現在、林さんが手掛けていらっしゃる「オンライン診療」について具体的に教えてください。

林:患者さんがテレビ電話を使って診察を受けられるシステムです。専門の異なる医師同士をオンラインでつなぐシステム、例えば内科の先生が外部の放射線科の先生とオンラインで相談するような遠隔診療の仕組みは以前からあったのですが、医師と患者をつなぐ遠隔診療は2015年8月に厚労省から出された通知によって事実上初めて解禁されました。それを受けて2015年12月に起業しました。ただ、実のところ、今年4月の診療報酬改定でオンライン診療は実用性の低いものとなり、医療機関向けサービスとしてはマネタイズが難しい状態になってしまいました。そのため、弊社も今てんやわんやで・・・。オンライン診療ビジネスは断念し、別のビジネスを進めているところです。

 

 

起業から3年近くかけて取り組んできた事業が、国の方針変更で継続できなくなるとは・・・。オンライン診療事業は断念とおっしゃいましたが、次のチャレンジは何を計画されているのでしょうか?

林:私が解決したい課題は「医師不足」「医師の自己犠牲的な働き方」です。医師は偏在していたり、産休育休や留学中で休眠していたり、埋もれている医師リソースはまだまだあります。そのリソースを集めて忙しい医師や医療機関を助ける仕組みを遠隔画像診断以外でも作りたいと思っています。その具体策を考えていたところに、目の前にそれっぽいオンライン診療が出てきたので飛びついてみましたがダメでしたね(笑)。ただ、オンライン診療を手がけたことで、私の想いを理解し支えてくれる先生や医療ベンチャーの仲間と出会えたという点では、この3年間は決して無駄ではなかったと思っています。

 

医療機関の内側を知ることで、それまで見えていなかった課題に気付くこともできました。医療機関では、「患者さんを治す」という“超アナログ”な行為と、「それを診療報酬に当てはめる」という“ややデジタルな”行為に加えて、オンライン診療に代表されるような“超デジタル”への対応が求められるようになってしまっています。医療機関におけるこれらの超アナログ・ややデジタル・超デジタルを上手く繋げてあげることを次のチャレンジにしようと考えています。先生方は目の前のアナログで手一杯なところに、さらにスマートフォンで患者さんとオンライン診療をしろというのも無理な話だったのだと、今になってよく分かりました。

埋もれている医師リソースの活用はさらにその後になりそうですが、その想いに変わりはありません。社会を良くするための仕組みを作っていきたいですね。

 

医療業界を変えるべく再挑戦する日々

 

そうすると、今は再挑戦への助走期間ということでしょうか?

林:そうですね、まさに今は仕込みの時期ですね。起業しているので、正直なところ何をしていても誰にも怒られないのですが(笑)。ありがたいことに出資してくださっている投資家の方々もいらっしゃるので、仕切り直して頑張りたいと思っています。

 実は今、週に二日はクリニックの事務員として現場で働かせていただいています。ずっとIT畑で仕事をしてきて、“医療×IT”を謳っているものの机上でしか知らないことも多かったので、オンライン診療を断念した今、クリニック運営をゼロから勉強してみようと思いまして。

 

 

えっ!?事務員としてですか!?どの業界でも「現場を知っておいて方が良い」と思っても、それを実行に移すのは難しいと聞きますが、本当に現場で働かれている実行力は素晴らしいですね。

林:最近でこそビジネスを手掛ける医師も増えてきていますが、それもごく一部で、いまだに医療の分野にはビジネスパーソンがほとんどいません。企画ができる人材も少ない。ですが、これからはビジネス分野から医療分野に入っていくケースがもっと増えてもいいのではないかと思っています。

 

医療機関の最大の目的は患者さんを治すことであり、基本的にはそれを成せれば良くも悪くも経営は成立するように診療報酬ができています。「悪くも」というのは、患者さんを治す行為以外の業務については、それが多少不便であっても改善するインセンティブが働きにくいように思えるからです。ここを改善することで、より多くの患者さんが治ったり、より早く治ったり、なんてことになれば、多くの医療機関が改善を求めるようになるのではないでしょうか。そのためにも、医療分野にビジネスパーソンが入っていく意義は大きいと感じています。

 

私はたまたま遠隔画像診断という間口から医療分野に入ることができましたが、医療分野は他の業界と比べると入るための間口が少ないのです。想いはあってもビジネスの世界から医療の世界に入り込んでいくのは難しいかもしれません。みらいワークスさんには、医療業界への興味や想いを持っている方が医療業界に入れる間口を作っていただきたいですね!初期の育成なども含めて是非私も協力させていただきたいと思っています。

 

 

非常に興味深いお話ですね!お話をお伺いしていると、制度の面でも文化・環境の面でもなかなか一筋縄ではいかない業界に感じますが、だからこそビジネスとしての面白さもあるのかもしれませんね。

林:そう思います。私もITで医療業界を変えたいと思っている反面、ITを導入したからといってすぐにガラリと変わるわけではないということも日々感じていますから。先は長いですが、慌てずじっくり取り組んでいければと思いますね。

 

 

本日は貴重なお話をありがとうございました!

3年という年月をかけて取り組んできた事業を断念せざるをえなくなったにもかかわらず、前向きに未来への展望を語ってくださった林さん。業界全体を俯瞰して、解決すべき課題を正確に捉えているからこそ、事業ストップというハプニングにも動じずに前に進む勇気を持ち続けられるのだなと感じ、視座を高く保つことの大切さを改めて実感させられるインタビューとなりました。

「時間もできたし」と、現場を知るために医療事務のお仕事にも取り組んでいらっしゃるというお話には私たちも驚きましたが、林さんの行動力に勇気づけられた読者の方も多かったのではないでしょうか。今後も医療業界に不屈の精神で切り込んでいく林さんを、私たちみらいワークスも引き続き応援して参ります。

 

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