経験曲線の活用方法4つと効果が出やすい業種
作成日:2021/01/17
経験曲線とは、ある製品の製造や作業を繰り返すことによって、単位あたりのコストが下がっていく現象をグラフ化した曲線のことです。現在は経験とノウハウが蓄積されることにより、あらゆるコストを減少させる効果があるとして製品の製造部門だけではなく、販売やマーケティングなどの分野などさまざまな業種において用いられています。ただし、一定の業種や成長速度によっては経験曲線の効果が表れにくいことがあり、経験曲線を用いた経営戦略には業種・規模・分野などに見極めが必要です。今回は、経験曲線とは何か、効果的な活用方法についてわかりやすくお伝えします。
目次
■経験曲線のポイント4つ
(1)人的作業がメインの業種に適する
(2)作業経験値が影響する
(3)過剰生産はマイナスになる場合がある
(4)技術革新の多い業種には不向きといえる
■経験曲線の活用方法4つ
(1)新規事業参入時の参考
(2)業界構造の分析
(3)製品の価格設定
(4)他社サービスとの比較
■経験曲線を活用しやすい業種4選
(1)製造業
(2)小売業
(3)サービス業
(4)接客業
経験曲線が発見された背景
第二次世界大戦中から、アメリカの空軍基地にある工場では航空機の生産がさかんに行なわれていました。この時、飛行機の生産量が倍になると、生産効率が数十%ずつ上がっていく観測結果から学習曲線が発見され、のちに経験曲線理論が生まれるきっかけとなりました。
生産性と労働コストの関連性は民間企業でも重要視され、1960年代にBCG創始者の1人、ブルース・ヘンダーソン氏が数千に及ぶ製品の分析を経て、経験曲線理論を発表しています。
学習曲線との違い
経験曲線の前身である考え方に、「学習曲線」というものがあります。学習曲線とは、労働者の学習や反復作業による効率の上昇をグラフ化した曲線です。
一方、経験曲線には進行状況や効率だけでなく、全体的なコスト削減も含まれます。労働者の学習による作業の効率化や生産設備の改良、コストが削減できる資源の採用、仕入れ先の変更など、あらゆる要因でのコストパフォーマンス向上効果をあらわしたのが経験曲線なのです。
経験曲線のポイント4つ
経験曲線はさまざまな産業の観測とデータの積み重ねで発見された理論ですが、その正確な仕組みは解明されていません。経験曲線を利用したコストの削減を狙うには、この現象が発生する要因や状況を理解しておく必要があります。
(1)人的作業がメインの業種に適する
経験曲線は、労働者の経験則による影響が大きいといわれています。特定の作業を繰り返すことでその作業の専門化が進み、作業の効率化につながるのです。
このため、人的作業をメインとした産業のほうがより有利に経験曲線を活用できる傾向にあります。同時に労働環境の向上をはかり、自動化システムの導入などを行なうことで、より労働者の生産効率を上げることができるでしょう。
(2)作業経験値が影響する
前述した通り、経験曲線には作業経験値が影響するため、長期での累積生産量を積み上げることで、コストを削減できる可能性が高まります。
作業する労働者の学習のみならず、実体験に沿った作業ラインの効率化や仕入れ先の変更も、企業全体の経験値となり得ます。これらにより、効果的なコスト削減につなげることができるでしょう。
(3)過剰生産はマイナスになる場合がある
経験を積ませるための過剰な生産は、市場の変化などによりマイナスにつながる恐れもあります。消費者のニーズの移り変わりや、製品の需要と供給を見越した生産バランスを取ることが重要です。
対象とした製品の普及率や、後発企業の参入などに対して注意する必要があるでしょう。
(4)技術革新の多い業種には不向きといえる
進化が速い製品や、生産工程で新しい技術が入ってきやすい業界では、それまでの学習や経験がリセットされるため、経験曲線効果が有効に使えない場合もあります。
生産技術が全く違う製品には、過去の経験曲線は参考にできません。このような業界での過剰生産はマイナスにつながりやすいため、リスクを考慮しておきましょう。
経験曲線の活用方法4つ
経験曲線を有利に活用するには、製品の参入期から衰退期まで、時期に合わせた戦略をとるのがポイントです。
製品の参入期はコストが高く、成熟期に入ればコストを下げながら利益を上げることが可能になるでしょう。経験曲線を使って、競合他社との競争に打ち勝つためのポイントを解説します。
(1)新規事業参入時の参考
経験曲線効果が出やすい事業への早期参入は、のちに低コストでの生産が可能になり、利益を上げやすくなります。
経験曲線は長期での生産による経験でコストパフォーマンスが上がるため、先に事業参入した企業が有利になります。後発企業は、参入時から価格競争や生産技術の面で不利な状況となる可能性が高いでしょう。
新規事業の参入時には、競合他社と異なる商品カテゴリを検討すれば、競争を避けて市場での立場を有利にできます。
(2)業界構造の分析
過去の経験曲線は業界全体の予測や分析にも利用できるといわれています。たとえば、ディスプレイなどの新技術が次々と投入される電子機器業界の場合、注目される新たな技術を取り入れようと、競合他社が新世代製品を開発する傾向にあります。このため、定期的に新世代製品の供給が過剰になり、値崩れを起こしてきました。
こういった現象は昔から業界全体で定期的に見られるため、下請け会社や部品メーカーに新世代製品にも対応できる技術があれば、あらかじめある程度のコストを算出することができると言えます。
(3)製品の価格設定
競合企業との価格競争の際にも、経験曲線をもとに製品の価格を設定することができます。
同じ商品カテゴリで他社が新規参入してきた場合、生産を始めたばかりの他社は単位コストが高い状態となっています。この時すでに自社製品の単位コストが下がっている場合、製品の価格を下げれば他社も価格を下げる必要が出てくるため、価格競争の面で有利なポジションに立てる可能性が高くなります。
他社がマイナスを出す価格まで下げれば、そのまま市場から撤退させることもできます。価格競争において、経験曲線の活用は非常に有効であるといえます。
(4)他社サービスとの比較
経験曲線は人的作業において影響を強く受けやすいため、製品の生産のみならずサービスの向上や教育にも活用できます。他社がどの程度のレベルのサービス提供によって利益を出しているか、また、サービスに関する教育コストはどの程度が有効かを経験曲線から予測できるでしょう。
従業員のパフォーマンスを上げるための教育時間と、生産性を上げる経験や労働時間のバランスを取ることが重要です。
経験曲線を活用しやすい業種4選
実際に経験曲線を活用しやすい、人的作業が多く含まれる業種にはどんなものがあるのでしょうか。ここからは、経験曲線を活用しやすい業種「製造業」「小売」「サービス業」「接客業」についてご説明していきます。
(1)製造業
製品の生産は反復作業によって労働者の習熟が見込めるため、製造業は経験曲線を活用しやすい業種といえます。
労働者の学習だけでなく、労働環境の向上や生産ラインの効率化、原料のコスト削減の効果が出やすい業界です。過去の経験曲線のデータも参考にすれば、投資額の目安にも大いに役立つでしょう。
(2)小売業
人的作業が多い小売業でも、経験曲線理論は有効に働きます。
小売業での業務はほぼ人の手によるものであるのが現状です。創業が早く来店数が多い店舗ほど、さまざまな経験を積む機会が増え、レジ業務や商品の陳列、季節の売れ筋商品の見極めなどタスクを早急に消化できます。
また、人的作業をセルフレジなどの自動化システムに変えたり、チェーン店の売れ筋商品をデータ化し共有したりすることで、さらなるコスト削減につなげることができるでしょう。
(3)サービス業
サービス業では、世界情勢に合わせて他社が手を付けていないサービスを新たに始めることで、市場競争を避けながら利益を上げることができます。
近年では、おこもり需要と呼ばれる非接触型のサービスの普及が急速に進みました。飲食宅配サービスや動画配信、小売業のEC化など、業界全体にデジタル化への変化が見られます。
環境の変化に合わせていち早く新たなサービスを始めることで、企業独自の経験曲線を描くのも、有効な経営戦力となるでしょう。
(4)接客業
人的作業の最たるものが接客業といえますが、日本では接客業を含むサービス業での低生産性は深刻な問題になっています。良質なサービスを提供しながら効率を上げるには、人材に教育を施し、労働環境を向上させて定着させる必要があります。
人件費や教育コストを安易に削減し、従業員の労働の質を下げてしまっては生産性を上げることができません。実際に現場で働く従業員に対し、事業開始前から丁寧に業務内容を教育し、経験を積ませながら現場に定着させることが重要です。
経験曲線とはどんなものか理解を深めよう
経験曲線の効果は、単純に経験を積んで効率化をはかるだけでなく、企業全体のコストパフォーマンスの向上に活用できます。
また、従業員のモチベーションを上げるために経験曲線効果を教育の一部に取り入れ、企業全体で共有するのもおすすめです。経験曲線を有効活用して市場で勝ち残るため、独自の経営戦略を練り上げていきましょう。
(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)