働き方改革はオフィスから? 企業のオフィス改革による新しい働き方とは
作成日:2017/04/21
机などの配置でコミュニケーションを生む
2016年10月の本社移転に伴い、オフィスを一新したヤフー株式会社。特徴的な変更点は、社員の机をジグザグにレイアウトしたことです。一般的なオフィスでは、机は島型に配置されることが多いですが、ヤフー株式会社ではこれをジグザグに並べ、わざと歩きづらい配置にしています。
そうした配置ではまっすぐスムーズに歩くことができず、どうしても「机に突き当たったら曲がる」「回り道をする」といった移動になります。そして座席は、好きな席を選択するフリーアドレス制。毎回決まった席ではないため、移動経路もその都度変えざるを得ません。
そうなると、オフィスを歩くだけでもふだん接点のない人や部署と思わぬ出会いをすることもあります。そうして人が交わる“交差点”が増えれば、偶然のコミュニケーションも自然と生まれるようになるというわけです。
フリーアドレス制はさまざまな会社で導入されていますが、これに机の配置を組み合わせたのが今回のヤフー株式会社の取り組みのユニークな部分です。同社が検討段階で行なったテストでは、この配置によって、社員の歩く量とコミュニケーションの量が2倍になるという効果を確認できたそうです。
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効率よりも出会い コラボレーションからイノベーションへ
システム開発を手掛けるSEやエンジニアのように考えたり手を動かすことに集中したいと考える人には、ヤフー株式会社のレイアウトは少し不安に映るかもしれません。しかし、1人の業務に集中しやすい席ももちろん用意されており、ここぞというときには使い分けられるようになっています。
とはいえ、オープンな席で仕事をすることで、コミュニケーションに加えて社内のさまざまな部署の動向への視野も開けることになるのは、SEやエンジニアにとっても決して無駄ではありません。
このオフィス改変でヤフー株式会社が向上させたいと考えたのは、効率よりもコミュニケーションです。いろいろなアイデアを持った社員同士の出会いを増やしてコラボレーションを増やし、そこからイノベーションを起こしやすい土壌をつくる――ことです。
並行して行なわれたコワーキングスペースの設置では、社員だけでなく社外の人にも利用してもらえるようにすることで、社内外のコラボレーションを活性化しようという狙いが込められています。社内×社外の“交差点”から生まれるイノベーションに期待というわけです。
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創造のためには“いのちをだいじに”
スマートフォンゲームを開発・運営する株式会社コロプラは、全社員のおよそ8割が、エンジニアやデザイナー、ディレクターなどのクリエイターです(2016年5月時点)。どうしても長時間パソコンやスマートフォンに向かい合って仕事をすることが多く、目や肩を酷使する反面、運動量が減りがちになります。
そこで同社が設けているのが、「Kuma SPA(クマスパ)」と名付けられたマッサージルームです。国家資格を有するプロのマッサージ師が常駐し、就業時間内に無料で施術を受けることができるのです。忙しいなかでもマッサージでリラックスできたり、体をほぐしてもらえるというのはありがたいことでしょう。そして、この福利厚生施策には、副次的な効果もあります。
このマッサージルームは常に予約が殺到しており、施術を受けるには空き状況や自身の体調などを考えながらあらかじめ予約を入れておくことになります。そのため、時間に追われて仕事に没頭しがちなクリエイターも、計画的に仕事を調整して体のメンテナンスを受けることができるようになるといいます。
加えて、「Kuma SPA」では1人ずつにカルテが用意され、身長や体重といった基本情報から、これまでにかかった病気や施術時の症状、施術内容などが事細かに記録されています。施術の前には血圧測定も行なわれ、その結果も残されることになります。そうしたことから、自分自身でも体のことをきちんと考えるきっかけになるのです。
そのほか、社内で無料提供する飲み物をすべて無糖にしたのも、社員の健康を考えてのこと。株式会社コロプラでは、ヒット作を生み出し続けるためには社員が健康で働けることが必要と考え、不摂生になりがちなものづくりの現場でも社員が長期間快適に働けるように、健康増進をサポートしているのです。
豊かな生活を通して「人間にしかできない仕事」を
先に挙げたヤフー株式会社でも、オフィスと制度改革の合わせ技で社員の健康増進を図っています。例えば、新オフィスには仮眠スペースが設置されましたし、移転前から設置されていたマッサージ設備も移転後はさらに拡充されました。社員食堂は席数も増え、健康に気をつけたメニューも提供されています。
すぐれたイノベーションも、社員1人ひとりが元気で働けてこそ。食事や休息に配慮しやすいオフィスで働く人が健康になれば、パフォーマンスをより発揮できるというわけです。
ヤフー株式会社は週休3日制の導入を検討しているとされていますが、これもそうした取り組みの一環です。ヤフー副社長執行役員最高執行責任者の川邊健太郎氏は、「データドリブンな企業になることを目指して、人工知能(AI)や機械学習で生産性を上げることを考えている」とする一方で、「社員には人間にしかできないことをしてもらいたい。人間が創造性を持った仕事をするための週休3日にすることを目指している」と語っています。
テクノロジーの進歩によって、さまざまな仕事は将来その座を機械に譲ることになるのではないかといった話も目にするようになりましたが、「人にしかできない仕事」というのは今後の働きを考えるうえで重要な視点のひとつでしょう。
生産性やワークライフバランスの向上のためには、働く環境はとても重要です。とくにSEやエンジニアの場合は会社以外の場所でも仕事をしやすく、むしろ通勤のストレスや移動時間がない自宅のような環境のほうが集中できるという人も少なくないでしょう。フリーランスという働き方を選び、ストレスフリーな働き方を自身で考え構築するという方法もあります。そうした人からみれば、オフィスでの仕事にメリットを感じづらかったり、オフィス勤務を前提とする就業スタイルには抵抗を感じるかもしれません。
しかし、オフィスで仕事をするということには、在宅ワークやテレビ会議では得がたいメリットも潜んでいます。それが人が集うことで生まれる「偶然の出会い」です。
ヤフー株式会社や株式会社コロプラの施策は、オフィスで仕事をすることを前提としていますが、その効果を最大限に高めるための工夫が盛り込まれています。また、制度改革も組み合わせることで、働き手の多様性を吸収し、新たな働き方を創出していこうという意気込みを感じることができます。
オフィスで働く意義と、多様な働き方を可能にする仕組み――その両輪がうまく回ることで、社員も働きやすくなり、会社も働き手とともに成長を続けていくことができるのかもしれません。
(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)