トップ棋士にもひけをとらない囲碁AIの強さ

作成日:2017/03/06

 

“最後の砦”囲碁で起こった敗戦

“最後の砦”囲碁で起こった敗戦

近年、人工知能(AI)の研究は急激に加速し、さまざまな分野でAI技術の活用が進んでいます。それは、チェスや将棋などの対戦ボードゲームも例外ではありません。

 

将棋の世界でプロ棋士とAIが対決する「電王戦」は毎年多くの注目を集めていますが、目覚ましい進化を続けるAIの実力にはトップクラスのプロ棋士でも舌を巻き、苦闘するほどまでになっています。

 

そうした対戦ゲームにおける人間対AIの戦いのなかで、囲碁は“最後の砦”とされてきました。戦略的思考が必要とされ、経営者などにも古くから愛されてきた囲碁は、盤面が非常に広いうえに打つ石の価値も状況によって変化します。そのため、状況判断がとても難しいのです。したがって、AIが最善の“次の一手”を計算して判断するのも難しいこととされ、AIがプロ棋士に勝つのはまだ10年以上は先のこととみられていました。

 

しかし、2016年、とうとう囲碁でもプロ棋士がAIに敗れる事態が起こりました。しかも、敗れたのは、日本と韓国のトップ棋士――この出来事は、世界に衝撃を走らせました。

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韓国のトップ棋士を4勝1敗で破ったAlphaGo

韓国のトップ棋士を4勝1敗で破ったAlphaGo

「AlphaGo(アルファ碁)」とは、Google DeepMindによって開発されたコンピュータ囲碁プログラムで、Google Cloud Platformのコンピュータ資源を使って学習しています。2015年にも欧州のチャンピオンをハンディキャップなしで破っており、囲碁AIのなかでもプロ棋士に勝利した“先駆者”といえる存在です。

2016年3月、韓国のトップ棋士である李世ドル(イ・セドル)九段がこのアルファ碁との五番勝負に挑みました。李九段は、セオリーにとらわれない独特な棋風で「囲碁界の魔王」とも呼ばれるほどの実力の持ち主。

 

韓国のみならず世界でもトップクラスの棋士です。そんな李九段とアルファ碁の戦いと聞けば、誰もが李九段の勝利を予想し、李九段自身も勝負を前に「アルファ碁は驚くほど強く、進化し続けていると聞いたが、勝つ自信はある」とコメントしていました。ところが結果は、4勝1敗でアルファ碁の勝ち越しに終わりました。このことは、衝撃という言葉では言い表せないほどの大きな出来事となりました。

 

日本の囲碁界からも、「アルファ碁の強さに驚いた。コンピュータなのに、感情が入っている気がしたくらい」「アルファ碁は1局ごとに強くなっていくようだった。反対に、李九段はどんどん疲れていっている感じ」「従来のコンピュータは接近戦が強かったが、アルファ碁は大局観があることがすばらしい」といったコメントが相次いで挙がりました。

 

日本のトップ棋士と互角の戦いを遂げたDeepZenGo

日本のトップ棋士と互角の戦いを遂げたDeepZenGo

同じ2016年の11月、今度は日本のプロ棋士対日本製囲碁AIの三番勝負「囲碁電王戦」が行われました。対戦したのは、日本のトップ棋士である趙治勲(ちょうちくん)名誉名人と、国産コンピュータ囲碁ソフトウェアの「DeepZenGo(ディープ・ゼン・ゴ)」です。

 

趙名誉名人は、韓国出身ですが6歳のときから日本の囲碁界で目覚ましい活躍を続け、大きなタイトルを数えきれないほど獲得した実績があります。一方のDeepZenGoは、ドワンゴ主導のもと、日本棋院や東京大学とのプロジェクトで開発されたソフトウェアです。

 

日本最強とされる囲碁ソフト「Zen」をベースに開発されており、アルファ碁に対抗できるソフトウェアを目指すとされています。この三番勝負は、2勝1敗で趙名誉名人が勝負を制する結果となりましたが、DeepZenGoも非常に善戦しました。そして、趙名誉名人をして「今まで何を学んできたのかと疑問に思うほど、Zenは序盤の感覚が違う」と言わしめる戦いぶりで注目を集めたのです。

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新たな期待が高まる世界大会へ

新たな期待が高まる世界大会へ

このように、2016年は囲碁の世界においてもAIの実力を知らしめる年となり、その衝撃は大きいものがありました。しかし、それは決して悲観的なものではありません。アルファ碁やDeepZenGoが打った手は、従来の棋士の発想にはない、いわば常識外の判断です。ところが、最終的にはそれが勝利につながっている――つまりそれは、従来のセオリーを疑うこと、まだまだ研究する余地があるということを意味していたのです。多くの棋士にとって、強い囲碁AIの出現は「碁はまだまだ発展できる」という明るい未来を感じさせるものだったのです。アルファ碁と戦った李九段も「今回負けたのは李世ドルの負けであって、人類の負けではない」とコメントしていますし、「囲碁電王戦」での三番勝負を終えた後の趙名誉名人とDeep Zen Go開発者の加藤英樹氏の感想戦(対局の振り返り)も未来指向を感じさせるとても印象的な場面でした。

そしてそうした期待は、日中韓トップ棋士と囲碁AIによる世界大会「ワールド碁チャンピオンシップ」に注がれることになります。この世界大会は、3月21日(火)~23日(木)に開催予定で、日本・中国・韓国の各国棋院の代表棋士と囲碁AIが覇を競い合います。日本からは、2016年に前人未到の七冠独占を実現した井山裕太棋士とDeepZenGoが参加します。この世界大会は、ドワンゴ運営の動画サービス「ニコニコ生放送」にて、全対局生中継されます。

 

AIは、近年のビジネスで非常に注目されている最新テクノロジーのひとつです。その活用にはさまざまな期待が集まる反面、「近い将来、人間の仕事の多くがAIがに奪われてしまうのではないか」といった不安要素としても語られることも増えています。その点でいえば、囲碁におけるAIの“勝利”は遠い世界のことではないかもしれません。しかし、先に述べたように、囲碁の世界においては強いAIの登場は、“いいライバル”として歓迎されています。Zen開発チームの加藤氏も、「アルファ碁を敵ではなくライバルとし、人間が強くなるために必要とされる存在にまでソフトのレベルをあげることも研究者の役割」と話しています。

もともと囲碁は、経営と相通じるところがあるといわれます。加えて、AI・ディープラーニングの発展・活用という面も、今後のビジネスを考えるうえで押さえておきたいテーマです。AIの活用事例としても、勝負の行方を見守る意味でも、3月の世界大会は注目に値する一戦といえるでしょう。

 

(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)

 

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